第17話 勘違い主人公
「あっ……!? 何か不思議な感覚がします……! まるで何かが頭の中に流れ込んでくるみたいな」
俺にヒールを使った直後、エミルがそう言った。いきなり女の子が「あっ……!?」なんて言うと、少しドキッとするじゃないか。
「どうしたエミル? 何が流れ込んで来てるって?」
「よく分かりません。ううん、正確にはどう説明すればいいのか分からないんです。でも確かに私の中で何かが変わった感覚があるんです」
「新しい魔法が使えるようになったとか?」
「いえ、新しいというわけではないですけど、なんというか、ヒールの使いかたと言いますか、上手に使う方法みたいな……?」
「前から思ってたけど、ヒールに上手い下手なんてあるのか?」
「私が知る限りは無い、と思います」
エミルが知る限り、か。それならばなんでも知ってるお姉さんに聞いてみよう。
「カリンカさんはどう思います?」
「ミントから聞いた話になるけど、才能は関係あるとしても魔法の効果自体に差が出ることは無いそうだよ」
「なるほど、誰が唱えてもヒールはヒールということですね」
「エミル、何が変わったのか実際に試してみよう。俺にヒールをかけてみてくれ」
そう、これは実験だ。せっかくレベルが上がっても実感できなきゃもったいないし、今後にも役立てることが難しくなる。これは必要なこと。
「わかりました」
エミルはそう言うと、二人とも立ったままでエミルが両手で俺の右手を優しく包み込んだ。もうヒール関係なくエミルの手が柔らかくて温かい。
「ヒール……」
何か言いたそうなカリンカさんに見守られながら、エミルが呟く。回復魔法は緑色の光が出る。ポーションなんかも緑色の液体だ。
ところが何も起こらない。ただただ俺がエミルから手を握られているだけの図。
「それはそうなると思うよ。ヒールは回復魔法だからね、傷ひとつ無い状態でかけても効果は出ないよ。魔力をムダに消費するだけだ」
カリンカさんはホントに何か言おうとしていた!
「すまない、もっと早く言えばよかったね。二人が真剣だったのと、もしかしたらって私も思ってたから、言い出すタイミングが無かったんだ」
「いえ、カリンカさんは何も悪くありません。むしろいつもありがとうございます。ところでエミル、何か変わったことはないか?」
「えっと、ヒールを唱えても少し疲れにくくなったような気がします。なんというか、魔力の消費量が減ったように思えます」
ゲームっぽく言うと消費MPが減ったようなものか? それっていい意味でけっこうヤバい効果のような気がする。そのうち無限に使えるようになったりして。
ともあれ、これでエミルの成長は熟練度による説が濃厚。そのためにはヒールをたくさん使う必要がある。
だけどヒールを含む回復魔法は傷を負っていないと発動しない。逆に言えば発動させるためには誰かが傷を負う必要がある。
普通、ワザと傷を負う人なんていない。言うまでもなく命の危険があるし、軽傷でもケガはケガ。痛い。
なるほど、だからエミルは詐欺師の金髪青鎧のAランクパーティーにいたのにもかかわらず、一向にレベルが上がらなかったわけか。「いつまでも初級魔法しか使えない」って言われてたっけ。
(待てよ……?)
金髪青鎧パーティーのことを思い出した俺は、とんでもないことに気が付いてゾッとした。
「エミル……、ちょっとツラいことを思い出させることを聞くが、俺と出会った時にエミルが入っていた金髪青鎧パーティーにいた時に、ヒールを使ったりしてたのか?」
俺とカリンカさんがエミルにヒールをかけてもらった時、エミルは必ず体のどこかに触れていた。
ということは、金髪青鎧達にヒールをかける時にも、体のどこかに触れていたということに……? 詐欺師だぞ、なんだかそれは許せん! というかカリンカさん以外、誰だとしても嫌だな。俺の勝手な言い分だけど。
「いえ、それが一度も使っていないんです。あの人達はAランクでしたから、そもそもケガをしないというか、強いモンスターと戦うこともなく、戦い自体を避けているみたいでしたから。私のヒールの出番なんて無かったのだと思います」
そりゃそうだ。そんな環境ならエミルが成長する機会なんてこないだろう。
「なんだよ、そんななのにあいつらはエミルを役立たず扱いしてたってのか。本当に金だけが目当てだったんだな」
ともあれ、詐欺師達にヒールを使っていないことが分かって一安心。
「カリンカさん、どうやらエミルはヒールを使えば使うほどレベルが上がるらしいです」
「どうやらそう考えるのが自然みたいだね。私は長く冒険者をやっているけど、そんな話は見たことも聞いたことも無いよ」
そして俺の【ダメージ調整】のスキル。今までは俺の密かな楽しみの一つだったけど、このスキルはエミルのレベルを上げるためには最高のスキルだといえるだろう。
俺、傷付く。エミルに治してもらう。俺、傷付く。エミルに治してもらう。これを繰り返せばエミルは最強のヒーラーになれる……!
なんと合法的(?)にエミルにヒールをかけてもらう理由ができた!
「もしかしたらエミルは、Sランクヒーラーになることだってできるかもしれないね。私はそう思うよ」
「そっ、そんな褒めすぎですよー。私なんてまだまだ駆け出しですから」
「俺もエミルは十分に凄いと思うんだけど」
「リクトさんまで……! でもっ、ミントさんのほうがもっとすごいです。美人で優しくて、Aランク冒険者で、傷口に手をかざすだけで回復できるなんて! 私も早くミントさんのようになりたいですっ」
「確かにミントさんも凄いよなぁー。上級回復魔法は使えるし、身体強化魔法だって使えるし、さすがAランクの——ん?」
(あれ? なんだかさっきのエミルの言葉に違和感が……)
えっと確か、『ミントさん凄い』、『美人で優しい』、『Aランク冒険者』、『手をかざすだけで回復できる』、『早くミントさんのようになりたい』。
(明らかにおかしいのがあるなぁ……)
さすがに俺もずっと不思議に思っていた。だけど深くは考えないようにしていた。
エミルはギルドや宿が無いような村で育ってきたので、世間というものが分かっていなかった。それ故に詐欺に遭ってしまっていたりした。
まさかとは思うが、エミルがヒールの時に必ず俺やカリンカさんに触れる理由って、そうしないといけないと思っているから?
詐欺とはいえ役立たずだと追放されたことといい、実はエミルだけ成長の仕組みが違うことといい、もしかするとSランクをこえて最強になれるかもしれないことといい、ヒールは必ず相手に触れてないといけないと勘違いしてることなど、何かに似ている。
そうだ、まるで異世界もの作品の主人公みたいじゃないか……!




