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ツクモダン  作者: SF42
前編
3/18

時給2万

【ツクモダン】




「うぅ…うんん?」


三条は目が覚めた。


三条の隣には咲卦穂が座って目を閉じている。


「咲卦穂…ちゃん…?」


咲卦穂は目を覚ました。


「…無事だった?」


「うん…鹿草ちゃんと志野ちゃんは?」


咲卦穂は立ち上がる。


「死んだよ。オーブンのツクモに焼かれて。」


「…やっぱり…あれは夢じゃなかったんだ…」


「ツクモは神鎮師に倒された。

でももう2人は跡形もなく…」


三条は涙を流す。


「…そんな…うわぁぁぁぁん…」


咲卦穂は三条を追い詰めるように言った。


「三条がお腹すいたとか言わなきゃこうはならなかったかもね。2人はあんたが殺したんだよ。私をいじめた罰かもね。日頃の行いが悪いから。家が潰れて少しは大人しくなるかと思ったらさらに調子に乗って私をいじめて。」


「やめて…」


「目の前で死なれるのは嫌だから助けてあげたけど、私はあんたを恨んでる。できれば50年くらい孤独に過ごしてそのまま死んでほしいくらいには。普段あんたは私でストレス発散をしてるんだから今日は私の番。死ね。

苦しんで死ね。1人で死ね。未練だらけで死ね。」


「…あぁ…」


三条は自身の髪の毛を掴んで引き抜き始めた。


「いいね。苦しそう。病め。」


「…ぁあ…あ、あぁあ、ああ!…」



ブチっ、ブチっ、ブチっ…パラパラ…



「さぁ帰ろうか。みんなになんて言う?

いつものように私のせいにする?ほら答えて。どうすんの?え?」


「…ぅあ。ゔぅ…あ、あぁぁ…」


















「昨日、鹿草と志野が亡くなった。

ツクモに襲われたらしい。ツクモは何者かに鎮められた。三条は無事だったものの、

しばらく学校を休むと連絡があった。」


咲卦穂をいじめた三条は全てを失った。


咲卦穂が奪ったと言っても過言ではないだろう。


まぁ、ここ2日で家が潰れ、親友2人が死んだ。そんな状態で今までいじめてた奴から暴言を吐かれたらそりゃ精神も逝くだろう。



「天野。後で生徒指導室へ来い。」


「…え?」








咲卦穂は呼び出しを食らってしまった。


学校で最も恐れられている生徒指導の先生が目の前に座っている。


「天野、亡くなった2人と仲良かったそうじゃないか。お前は大丈夫か?三条はショックで立ち直れないようだが。」


仲良かった?ふざけるな。


「えぇ…まぁ…今は三条のことが心配です。

ツクモから逃げた時も相当ヤバそうな感じでしたから…」


咲卦穂は自分が怖くなった。

よくもこんな嘘が付けたものだ。

普段はつけないし、人とこんなにしっかりも喋れないのに。


「天野も目の前で友達2人が亡くなってる訳だから、…まぁ…無理すんなよ。」


「お気遣いありがとうございます。

でも今は大丈夫です。まだ実感が湧かなくて。」


今までにないくらい清々しい気分だ。

と、咲卦穂は感じている。


「そうか…先生たちはみんなお前の味方だから。何かあったらすぐ相談しなさい。」


「ありがとうございます。」


相談したことはあるよ。

私をいじめる奴が1人増えたが。

咲卦穂は心の中で文句を言う。










咲卦穂は生徒指導室から出て、

廊下を歩いていると、声をかけられた。


「あっ…天野…だっけ。」


梶田だ。


「…弁当、ありがと。」


「よかった。ちゃんとお前が食ってたんだな。アーケードの上に箱だけ置いてあったからカラスかなんかが食っちまったかと思った。」


「…筆記用具も、ありがとね。」


「おう。なんかいっぱいあったからさ。

…ところでさ、あん時なんか悩んでたみたいだけど、俺でよければ相談乗るぜ。」


「…は?なんであんたに。」


「お前昨日ツクモに襲われたんだろ?

俺、ツクモには詳しいから、なんか質問あったら答えるぜ。」


話が変わった。


「はぁ?……じゃあ、時々凄い再生能力のツクモがいるって話聞くけど、なんでなの?」


「んー…話すと長くなりそうだ…

放課後俺んち来るか?」


「……え?」












結局来てしまった。


「上がれよ。あっちょっと待ってて。

今スリッパ出すから。」




「うわぁ…すごい。」


「俺の部屋。」


沢山の古い本や資料のようなものが置いてある。


「…んで、ツクモの再生能力の話だったよな。これを見てくれ。」


梶田は分厚い本を取り出す。


「え…っと…ほら、ここだ。」



[ツクモの発生について。]



「発生?」


「そう。発生に関係あるんだ。」



[強い怨念を持った物体や、

誰かが強い思い入れを持っている物体が

ツクモに変異する。

さらにその想いの強さにより、ツクモが強力になる。そのため、再生能力や攻撃、防御能力が高いツクモが現れることもある。]



「へぇ…」


「他にも色々本とかあるから、よかったら見てってくれ。」


「…どうも。」


「ちょっと俺買い物行ってくるわ。

読んでていいからな。」





咲卦穂は本を読み漁った。


わかったことはざっと3つ。


人間に友好的なツクモが少なからずいること。

ツクモ同士は縄張り争いを行い、負けた方は勝った方に従うようになること。

そして、咲卦穂のような半ツクモ人間の

資料はほとんどないこと。



咲卦穂は自身が半分ツクモであるのにも関わらずそれほどツクモの生態を知ろうとしていなかった。

無知を思い知った。





3時間ほどして、梶田が帰ってきた。


「欲しい情報は手に入ったか?」


「うん…まぁ…」


「そりゃよかった。どうする?まだいる?」


「いや…今日は帰る…また来ていい?

まだ本読み切ってないから。」


「お前これ全部読むつもりか?相当時間かかるぞ?」


「まぁ…全部じゃないけど…」


「はははは…まぁ、いつでも来いよ。」












咲卦穂は家に帰ってからもベッドの上で動画サイトでツクモの行動を見漁った。


この前のオーブン犬と戦って感じた焦りが

頭から離れないのだ。


今までは勢いで倒せていたが、もっと強いツクモが現れると咲卦穂は死ぬかもしれない。


強くならなくては。


正体がバレた時、神鎮師に狙われるだろうし、強いツクモにも狙われるだろう。


そうなった時に。

勝てなくてもいい。その場から逃げられる程度には強くならなくては。




「まーまーそんな思い詰めないでくださいよ。」


「…でも不安だし…」


「ゆっくり自分のペースで強くなりゃいいんす。」


「ゆっくり…」


「そう。ゆっくりと。」



「誰⁈」



隣にトゲトゲした髪型の赤いパーカーを着た男が座っていた。



「つ、通報しますよ!」



「いや、や、や、ちょっと待ってください!

怪しいものではございませんので!」


「怪しいよ!」


「ちょっと話だけでも聞いてください!」


「…話だけね。」


「よ、よかった…」


男は胸を撫で下ろす。


「俺、釘のツクモっす。」


「ツ、ツクモ⁉︎」


よく見ると男の体は釘の集合体のよう。


「ほら、あなたの上履きに刺さってた釘!

…のうちの一本っす。」


「はぁぁ…え、いつからツクモに?」


「今さっきっす。」


ん?釘のうちの一本ということはもしかしてまだ…


「咲卦穂様。こんばんは。急な変異をご許しください。」


「私、釘。よろ。」


「これが体…最高!」


なんかいっぱいいる…


5人。



「えぇ…」


初めの釘男が咲卦穂に説明を始める。


「咲卦穂パイセンが俺らに話しかけてくれたじゃないっすか。それでなんか条件満たしちゃったっぽくて。今に至るわけっす。」



そんなことになるとは想像もしていなかった。



「…え、えと…名前は?」


「んー…みんな…釘っす。」


「え、名前とか…もってツクモになるものじゃないの?」


「いやぁ…」


まぁ一度に5体の名前を言われても覚えられないが。


「じゃあ咲卦穂さんが名前つけてくださいよ。」


「…じゃあ…あなたは…“アカ”ね。」


「ア、アカ?」


「そう。んー。みんなにも名前つけるわ。」



















学校の休み時間、咲卦穂は梶田に呼び出された。



「ごめん!」


「…急にどうした…」


「昨日、天野を家にあげただろ。

そしたら親が俺に彼女できたとか言ってすごく喜び始めちゃって…是非話がしたいから、呼んでこいっていうんだ。

本当に一生のお願いだから!

今日だけ彼女のフリしてうち来てくれない?」


「…は?…否定しろよ。」


「俺が否定しても照れんなとかどうとか言って聞いてくれないんだよ…」


咲卦穂はかなり梶田を殴りたくなった。


「……対価は?」


「ん?」


「条件によっては引き受けてあげないこともない。」


「うーん…何をお望みで…?」


「そうだね…最近色々あって金欠だから金くれ。」


「い、いくらでしょうか…?」


「私の時間は高く付くよ。1時間につき2万払ってくれんならやる。」


時給2万。


「…わかった。頼む!」


いいのか。


「あのさ。私なんかに頼むって友達いないの?」


「んー…ちょっと家の用事が忙しくてね…」












「おぉ、君が真白ましろの彼女さんか。」

(真白は梶田の下の名前。)


梶田の父親が咲卦穂を見るなり言った。


「いらっしゃい!」


梶田の母親も上機嫌に見える。




「お名前は?」


「あ…あ、天野 咲卦穂って言います。」


「真白とはどこで知り合ったのでしょうか。」


「え、ええ、えと…がっ…こう…

学校のー…図書室です。」


「何部なので?」


「あー…帰宅部です。」


「こんなこと聞くのもよくないかもしれないけど…真白のどこを気に入っていただけたんでしょうか。」



んなもん咲卦穂に知るはずもない。

普段あまり人と喋らない咲卦穂にとって人前で嘘をつくのは難易度が高すぎる。



「……ぇ…ぁ…ぁ……ぃぃ…」


「あぁ!ごめんなさい。やっぱり恥ずかしいですよね。申し訳なかった。」



この地獄のような時間も、

全ては金のため…


ついでに今度梶田を殴ろう。



「おはぎ好きですか?」


梶田の母親がおはぎを持って現れた。


「今時の子はおはぎなんて食べんだろう。」


梶田の父親が言う。


「…あ、いや、私、おはぎ、好きです。」



咲卦穂はおはぎを沢山食べた。

この気まずさを軽減するために。



「真白は天野さんのどこが好きなんだ?」



「え!あーー…んー…顔。」



いや、それは…よくない。

















「3時間。6万ね。」


「お、おう。」


梶田は財布から6万円を取って咲卦穂に差し出した。


「え…今すぐくれるの?」


「おう。」


「じゃあ…ありがと。」


ただの中学生に親に内緒で6万が払えるのか?














「柏樹中学校…あそこにゃ変なのが何人かいるみたいだよ。次のターゲットはあそこ。

やってくれるよね?」


「…わかったぜぇ!やってやらぁ!」


「特に天野咲卦穂を…」


街を見下ろす電波塔の上で2人の男が

怪しく微笑んでいる…


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