神鎮師の心得①
【ツクモダン】
「寿司!やた!」
咲卦穂と梶田は寿司屋で合流した。
「先輩たち遅いな…でももう予約の時間だし…先入っとこうか。」
「うん。」
「予約してた梶田です。」
「はい。こちらへどうぞ。」
咲卦穂と梶田は店の奥のテーブル席に案内される。
「ウニ!ウニ食べていい?」
「おう。…でも、ほどほどにな。」
ウニ、マグロ、エビ、サーモン…
美味しい!咲卦穂は笑みが止まらない。
「先輩来る前に食い終わるなよ?」
「まだ全然余裕。」
ガシャァァァン!!!
「は?」
店の外から凄い音が…
梶田と咲卦穂は店の外に出てみる。
「皆さーん!もう大丈夫ですよ!」
機械の残骸のようなものの上に義足の女が立って叫ぶ。
「…軽自動車のツクモっすかね。」
剣を2本持った男が歩いてきた。
「…梶田。来たぞ。」
男は梶田の方を見て言う。
「あっ!ここが寿司屋?
戦ってたらここまで来ちゃったか。」
女は残骸と上から降りて駆け寄ってきた。
「…梶田。これが先輩…?」
「おう。青柳先輩と虎城先輩。」
義足の女が咲卦穂に顔を近づける。
「…君が梶田の知り合いの…
神鎮隊には君みたいな年頃の女の子が全然来ないから!可愛い〜!」
「……」
「その人が虎城先輩。」
「虎城でーす。」
「か、顔が近い…」
咲卦穂は虎城に言う。
「あー。ごめんね。私弱視でさ。
近くないとよく見えないんだよね。」
「そうなんですか。すみません…」
「いいのいいの。びっくりしたよねごめん。次からはちゃんと言うようにするよ。」
…そう言うことなのだろうか。
というか何故虎城が謝るのだろう。と咲卦穂は思った。
「梶田の知り合いだって言うから会ってみたが…弱々しそうだな。」
2本剣の男が言う。
「その人が青柳先輩。」
「弱々しい…まぁ…否定はできないかもです。」
精神面が。
「来る途中でツクモ見つけちゃってさー。
戦ってたら遅れちゃったんだ。梶田ごめんね。」
「いや、全然大丈夫ですよ!」
4人は席に着く。
「後輩と寿司!なんかいいね。」
咲卦穂はほぼしゃべることなく寿司を食べている。
「ねーねー。咲卦穂ちゃん。なんで神鎮隊に入ろうと思ったの?」
「…んー…前、ツクモに襲われて何もできなかったのが悔しかったからですかね…」
神鎮師の技術をパクってストレス発散に使うだなんて言えない。
「へぇ。いいね!」
虎城はそれ以上は何も言わなかった。
この後特に何があったでもなくただ寿司を食べて解散した。
1週間後
「今日から神鎮隊員だな!」
「そうだね。」
学校の放課後。
白いスーツを着た咲卦穂と梶田は
ある建物の前に立っている。
「ここが神鎮隊柏樹署。
青柳先輩と虎城先輩もいるんだぜ。」
「へぇ。何人くらいいるの?」
「んー…神鎮師は俺以外に10人。
その他職員も10人くらいかな。」
「あんまり人手不足感ないね。」
「まぁ、柏樹市は広いからな。」
「そっか。」
2人は正面入り口を開ける。
「俺たちはまだ見習いみたいなもんだ。
学校に通いながら放課後や休日、先輩に同行するような感じ。」
「なるほどね。」
“応接室”
コンコン…
ガチャッ!
「失礼します。」
2人は頭を下げる。
「こんにちは。梶田と…天野だな?」
50代くらいに見える男が言う。
「はい。天野です。よろしくお願いします。」
「柏樹署署長の羽鳥だ。」
羽鳥は手を差し出す。
咲卦穂と羽鳥は握手をした。
「試験を潜ってきた君ならわかると思うが、
…神鎮隊は過酷だぞ。」
咲卦穂は試験中にツクモに襲われたために
試験内容をあまり覚えていない。
「もちろん、人々からの批判の対象…
政府のツクモ対策批判の矢面に立つことにもなる。」
たしかに何か大きな事件などが起きたら叩かれるのは神鎮隊だろう。
「ただ、私は君に期待している。
辛い時は相談に乗るから、どうか辞めないでくれよ。」
人手不足がよほど深刻なのだろう。
「は…はい。善処します…」
“柏樹山柏樹ダムにツクモが出現!
至急、出動せよ!”
スピーカーのようなものから聞こえる。
「…梶田、天野。早速仕事だ。行ってこい!
青柳と虎城も行かせる!」
外に出ると青柳と虎城が車に乗っていた。
「お前ら!遅いぞ。早くしろ!」
青柳が運転席から言う。
「はい!」
咲卦穂と梶田は車の後部座席に乗り込んだ。
「シートベルトしたか?飛ばすぞ!」
キュルルルルル…ヴゥゥゥゥゥン!
ダムに着くと、ダム湖に巨大なツクモが突き刺さっていた。
ダムよりも高いのではないだろうか。
「梶田。神鎮師の心得其壱!」
青柳が言う。
「現場へ迅速に辿り着く!
虎城先輩!其弐!」
「ツクモを観察し、その対策をとる!
…青柳其参!」
「どんなに強大なツクモであろうと、
我々が必ずどうにかする!」
ツクモは足のようなものを生やして立ち上がった。
姿はダチョウのよう。
赤い球のような部分とガラスのような体…
ガラスの部分には水が溜まっている。
「…梶田…これって…」
「あぁ。間違いねぇな。
“駒込ピペット”のツクモだ!」
ガラス部分の先端がこちらを向く。
「お、おい!」
先端から大量の水が咲卦穂たちに向かって発射された。
「逃げろ!」
ドガァァァン!
山の表面が大きく削れた。
「ダムを崩されたら終わりだぞ!」
青柳はダムを指差して叫ぶ。
そして、背中に携えていた2本の剣を抜いた。
「奴がそれに気づく前に倒せばいいんだね?どこにいるのか教えて!」
虎城はショルダーバッグからトラバサミを取り出した。
「ダム湖畔のダムとはちょうど対角線の場所です!かなりデカくてヤバいです。」
梶田は黒い剣のような陰を出す。
「壊し甲斐があ……早く倒さないとマズイですね。」
咲卦穂は黒い槍のような陰を出現させる。
このモチーフは咲卦穂に生える槍である。
「…行くぞ!」
「トライガ、GO!」
「斬れ!」
「貫け!」
4人は駒込ピペットのツクモに向かって
それぞれの方法で攻撃を仕掛けた。
青柳はツクモの体を駆け上る。
トライガもそれに続く。
『仮陰槌』
虎城は黒いハンマーのようなものを持って
ツクモの足を叩く。
ピキッ
しかし、体が巨大な分ガラスもとても分厚く、攻撃が通りにくい。
梶田も剣で攻撃するが、斬れる様子はない。
咲卦穂は黒い槍でガラスを突く。
パリッ!
ガラスに小さな穴が開く。
「梶田!突きだ!点で攻撃した方がいい!」
「あぁ!そうだな!」
梶田は咲卦穂のアドバイスを聞き、
黒い剣で斬るのではなく、突きを放った。
パリッ!
またまた小さな穴が開く。
しかし、まともなダメージにはなっていなさそうだ。
「…!」
駆け上がった青柳がツクモの赤いゴムの頭部へ剣を振り下ろす。
だが、ゴムの頭部には剣が刺さることはなかった。
「何⁈」
むしろ弾力で青柳は弾かれ、転落してしまった。
「青柳先輩!」
ザッパーーン!
青柳はダム湖に落ちた。
「ガオォォ!」
青柳に続いていたトライガも赤い頭部に噛み付くが、牙はほとんど刺さらない。
トライガはわずかに刺さった牙で体を支え、
ツクモの治癒能力を奪った。
「天野!虎城先輩!今です!」
「OK!」
「わかった!」
『仮陰錐』
虎城は黒い錐を幾つも出現させ、
ツクモを突き刺した。
ビキッ…ビキッビキッ…
パリィィィィィン!!!!
ツクモの右足が粉砕された。
しかし、それと同時に大量の水が流出する。
「退避!!」
梶田がそう叫ぶと、咲卦穂と虎城は急いで高いところへ上がった。
ザッパーーン!
その衝撃でトライガが落とされてしまった。
ツクモはすぐに足を修復し始めた。
「…キリがねぇな…虎城先輩どうしましょう。」
「んー…」
ドッバァァァァァァン!
その時、轟音と共にダム湖から巨大な黒い龍が現れた。
ツクモと同じくらいの大きさだ。
「何あれぇぇ!!」
「あれは青柳先輩の…」
「“龍神の彫刻”だね。」
よく見ると龍の頭に青柳が乗っている。
「喰らえ!」
青柳が龍に命令すると、龍は口を大きく広げてツクモを噛んだ。
バリバリバリバリバリバリバリバリ!
ツクモの半分以上が砕けると共に
大量の水が再び流出する。
トライガは再度ツクモに噛み付く。
「多分今だ!梶田!咲卦穂ちゃん!行くよ!
おりゃぁぁ!」
虎城は水で流された木や岩の上を器用に跳びながらツクモの方へ向かった。
「天野!行くぞ!」
「う、うん!」
咲卦穂と梶田も虎城に続いてツクモの方へ向かう。
「封じろ!」
青柳が龍に命令をすると、今度は龍はツクモに絡みつき、動きを封じた。
『仮陰錐!』
『仮陰剣!』
『仮陰槍!』
「龍!絞め殺せ!」
バキバキバキバキ!バリバリバリバリ!
ピッシャァァァァァン!!!!!
ツクモは砕け、崩れ落ちた。
「…お前たちの初任務。上出来だな。」
青柳が龍から降りてきて言った。
「やったね!青柳が褒めてくれるなんてなかなかないよ!」
虎城が咲卦穂の肩を掴んで言う。
「駒込ピペット。
あなたの名前はダイダラだよ。
ほら立って!天野咲卦穂を殺して!」
「え?」
ツクモは瞬時に再生し、立ち上がった。
「我、ダイダラと言う。
お前たちを殺すまでは死ねんのだよ!」
ツクモの声で木々が揺れる。
「…前言撤回。お前たちの初仕事はまだ終わってない。」
青柳は再び戦闘体制に入る。
「もっかい倒すの?やってやんよ!
ね!トライガ!」
「ガルァァァ!!」
「梶田ぁ!どうなってんの?」
「わかんねぇよ!」
「…天野咲卦穂が死ねば私の恨みを晴らせる…また私のストレス発散に付き合ってよ…あははっ!あっははは!
あーっはっはっはっはっは!!」
ダム湖近くの木の影で、
三条が狂ったように笑っていた。