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5.女当主の心内


 鷲津家の女当主、鷲津 響は、地元で評判の良い呉服店の一室で何やら深く考え込んでいた。


(悩ましい、実に悩ましい…)


 彼女の目の前には、赤、緑、黄色の美しい着物が広げられている。見栄えだけでなく、生地の強さも一等で全てかなりの高級品だ。


「どれも彼女によく似合いそうだ。この中から一つなど私には選べん!」

「鷲津様がお選びになるのです。どれも喜ばれますよ」


 鷲津は呉服店の店主の言葉に「そうか。いや、でも…」と曖昧な返答をした。どうやら自分用ではなく誰かへ送る着物を選んでいるらしい。


「ええい!この三つ、全ていただこう!」


 しばらく悩んだ後、呉服店ごと買い占めてしまいそうな勢いで鷲津はそう叫んだ。


(これを彼女に送ったら、喜ぶだろうか。あの娘のことだ、「ありがたいですが、三つも結構です」くらい言ってきそうだな)


 無意識に少女のことを頭に思い浮かべ、自然と笑みがこぼれる。

 彼女は自分でも信じられないほど、この着物を送る相手のことを考えているらしい。


「鷲津様は、その少女のことをとても大切に思われているのですね」


 呉服店の店主に心を見透かされたかのような声をかけられ、「そんなに顔に出ていたか?」と少し気恥ずかしくなる。


「そうだな、実に優秀な娘なんだ」


 そう言い切った脳裏には、哀れな身の上にありながら、真っ直ぐな目をした少女のことが浮かんでいた。


――たった数日前に会ったばかりだというのに。



**********



 その日、鷲津は分家の分家、さらにそのまた分家である荻原一族の屋敷に向かっていた。


(あ〜、つまらん。大体、報告書を読む限り、荻原一族の資金不足は身から出た(さび)だろうに、何故私が助けなければならんのだ)


「まあ、貴族間の力関係(パワーバランス)を維持するのも我ら御三家の役目か…」


 思わず口に出してしまうほど、鷲津は憂鬱だった。


「そろそろ屋敷に到着いたします!」


 馬車の御者席からそう声をかけられ、鷲津は「分かった」と短く返答した。


 程なくして馬車が停止し、扉を開けると必要以上に着飾った男性、女性、少女の三人が門の前で待機していた。

 男性と少女の髪の色は薄い青であり、女性と少女も目元がそっくりであることからして、おそらく三人は家族なのだろう。


「鷲津様、遠路はるばるお越しいただきまして、誠にありがとうございます」

 そう男が言うと、残りの二人も腰を折って挨拶した。


「それでは立ち話もなんですので、早速屋敷へご案内し……」

「鷲津様!わたくし、荻原家の娘の荻原 一花と申します。才力は水・火・風の三つを有しております!」


 男が言い終わるのを待たずして、鼻息荒く少女が割って入ってきた。

 よく見ると、少女が身につけている物は特に高級なものが多い。これで資金繰りが……などとよくぞ言えたものだ。


(おいおい、なんだこの躾のなってない小娘は……)


 鷲津は少し眉毛をひそめた。返答する気にもなれなかったので、わずかに手を持ち上げ挨拶をすると、少女は、さらに話だそうとしたので「中へ案内してくれ」と荻原の当主へ告げた。


 会ってものの数分で、鷲津は荻原一族に対する興味を一層なくしていた。


(さっさと話だけつけて帰ろう)


 そう心の中で決意し、屋敷の門を跨いだ瞬間、鷲津はその考えを一気に変えることになる。


「おい、荻原の当主よ。この術は一体誰が…?」

「術?はて、なんのことでしょうか?」


 そう答える男は、噓をついているようには見えない。本当に知らないのだ。


(これは、面白い!実に面白くなってきたぞ!)


 鷲津は自然と上がる口角を他の者に悟られないようにするので必死だった。


数ある小説の中から見つけてくれてありがとうございます。

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