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第10話 クセになる

 エミルが住む村まで行く馬車の乗り場へ向かう途中の草原で、俺達はモンスターに出会った。


 二足歩行の緑色のモンスター。その体は硬そうな鱗で覆われており、腰ミノだけを身にまとい、右手には片手剣を、左手には30センチくらいの丸い盾を装備している。


 多分リザードマンだ。意外と大きいな。2メートルくらいあるんじゃないか?

 それにもう一体。リザードマンと背格好こそ同じものの、鱗の色が紫の奴もいる。


「リザードマンとキングリザードか……」


 カリンカさんがそう漏らした。どうやらリザードマンで合ってたみたい。


 それにしてもこの二匹、エミルとカリンカさんだけを見て、細長くて紫の舌を素早く出し入れしている。なんだかよからぬことを考えているんじゃないだろうな?


「リザードマンはEランクモンスターだが、キングリザードはBランクだ。二匹とも私が相手をするから、二人は下がってて!」


 カリンカさんがそう言いながら、まるでかばうかのように俺とエミルの前に立った。そして鞘から剣を抜き両手で構え、静かに戦いの刻を待つ。

 俺より少し身長が低いはずなのに、白銀の鎧を身にまとったその背中はとても大きく見えた。仲間をかばうってカッコいいな!


「カリンカさん、俺も戦います!」


「確かにリザードマンはEランクモンスターの中でも最弱の部類に入るから、Fランク冒険者でも勝てる相手ではあるけど……!」


「大丈夫です、防御には自信があります! それに冒険者として生きるなら、自分より強い相手と戦わなければならない時もあると思うんです」


「そういえば龍の巣でもそんなことを言っていたね。……分かった、戦わないと強くなれない。でも絶対に無理はしないように!」


「分かりました!」


 こういう時こそ【ダメージ調整】の出番じゃないか! よし、傷の設定を『軽傷』にしよう! ここで『無傷』に設定しないのが俺なのだ。


(だってそろそろエミルに回復魔法をかけてもらいたくって……)


 真面目な話、『軽傷』だって十分にチートだと思うんだ。

 例えば剣で体を斜めにズバッと斬られたとする。だけどそれが全て指先を切ったくらいの軽傷になると考えれば、こんな心強いスキルはない。


 エミルを後ろに避難させた俺とカリンカさんは、それぞれの相手と対峙した。


 俺の武器もリザードマンと同じく片手剣。多分だけど剣の扱いは負けてると思う。

 なので下手なことは考えず、手数で勝負することにしよう。そしてなるべくなら敵の攻撃は避ける方向で。


 リザードマンはゴブリンと違って、ただ闇雲に突っ込んで来たりはしないようだ。


 俺は相手の剣の動きを注視しながら、ジリジリと間合いを詰める。そして相手が右腕を上げた瞬間を見計らって走り込み、右上から斜めに剣を振り下ろした。


 ガリッという感触に、俺はリザードマンの鱗の硬さを知った。これは何回も繰り返すことになりそうだ。


 するとすかさずリザードマンが剣を振り下ろしてきたので、俺は後ろを向き急いで走って離れた。バックステップでかわせればカッコいいんだろうけど、今のところ身体能力は元の世界と変わらない。


 その後も何回か同じことを繰り返し、攻撃した時の手応えが次第に大きくなるのが分かった。


 そしてついにその時は来た。俺の反応が一瞬だけ遅れ、背中に剣の重みがのしかかる。それは確かに剣が俺の背中を切り裂いたことを意味していた。


 だけどほとんど痛みは感じない。多分だけど本来なら深い傷を負い、空気に触れるだけでも激痛が走るのだろう。


 エミルの「リクトさんっ!」と叫ぶ声が聞こえる。

 だけど俺はすぐさま振り向き、攻撃が当たって油断しているリザードマンめがけて剣を振り抜きまくった。

 するとリザードマンは倒れ、魔石となった。スキルと手数の勝利だ。


 その直後、カリンカさんのほうでも終わったらしく、息一つ切らせていないカリンカさんが剣を鞘に収めていた。


「リクトさんっ……!」


 エミルの声が近づいて来る。そして俺のもとにたどり着くと、背中に回った。


「背中、見せてください!」


 エミルにそう言われ背中を見せると、「思ったよりは軽そうです。でもとっても痛そう……」と言ってくれた。

 実際、少しヒリヒリはする。服も破れているのだろう。もしスキルがなければどうなっていたことか……。


「このままじっとしていてくださいね」


 そう言われた俺は、じっと待った。すると俺のお腹の辺りに、後ろからそっとエミルの両手が回ってきた。

 そして背中全体が温もりに包まれる。それはエミルの体温だった。後ろから抱きしめられている形になっており、まるでトン……と俺に優しく体を預けているかのよう。


「ヒール……」


 エミルがそう(つぶや)くと、エミルが触れているところから、俺の体全体に優しい温もりが広がった。

 運動不足で凝り固まった筋肉がほぐれ、揉みほぐされているかのような気持ち良さが全身に走る。


 俺と密着したまま、微かに聞こえてくるエミルの穏やかな息づかい、背中から直接伝わる温かな体温、女の子の柔らかな体の感触、本気で心配してくれる心遣い。今はその全てが俺のためだけに向けられている。


 そして背中の傷。軽傷とはいえ傷は傷。多少の痛みはあった。だけどそんな痛みはいつしか感じなくなっていた。


「——ですか?」


「はっ……!?」


「あの、大丈夫ですか? さっきからボーっとしていますけど、やっぱり私のヒールはリクトさんのお体に合わないのでしょうか……?」


(しまった、俺はまたいつの間にか昇天していたのか……?)


「全然そんなことないから! むしろもっとお願いしたいというか」


 危ない危ない。こんなの誰だってクセになるんじゃないか?


「二人はいったい何をやっているのだろうか?」


 俺とエミルの事が終わるまでしっかりと待っていてくれたカリンカさんが、不思議そうにそう言った。


(おや? どうやらカリンカさんも怪我してるみたいじゃないか……)

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