第16話 このスキルの意味を知る
パーティーを結成してから二週間。俺は順調に『レベル』が上がっていた。だけどエミルはまだ一度も『レベルアップ』していない。
レベルが上がらないということは、高ランクのモンスターと戦えないということだから、冒険者ランクも上がらない。
俺だけ冒険者ランクが上がっても、正直あまり嬉しくない。俺にとってはSランクになるよりも、エミルと一緒のパーティーでいられることのほうがよっぽど大事なんだ。
パーティー内であまりにも冒険者ランクに差があるようだと、受注できる依頼も限られてくる。
Aランクのカリンカさんは、いわば俺達の修行に付き合ってくれているようなもの。せっかくのAランク冒険者なんだから、いつまでもFランクに付き合わせるわけにはいかない。もっと活躍してほしい。
(カリンカさんに相談してみるか)
午後7時にギルドに帰って来た俺達は、受付のカスミさんに完了報告をすると、そのままギルドに併設してあるレストランで夕食をとることにした。
ギルドのエントランスから行くことができるそのレストランはかなり広く、ちょうど夕食の時間帯ということもあり、多くの冒険者で賑わいを見せている。
ギルドに依頼完了報告してから立ち寄る人が多いからなのか、椅子の傍らに大剣や弓・盾などの装備を置いてる人や、テーブルに硬貨を並べてメンバーで分け合っているパーティーなど、異世界ならではの光景が見られる。
テーブル席は四人がけが多い。多分だけど四人パーティーが多いからだろう。俺達は三人だけど座っても問題はないはず。
テーブルと椅子は木で作られた簡素なものでどこか安っぽさがある。きっと荒っぽい冒険者が暴れて壊した時のためにあえてそうしているのだろうと、俺は勝手に結論づけた。
そしてまずは俺がテーブルに着く。隣にはどちらが来てくれるのかなー? なんて期待していたが、二人とも俺の向かい側に座った。
そしてメニュー表の中からそれぞれが注文を済ませる。
異世界に来たばかりの頃、俺の頭を悩ませたのは食事だった。食べる物が無いとかじゃなく、『何か分からない』。
宿に食堂はあったものの、よく分からん肉料理によく分からん魚料理。よくそんな見た目のものを食べようとしたなと思うほどに毒々しい色のフルーツ。
もしかしたらモンスター食材の可能性すらあるそれらを、なかなか食べる気にはなれなかった。宿の人に聞いても知らん生物の名前を言われるだけで、あまり参考にならず。
でもまあ食堂で出すくらいなんだから、きっと大丈夫だろうと思い食べてきた。唯一信頼できたのはパンだった。
そしてあとからこの世界にも畜産という文化があることを知って安心したもんだ。
しばらくするとテーブルの上は注文の品でいっぱいになった。日本風にいうと、野菜炒めや唐揚げ、サラダ。そしてパン。今なら安心して食べることができる。
「カリンカさん、エミルのレベルが上がらないのはどうしてなんですか?」
「うーん、確かに一回くらいはレベルアップしてもいい頃なんだけどね。エミルにはまだそんな感覚がきていないんだろう?」
「はい。なのでその、レベルが上がるということがどういうものか分からなくて」
「もしかしてモンスターにトドメを刺さないといけないとか?」
「いや、必ずしもその必要はないよ。戦闘というものは見るだけでも経験になるものだからね」
「ですよね。ミントさんはきちんと上級回復魔法が使えてましたよね。同じヒーラーなんだからきっとエミルだってレベルが上がるはず」
「ミントはヒーラーだけど攻撃魔法や補助魔法も使えるからね。モンスターを倒すこともあったよ」
「もしかして熟練度のように、魔法を使えば使うほど強力なものを覚えるとか?」
「それは考えにくいかな。もしそうだとしたら、わざわざモンスターと戦わなくても最強になれてしまうよ。同じ魔法を連発したところで、魔力切れをおこして体を動かせなくなるだけだろうね」
「ですよねー。……あれ? そうだとしたら、ミントさんは一体どうやって新しい魔法を使えるようになったんですか?」
「そもそも魔法というものは誰にでも使えるわけじゃない。そして魔法が使える人達は専門学校に通ったり、誰かから習ったり、それなりの努力をしている。そんな中でもレベルが上がったことがきっかけで、新たな魔法が使えるようになる人もいる。ミントは後者だった。そういうのを才能と呼ぶのだろうね」
それってつまりエミルには才能が無いということになる……? いや、だからといってエミルに前衛を任せるのは危険すぎる。
なんだか「やーっ!」と言いながら杖を振り回す光景が目に浮かぶ。そしてモンスターはノーダメージというところまでがワンセット。
「エミルはヒール以外の魔法は何か使えないのか?」
「使えません……。ヒールだってどうして使えるのか分からないんです」
「そうかー」
「まあ明日からも依頼をこなしながら、エミルのレベルが上がる方法を見つけていこう」
カリンカさんはそう言うとパンを口に運んだ。
「お二人とも私のためにありがとうございます! 私、頑張ります」
その翌日。今日はEランクダンジョンに潜っている。冒険者ランクには昇格試験があり、ランクに見合った戦闘能力と知識が必要だ。
そして忘れちゃいけない、エミルヒールの時間。今日の部位は右肩だ。俺はライトアーマーの肩当てを外し、ヒールされる体勢をとった。……ヒールされる体勢ってなんだ?
俺はエミルに言われた通り、その場に座ってその時を待つ。すると背後からエミルの両腕が俺の胸の前まで回され、俺は完全に後ろから抱きしめられているみたいになった。
エミルの体重が少し俺の背中に乗せられており、今はその重さが心地いい。
そしてエミルの柔らかな銀髪が、その穏やかな息づかいが、俺の首筋をそっと撫でる。背中から伝わるエミルの体温が全身に届くかのようだ。
「ヒール……」
エミルのその一言をきっかけに、モンスターの攻撃によってできた肩の傷の痛みがスーッと消え去った。そして肩を優しく撫でられているかのような感覚になる。
「くっ……! ありがとうエミル!」
俺は気持ち良さからくる昇天をなんとか耐えた。どうやら少しはヒールに対する耐性がついたみたいだ。いやヒールの耐性ってなんだ?
今回も静かに見守っていてくれて、何か言いたそうなカリンカさんに「もう大丈夫です」と言おうとしたところで、エミルが驚いたような声を漏らした。
「あっ……!? 何か不思議な感覚がします……! まるで何かが頭の中に流れ込んでくるみたいな」
もしかしてエミルのレベルが上がろうとしているのだろうか? もしそうだとすると、ヒールを使った直後ということになる。
だとすると、熟練度説が現実味をおびてくる。仮にそうだとすると、一見欲望丸出しの俺の行動が意味を持つことになる……?
つまりエミルの成長のために、回復魔法を使う機会を俺が【ダメージ調整】で作り出す。
そしていずれエミルはSランクヒーラーに。どうやら俺の次の目標が決まったようだ。




