第18話 お姉さんからの提案
俺はこの世界に転生した。そして女神様から【ダメージ調整】というチートスキルを授かった。だから異世界転生作品の主人公になったような気分だった。
だがここにきて思わぬ伏兵が出現。その名はエミル。
Aランクパーティーから無能だと言われ追放される。でも実は成長の仕組みが他と違うだけで、最強かもしれない。まるで追放ものの主人公みたいだ。
追放ものといえば『ざまぁ』だよな。必ずセットになっていると言ってもいい。だから根強い人気があるのだろうか?
詐欺師である金髪青鎧パーティーにざまぁできる日を楽しみにしていよう。
朝10時。俺達は今日もギルドを訪れた。それから掲示板に貼られているモンスター討伐の依頼を受けるため、俺は一人で依頼書を受付のカスミさんに持って行った。
「リクトさん、毎日依頼を受けていますけど、体調は大丈夫ですか? 冒険者は体が資本ですからね、たまには休むことも考えなきゃダメですよ?」
「いやぁー、分かってはいるんですけどね。早くランクを上げたいというか、今が頑張り時だと思うんです」
「気持ちは分かりますけど、いざモンスターと戦う時になって力が出ないということになったら、とても危険ですよ。私もそうでしたから」
「えっ? カスミさんって冒険者だったんですか?」
「あっ、私ったらつい。でも隠すようなことではないかな。もう二年も前の話よ」
「どうして引退したんですか?」
まさか結婚とか? そういえばカスミさんの年齢を知らないな。二十代前半っぽいけど。
「私の場合は冒険者に向いてないって思ったからかなー。でも冒険者の大変さは分かったから、何かサポートできる仕事がしたくってギルドの受付に応募したの」
「そうだったんですか」
結婚ではなかったことに、なんとなく俺は安心した。
「はい、受理しました。頑張ってくださいね」
そして俺達がギルドから出ようとした時、依頼書が貼られているものとは別の掲示板が視界に入った。
その掲示板はギルドからの連絡事項などが貼られているもので、ダンジョンの情報やモンスター別の特徴や弱点など、少しでも冒険者が安全でいられるようにという配慮が感じられる。
その中に混ざって、人の顔写真のようなものが載っている紙もあった。
よく見るとそれは手配書で、なんとそこにはあの金髪青鎧達が載っている。
(あいつら指名手配されてるじゃないか)
あんな詐欺師達をいつまでも放っておいては、ギルドの威信に関わる。きっと総力をあげて行方を追っているのだろう。早く捕まりますように。
それから三人でFランクダンジョンへ潜った。Eランクへ昇格するには、期間内にFランクのモンスター討伐依頼を決められた数だけ達成すればいいそうだ。なので早ければ一ヶ月もかからずにEランクに昇格できる。
少しでも早く昇格を重ねてカリンカさんに追いつかないと、今のままではカリンカさん自身は何の経験にもならないだろう。
俺はカリンカさんに指導してもらいながら、Fランクモンスターを次々と倒していく。その中で片手剣の扱いにも次第に慣れていった。カリンカさんも片手剣を使っているので、時々お手本を見せてくれる。
使う武器が二人ともかぶっていることについては、おいおい考えるとしよう。
俺だけが強くなっても仕方ないので、エミルのレベルを上げることも忘れない。
「こいつは私が引き受けるからリクトとエミルは休んでて!」
イノシシのようなFランクモンスターを前にして、カリンカさんが言った。
「いえ、こいつも俺がやります!」
「その心意気は大事だけど、さっきからリクトばかりが戦っているじゃないか。そんなに無理しなくてもいいんだよ」
「俺は早く強くなりたいんです。俺だって男なんで、みんなを守りたいなって思ってます」
これは俺の本心だ。この気持ちに偽りは全くない。
「もしかして私までかばおうとしてくれているのかな?」
「確かにカリンカさんにも安全でいてほしいですけど、かばうだなんて、そんないいものじゃないですよ」
これも本心だ。そんないいものじゃない。だって【ダメージ調整】を使ってエミルにヒールをかけてもらうためなんだから。
それってバレるほうが余計に心配させてしまうと思うんだ。特にエミルが知ってしまうと、絶対に止められるだろう。
自分のためにパーティーメンバーがワザと怪我してるなんて分かったら、ヘタすれば泣いてしまうかも。
だから基本的には『無傷』に設定して、最強タンクになる。
そしてほどよく『軽傷』にしながら、エミルのレベルを上げるサポートをする。
変なことをしてるように見えて、意外と気をつかうことなんだよ、これ。
じゃあ始めからそんなことしなきゃいいじゃんって感じだけど、そこはほら、「ヒールをみんなのために役立てたい」というエミルの願いのためでもあるから、エミルのレベルを上げることは必要だと思うんだ。
そして今日は結局、俺が一人で全てのモンスターと戦った。エミルにヒールをかけてもらい、その光景をカリンカさんがソワソワしながら見守るということが、もはや日常になりつつあった。
夜9時。完了報告をするためギルドに戻って来た俺達だけど、二人にはエントランスで休憩してもらい俺一人で受付に行った。
するとカスミさんがまだ受付カウンターに居るじゃないか。ギルドは24時間営業。多分だけどシフト制になっているはず。もしかしてギルドのガリアーノ支部って、ブラック?
「依頼達成しましたー。これが証拠の魔石です」
モンスターを倒した後に残る魔石は非売品。だから店で買うなんてズルはできない。
もっとも、ズルができたとしても冒険者としての経験にはならないから、結果的には何の成長もできない。
「本当に早いわね。依頼は十分な猶予期間があるから、そんなに急がなくてもいいのよ?」
「心配ありがとうございます。カスミさんこそ働き過ぎじゃないですか? まさかこんな時間になってもまだ居るとは思いませんでした」
「心配してくれるの? ありがとう。でもね、今日はたまたまなのよ。急に体調を崩してしまった子がいてね。だから急遽、私が代わりを務めているというわけなの」
「そうだったんですか。カスミさんも体調に気をつけて下さい」
「フフッ、ありがとう。はい、これが依頼達成の報酬よ」
(働くって大変なんだなー)
俺はそんなことを思いながら、エントランスで待つ二人のもとに帰った。
そんな日々が一ヶ月ほど続き、俺とエミルはEランクに昇格した。
これでDランクの依頼を受けられるので、俺達は着実に強くなっていった。もちろんエミルも含まれている。
そんなある日の夜。いつものように依頼達成を報告した俺はエミルとカリンカさんのもとへ向かった。
するとギルドのエントランスで待っていたカリンカさんが話があるというので、俺とエミルとカリンカさんでテーブルを囲んだ。
「私達がパーティーを結成して三ヶ月ほどが経った。そろそろパーティーの拠点を構えてみるというのはどうだろう?」
「それってパーティーメンバーが集まるための場所のことですよね?」
「ああ、そうだよ」
パーティーの拠点とは主に建物のことをさす。要するに家だ。冒険者はいろんな地方に行くから、街ごとに拠点があるパーティーだって珍しくない。いわば別荘みたいな感じ。
世界有数の大国であるこの国は、土地が十分にあるからそんなことができるらしい。
「それで拠点を構えてどうするんですか? 待ち合わせのために使うとか?」
「そんなこと決まっているじゃないか、住むのさ」
「住むって、カリンカさんがですか?」
「違うよ、三人で住むんだよ」
(え? 俺とエミルとカリンカさんで同じ家に住む……?)




