ジェ・ジェ・ジェット
ジェット機が美味しい季節ですね。
【ツクモダン】
いじめっ子が3人いなくなった教室はとても静かだ。
何しろスクールカースト最上位のクラスの
アイドルたちがいなくなったのだから、気分は沈むだろう。
「Vtuberのアルが活動休止だって。」
「マジ?」
「うわー!人生つまんなくなるわww」
「このラウちゃん可愛くね?」
「あっ⁉︎推すわwwww」
そうでもなかったようだ。
キーンコーンカーンコーン…
「今日はツクモによる被害を少なくするにはどうしたらいいか、街づくりの観点から話し合ってもらうぞ。」
「ツクモの発生を防ぐためになるべく物は持たないべきだ!」
メガネの生徒が言う。
「もっと神鎮師を増やして、交番みたいに
配備すればいいと思う。」
ツインテールの生徒が言う。
「そんなのできるならとっくにやってるだろ?物を持たないのは現実的でないし。」
陽キャな生徒が言う。
「は?俺の家にはテレビ以外は何もないぞ!
俺にできるんだからみんなできるはずだ!」
メガネの生徒は机を叩いて言う。
「いやいや、ツクモが発生しないように定期的に買い替えをすればいいだろ?」
「経済的に余裕のないことだってあるぞ!」
「そもそも、ツクモの発生は防げないんだから、神鎮師を増やすべき…」
「じゃあお前がなれよ。」
「私は嫌だよ!…天野?さんはどう思う?」
突然振られた話題に咲卦穂は少し焦る。
「え、えぇ…うーん…私は…
どうでもいいかな…なるようになれって感じ…」
正直咲卦穂はツクモが発生しようがしまいがストレスの捌け口が減るだけであり、あまり変化がない…
「…どうでもいいって…だからいじめられるんだよ。そうやって無関心だから。
協調性もなくて、地味だし。」
ツインテールの生徒に急に敵意を向けられた咲卦穂は困惑する。
「…えー…」
「なんか薄情だよな。人が死んでるのにどうでも良さそうな態度してるし。」
メガネの生徒も加わる。
「…いや…そんなんじゃ…」
「俺はなんとも思わないけど、嫌われそうな要素持ってるよね。何考えてるかわからないし。」
陽キャも加わる。
「…そんなこと言われたって…
私の知ったこっちゃないと言いますか…」
なんでいつもこうなるんだろう…
咲卦穂は何かと人に嫌われる。
三条たちや母親からも…
咲卦穂は人と関わるのは好きでないから感情もあまり表に出ないから、何考えてるかわからないというのは自覚しているし、
その癖してあまり物事を否定しないから舐められるというのも自覚している。
それだけでそんなに嫌われるわけはない。
咲卦穂は、この前気がついた自身の恐ろしい一面を思い出す。
咲卦穂をいじめたとはいえ、親友2人が亡くなった直後の三条に暴言を吐き、それを隠してこうして暮らしていること。
三条がこのことを誰にも言っていないということは三条はかなり危険な精神状態なのだろう。
三条が回復すれば最後。
咲卦穂は社会的立場を失うだろう。
「…私を嫌いたきゃ嫌ってよ。
私を殴りたきゃ殴ってよ。はっきり言えよ嫌いって。ツクモのせいでいつ死ぬかわからないっていう不安があるのは分かる。だから誰かを嫌っていじめてストレスを発散したいのは分かるよ…でも…」
咲卦穂は机を蹴って大声で言った。
「なんで私なんだよ!なんでいつも私なんだ!私だってストレスだよ!なんだよ!なん…なんだよ!クソッ!クソッ!クソ!」
クラスの全員が驚いて引いている。
「どいつもこいつもうるさいんだよ!
みんな私の視界から消えろよ!」
「おい、天野!落ち着け!」
担任が止めに入る。
「うるさい!お前だっていじめに加担して…
生徒だからいくらいじめてもいいと思ってんだろ!」
咲卦穂は自分でも自分が言っていることがめちゃくちゃで支離滅裂なのは解っている。
でも今はただ、言いたいことを叫びたい。
「そうだよ。人が死んでるのに薄情だねって。薄情じゃねぇよ!むしろ清々しいわ!
いじめるからそうなる。因果応報!自業自得!」
生徒指導の先生がやってきて無理やり抑えられた。
そうでもしないと止められないほど咲卦穂は暴走していた。
「どうした。天野があんな風に暴れるなんて。今まで優等生だったろ。」
咲卦穂は軽く放心状態で、生徒指導の先生の質問も聞いちゃいない。
「人が死んで清々しいとか、言うなよ。」
あー終わった。
高校に送る調査書にも書かれるんだろうな。
というかそもそももうこの学校に私の居場所はない。
咲卦穂はそう確信した。
その時だ。
学校に何かが飛んできて、
地面が揺れるほどの爆発が起きた。
咲卦穂のいる部屋は無事だった。
「天野、大丈夫か?」
「……はい…」
「と、とりあえず逃げるぞ!」
廊下に出ると何十人もの生徒が怪我をしながら逃げている。
ツクモの仕業だろうか。
咲卦穂は人の少ない階段を探す。
「おい!どこへ行く!」
生徒指導の先生の言うことを無視して、
咲卦穂は上の階に登った。
生徒指導室は1階。
3階に上がると、3階の屋根がなくなっていた。
壁も壊され、もはやここが屋上かのよう。
そして壁や机などが燃えている。
「おん?お客さんかな?」
咲卦穂に誰かが近づいてきた。
全身真っ黒な金属で、飛行機のような翼が
背中に生えている。
そして、ジェットエンジンで空中に浮遊している。
「だ、誰⁈
学校を壊すのをやめてください!」
「はーん…生意気だねぇ…
おし!ボコしたあと遊んでやるよ!」
咲卦穂はいきなりジェットエンジン付きの脚で思い切り蹴られた。
「あがっ⁉︎」
わずかに残された壁に叩きつけられる。
血反吐を吐く。
咲卦穂は今すぐにでも反撃に転じたかったが、まだ外に他の生徒がいるはず。
ウニ頭に変身するのはリスクが高い。
「あぁぁぁぁぁ!クソッ!クソッ!
ゲホッ…ゲホッ!」
「口悪いのも嫌いじゃないぜ?」
「ざけぇんな!」
咲卦穂はまた蹴られた。
「ごふぁぁ!」
先ほど叩きつけられた壁を突き抜け、
咲卦穂は空中に放り出された。
「あ!」
パシッ!
咲卦穂は誰かに手をつかまれた。
「大丈夫か?天野!」
梶田だ。
「天野…だと?そいつが?」
「な、なんでここに…?」
梶田は咲卦穂を引っ張り上げる。
「俺、神鎮師なんだ。」
「ええぇ!ゲホッゲホッ…」
そうか…6万円を親に内緒で払えたのは
神鎮師としての給料⁈
「あぁ?なんか増えたな。てめぇは殺す!」
ツクモはミサイルのような物を発射する。
『仮陰盾』
梶田の前方に黒い盾がいくつか現れ、ミサイルを防いだ。
『仮陰剣』
ツクモを取り囲むように黒い剣が現れる。
「斬れ!」
梶田がそう言うと、大量の斬撃がツクモに四方八方から放たれる。
「効かねぇよ!」
ツクモの金属の体には通用していないようだ。
「俺は戦闘機のツクモだ!そんじょそこらのツクモと比べられちゃ困るねぇ!」
戦闘機はミサイルを撃ったあと、急速に接近してきた。
同時に攻めるつもりだ。
「くっ…」
『仮陰盾』
『仮陰像』
梶田は黒い盾でミサイルを防ぎつつ、
黒い彫刻や銅像のようなものを召喚し、
戦闘機の近接攻撃を防いだ。
「ははぁ!」
戦闘機はさらに加速。
黒い像を打ち破って梶田に踵落としをくらわせた。
「っ…!」
床が崩れ、梶田と戦闘機は2階の教室に入って行った。
「俺はこの学校にいる神鎮師を倒しにきたんだ!まさかお前みたいな雑魚のことを言ってたんじゃあないだろうな!」
戦闘機は梶田の頭を掴む。
そしてそのまま力を溜め始めた。
上に飛び上がり、上空から梶田を落とすつもりか。
「ま、待て!」
咲卦穂は走って2階に降り、戦闘機を殴った。
カツン!
「イッ!タァァァァ…」
金属製なのでもちろん手は痛い。
「あ?健気だねぇ…友達か恋人か知らねぇが。助けたいんだな?」
戦闘機は教室の窓を突き破って梶田を落とした。
「2階だから死にゃしねぇだろ。
お前、俺に2回蹴られても死なねえなんて
人間じゃないな?」
バレてたか。
「もしや、半ツクモ人間かぁ?え?
ほら、早く変身しろよ!
全力で俺と戦えぇぇぇ!」
「…もうっ…知らない!」
咲卦穂は頭から槍を生やした。
まるでウニのよう…
そして両腕から短めに槍を生やす。
「アカ!手伝って!」
咲卦穂のポケットから釘が飛び出す。
そして増殖して人型に集合した。
「初仕事っすね!」
「私が落ちそうになったら受け止めて!
そして“あれ”頂戴!」
「あいあいさ!」
「2対1か?卑怯だなぁ?まぁいい。
来いやぁぁ!」
戦闘機がそう言う間に、咲卦穂はすでに攻撃を仕掛けていた。
咲卦穂の腕の槍は戦闘機の左脇腹に突き刺さる。
「おっ…動きが変わったなぁ!」
戦闘機は刺さった咲卦穂の腕を引き抜いて払い退けてから、ジェットエンジンを絡めた高速体術を繰り出す。
何発かは咲卦穂に命中したが、
ツクモ化により動体視力も上がったのか、
かなり捌けるようになった。
そうするうちに両者は再度3階に上がった。
「いいじゃねぇか!ならこれはどうする!」
戦闘機は腕を機関砲に変化させた。
「ふぉぁぁぁぁ!」
ガダダダダダダダダ!
咲卦穂は頭を下げて突撃する。
ウニ頭が盾となり、銃弾を寄せ付けない。
しかし、戦闘機は咲卦穂の横側に飛んで移動する。
ガダダダダダダダダ!
咲卦穂は体から槍を生やし、銃弾を防ぐ。
ガダダダダダダダダ!
戦闘機は咲卦穂の周りを旋回しながら機関砲を撃ち続ける。
咲卦穂は体から生やした槍で防御はできているものの、防戦一方である。
このままではジリ貧で負けてしまう。
何か遠距離攻撃が欲しい。
槍…槍…やり投げ!
咲卦穂は腕の槍を引き抜こうとする。
「いでででぇ…」
なるほど、引き抜く=腕を抜く
なのか…
「何してんだ?諦めたか?俺ん女になるなら許してやらぁ!」
咲卦穂…どうする。
「あぁ。三条みたいに私も髪を抜けばいいんだわ。」
咲卦穂はウニ頭の内の1本の槍を掴む。
そして、思い切り引っ張った。
グググ…キュッ…ジャキ!
抜けた。
「…これで反撃できるなぁ?戦闘機!!」
「⁈…そうかやり投げ…」
ピュルル…ガシャァァァン!
投げた槍は戦闘機の胸の真ん中を貫いた。
「ウガッ⁈」
「へぇ…なかなかいいな。なんで今まで気づかなかったんだろ。」
「…へへへ…俺ぁ強ぇやつと戦うために作られた…最高の気分だぜぇ!!
だが、俺はテメェを殺さなきゃいけねぇんだ!殺されてくれ!」
戦闘機は顔を機関砲に変化させ、
背中から大量のミサイルを発射、
そしてジェットエンジンを吹かして高速で接近してきた。
咲卦穂は反応できなかった。
ガダダダダダダダダ!
ドガン!ドガン!ドガン!ドガン!
バババババババ…
咲卦穂は気絶し、変身が解けてしまった。
同時に戦闘機に刺さっていた槍も消えてしまった。
「ガァーッハッハッハ!俺の勝ちだ!俺の勝ちだ!俺ぁ最強だぁぁぁ!」
『呪・呪・呪殺!』
「はぁ?」
戦闘機の体の中から巨大な釘が現れ、
頭から脊髄に沿って貫いた。
「あぎゃゃゃゃぁぁぁぁぁ⁉︎」
壁の裏からアカが現れた。
「大成功っすね。」
「てめぇ…さっきの…」
「咲卦穂パイセンはさっき投げた槍に
俺特製の呪いの釘を仕込んでたんすよ。」
「呪いの釘だぁ?」
「俺は人の負の感情からできた釘のツクモなんす。だから呪いとか結構得意なんでね。」
戦闘機は再生を試みるが、うまく再生できない。
「な、なぜだ!」
「呪いはそう簡単に消えるもんじゃないっすよ。もうそこで大人しくしててください。」
「チッ…」
戦闘機は空を飛んだ。
「帰って…仲間呼ばねぇと…」
「待てよ!」
咲卦穂は立ち上がっていた。
「うらぁぁ!」
ピュルルル…ガシャァァァン!!!
「グッ…」
咲卦穂の放った槍は翼とジェットエンジンを貫き、戦闘機は大きくバランスを崩して墜落した。
墜落した先は…咲卦穂は考えない。
「…いやぁ…怖かったっすね。戦闘機のツクモ。ま、咲卦穂パイセンなら余裕…」
咲卦穂は倒れ込んだ。
「咲卦穂パイセン⁈咲卦穂パイセン⁉︎」
大量の銃弾とミサイル、拳、蹴りを喰らったのだ。ここまで生きていた方がおかしい。
「はぁ…ダメか…まぁ、期待はしてなかったけど。」
1人の男が事件後の学校付近の喫茶店に座って呟く。
「ま、もうすぐ殺せるかな…」
「ご注文のホットコーヒーです。」
「どーも。」
男はコーヒーをゴクゴクと飲み始める。
「アッチ!
…うーん…コーヒーねぇ…コーヒー…
あ、閃いた。次はこうしてやろう。」
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六十談
品、珈琲カップ
型、二式
甲、天野咲卦穂の生活圏最も近い位置
にある品。
乙、天野咲卦穂
伝、甲は乙が最も油断しているタイミングで
乙を殺害する。
できれば乙が甲を視認していない間に
攻撃を仕掛けよ。
甲は乙が死ぬまで絶対に攻撃の手を
緩めることはない。
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「一式のツクモでダメなら二式を使う…
覚悟しとけよ、天野咲卦穂。
近々殺してやるからさ…」