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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

花嫁エルフは誰も選べない!? ~恋を探して三千里。100年の中の永遠の愛を探して~

作者: 麦パン

 人間とエルフ。それは種族の違う存在。


 食事の価値観も、居住環境も、宗教観念も、どれもどれも違う。


 けれど、そのエルフは人間に恋をした。

人間の寿命という枷を背負った二人は愛し合う。


 しかし、それは長くは続かない。それが、人間とエルフの時間の違い。寿命の違いである。


 何百年と時間を生きるエルフにとって、人間の寿命は短い。だから、遺伝子的にも愛することは出来ない。はずなのだ。だが、それは愛し合ってしまった。恋に落ちてしまった。


 たとえ、それが子の出来にくいエルフであったとしても。子孫が残せない可能性がっても。男はエルフを愛し続けた。たった一人の愛するエルフとして。愛する存在として。いつまでも。二人はお互いをいつまでもいつまでも愛し続けた。


 ――時間が経っても変わることのない二人だけの永遠の愛の形。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 エルフの里。それは、大森林の最中に構えられ、人間や他のオークやゴブリンといった種族、さらにはドラゴンにだって壊せないし、破けやしない結界が里全体を包むように展開されていた。


 その里の族長。グラン・モルスは、娘の160歳の誕生日、人間で換算すれば16歳。この世界の人間引いてはエルフたちにとっても成人を意味する歳である。


 「では、我が娘、グラン・ティアよ。この中からこの村の長となるための夫を選びなさい」


 「……はい。お父様」


 モルスは娘、ティアを神木で作られたの祭壇。その上の壇上のいる3人の男の前に連れて行く。


 静かに俯き、粛々と言われた通りに動くティアの姿はお人形さんという言葉がぴったりであった。その虹色の瞳は静かに遠くを見つめて族長の声を聞いていた。族長の声は静かに震えていた。


 「右から、この宝珠の大結界を管理している一族、エルダー・コロンビアス。真ん中にいるのが、この里の守り神の血を引き、エルフの魔法の祖の一族、ジャーニアス・エルランド。そして右端がこの里のすべての家を設計した設計士。ガーバン・ドルラゴ。さて、どの男が一番お前に似合うか決めないさいティア」


 「……はい、お父様」


 ――三人の男はどれも美形、美麗であった。


 それもそのはず。エルフという種族は外敵から身を守り、その正体を隠すために進化を続けてきた。


 同じような美形で秀麗な顔が多いのはその者がエルフであるとは認識されても、個人を判別できない様に。


 寿命が長いのはもしも存在が公になり、襲われても人間や他の種族の寿命なら追ってくることが不可能なため。


 だが、エルフも逃げてばかり、結界に籠もったりするだけの結末を辿らなかった。


 最初に大結界を作り、安全な生活圏を作り上げた一族、麦のように黄金色の髪が特徴のエルダー一族。


 その次に、守り神を召喚し、その子供が代々受け継がれて来た力をエルフなら誰でも使えるようにしたのが燃える灯火のような赤い髪が入り交じる黒髪のジャーニアス一族。


 そして、誰もが安心して暮らせるように災害で壊れてもすぐに補修が効くように建築の大発明を成した里の大設計士の一族。青く透き通る大海の髪が特徴のガーバン一族。


 そのどれもがこの里で、いや、どのエルフの里より誇れる名のある一族である。


 三人の男、黄金髪のコロンビアス、赤髪入り交じる黒髪のエルランド。透き通る青色の髪のガーバン。


 三人は眼を伏せ、膝を降り、自身の花嫁となりこの里の族長になるのを待っていた。


 たった一言。


 『……この人を私の夫に、族長にします』


 その言葉を待っていた。


 だが、ティアは。


 「……似合わない」


 「……は? 何だいティア。流石にもういいさね。――さぁ、選びなさい。男たちも待ちくたびれて――」


 「私には誰だって似合わないんですぅ~! うわ~ん!!」


 「ティア!? どうしたんだ!! お~い、ティア!!」


 新・族長が決まるという由緒正しく続いてきたこの襲名の儀式は花嫁の涙と素早い逃げ足で破断となった。


 その後姿は、この里の守り神の依代である神木の枝葉のように美しく、細く棚引く新緑の長い髪が流れ、特注の白い花嫁のドレスを土と埃で汚しながら祭壇の階段を駆け下りていく。


 祭壇に取り残された3人の男。それらが騒動に気づき、顔を上げた時には周囲の人々からの様々な言葉が投げかけられる。


 「どんまい! また次があるさ!」

 「まーた、誰も選ばれなかったわね。あの子もシャイねぇ~」

 「ふん……族長の血筋の恥晒しが……」

 「とかいって、お前さんも選ばれたかったんだろう?」

 「なにぃ!?」


 口喧嘩が始まりそうが、それはともかく。

男たちは肩を上げ、苦笑いで逃げるティアを眺める。


 ――グラン・ティア。16歳。族長の娘。性格はシャイ。

これで3回目の新・族長の襲名の儀式はまたもや花嫁の逃亡で幕を閉じたのである。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その夜。自室にてティアは増毛期に取れたもふもふの羊毛で作られたベッドの中でひとり考える。


 「はぁ……、また逃げちゃった。駄目ってわかってるのに。私の代わりにお父様が今頃怒られてるんだろうな。はぁ、お父様含め、みんなに謝らなくちゃ……」


 夜の帳に言葉を零し、その心の反省を吐露する。


 ティアにとって花嫁というものはとても大切なモノ。そう認識はしていた。


 だから、逃げ出すのも良くない。なにより族長モルス、――いいや、あの三人の男にも悪いと申し訳ないと思っていた。だが、ティアにとっての価値観がこの儀式を受け入れない。心が拒絶する。


 「私って駄目な子……。でもだって、憧れてるんだもん。あのお話のような人間と恋がしてみたい。でも、それをすればこの儀式で選定された男の子達が困ってしまうし、里のみんなにも迷惑が掛かる。わかっているのに。分かっているのぃ……グスン」


 昔、人間の旅商人がこの里に迷い込み持ち込まれた商品の一つ。

それを貯めに貯めた木の宝珠と物々交換して貰い手に入れた本。


 それはエルフの里では出回らない人間の大都市で大流行している恋のお話が書かれた小説。


 人間の言語で書かれていたため必死に勉強して、読み解けた。そして、読みふけって怒られたとティアは苦笑する。


 その内容は実にロマンチック。


 悪いオークに襲われそうになったエルフを勇者の血を引く人間の男の子が助けてくれる。そして、二人は恋に落ち、永遠の愛を手に入れる。


 ――永遠の愛。この時点で子供っぽい感じがするがティアはまだエルフの中では子供。成人したてのひよっこエルフ。酸いも甘いも知らないお年頃。


「でも、やってみたい。でもな~! う~」


 ふかふかベッドにぼすぼすと顔を埋め、何かを思案する。だが、その勇気がティアには無かった。なにか、きっかけが欲しかった。


 ――人間と恋をするためにこの里を脱出する機会を。


 「お父様は許してくれなかったし、お母様も駄目って言ってた。でもこの気持ちは絶対成就させたい。とびっきりの恋を人間としてみたい!」


 そう。ティアにはこの里を脱出して、人間と恋をして永遠の愛を手に入れたい。


 そのためには他のエルフの男の子と結婚は出来ないのだ。してしまえば浮気になってしまう。浮気は駄目だ。絶対に。


 コンコン。部屋の扉がノックされる。「……はーい」と返事をするとガチャリと扉は開き、族長モルスが少し、やつれて現れた。


 「ティアよ。我が娘、ティアよ。そんなに人間と恋がしたいか?」


 「え!? なんでその事を!? わぶっ」


 思わず出てしまった言葉を華奢な手で抑えるが、出てしまったものは戻りようがない。

肯定してしまった言葉にモルスは話を続ける。


 「なんでって、全部聞こえてたからなぁ……」


 「ふぇ? どこから?」


 モルスはポリポリとそのエルフにしては短躯の手で頬を掻き、


 「『はぁ……、また逃げちゃった……』ってところからだ」


 「全部じゃん! あでも、人間の男の子と恋をしてみたいってところは声に出て――わぶっ!」


 「その心の声も含め全部だ。我が娘ながらなんともまぁ……」


 ため息を疲れ、すごく憐れむような眼で見られるティア。


 ――止めて! そんな眼で見ないで! 


 その心の声も漏れていたのかは分からないが、モルスは一つの提案をティアに仕掛けた。


 「100年。――100年だ。我が娘、ティアよ」


 「――? 100年? なんの数字?」


 「お前がその100年の間、この里の外出を許可しよう。そこで、人間と恋が出来ればこの里に連れてきなさい。出来なければあの三人の中から一人、選びなさい」


 「――!? え!? 本当お父様!」


 「あぁ、これは母さん、アイシャと決めたことで――いだぁ!?」


 「やった! やった! お父様だ~いすき!」


 「お父さんとしては嬉しい抱擁だが、お前の抱擁は怪力で骨に、老骨に響くわ! あばばばばば」


 泡を吹き、痙攣するように気絶する族長モルス。


 「お父様!? ひどい……。だれがこんな事を!?」


 「それは、あんたがやったんでしょティア」


 開けっ放しになったドアの向こうから身体をドアに持たれ、ツッコミを掛ける、高身長の秀麗のエルフ。


 ――グラン・アイシャ。

その新緑の髪と身長はティアそっくりであった。唯一違うのは瞳の色が虹色ではなく、鈍色という点。


 「あ! お母様! 本当に私外の世界に! 人間の世界に行けるのね!?」


 「あぁ。そうさね。そのとおりよ。でも、条件は聞いているよね?」


 「うん! 『100年の内に人間の男の子を連れ込んでくる』でしょ!?」


 「――差異はあるけどまぁそうさね。これはお父様、族長と里のみんなが決定したことよ」


 「お父様はともかく、里のみんなが?」


 「えぇ。いや、これを言うのは野暮ね。明日、出発の日にしたから準備しなさい」


 「え? え? えぇ~!? 明日!? 明日って次の日ってこと!? 急すぎるよ……!」


 勿体ぶる言葉と衝撃的な日にちに慌てふためくティア。

そこでアイシャはため息をつき、


 「はぁ、いいから準備なさい。この期間を取り付ける為に努力した三人の甲斐性の為にも……ね?」


 魔女のように魔性の笑みを浮かべるアイシャ。こういう笑顔の時はもう何も教えてくれにあとティアはこの160年のエルフ人生で理解していた。


 「……うん。準備する。それと」


 「ん? なんだい?」


 「今まで、ありがとう。こんな我儘で、子供な私を育ててくれて!」


 「……バカな子。そういうのは出発の時にいうのよ。早く準備しなさい。――ぐすっ」


 「うん!」


 くるりと身を翻し、顔見せないアイシャ。その顔は様々な感情を堪えた顔をしていた。この流れ出る涙を隠すために。


 「よし、100年! 待ってろ! 永遠の愛! うお~~!!」


 謎の雄叫びと宣言をして扉をバンッと閉めて部屋を飛び出した。


 里の中を駆け回り、永遠の恋を探すための旅に必要なものを買い集める。じつは脱出する準備もしていたティア。


 懐に入れていたメモには数十年前の旅人直筆のくたびれた紙切れ。


 そこには人間族の言葉で、【サルでもわかる旅の必需品リスト】と題されたメモを握りしめ、夜の里を駆け走り回る。


 夜空の満点の星は、神木の枝葉の間に見え隠れティアの旅立ちの準備を見守っていた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ――一方、取り残された娘の怪力で気絶し、泡を吹いた族長モルス。数分して目覚めた時にはアイシャの膝の上にいた。


 「……あなた。おはよう。久々の娘の抱擁はどう?」


 「あぁ、成長が噛み締められるよ。いや、本当全然痛くも痒くもないね。――イダダダダ」


 「ふふっ、強がってるのは昔からね、今【神木の癒やし】を掛けるわね」


 「あぁ、ありがとう。アイシャ。頼む」


 アイシャの柔らかな手に、青白い光の粒が集まる。その光は熱を帯び、モルスの身体全体を包み込むと粒は極光となり、花火のように弾けて光は瞬間的に消えた。


 モルスが、身体を擦る。そこには愛の抱擁によって受けた名誉(?)の負傷が跡形もなく治っていた。


 「相変わらず、すごいな。君の魔法は」


 「ふふふ、ありがとう」


 そっと、膝上のアイシャはモルスの頬に口づけをする。


 「……なんだ、恥ずかしいだろ」


 「ふふっ、ごめんなさい」


 娘がいる前では出来ない。だからこそ、背徳感がある。そこで、二人の心情は、劣情は高まるが、今はそういうときではないとモルスはアイシャの膝の上から頭を退ける。


 「あら」と自身の口に指を持っていき、すこし、残念そうなアイシャを後目にモルスは咳払いをし、


 「んっん゛ん゛。――叶うと思うか?」


 「ふふ、叶うといいと私は思ってるわ。でも、難しいと思うわ。だって、」


 続きは言葉に出ない。言葉にするとそれは叶わなくなってしまうと感じたから。


 ――エルフは子供が出来にくい。それはその高い生命エネルギーを持つ種族ゆえの弊害。子孫を残せないというなら子作りをすればいい。そう思うかも知れないがそうは行かない。


 生命エネルギー、すなわち寿命を吸ってしまうのだ。


 「私達も子供を成そうとした。でも、あの子しか出来なかった」


 「あぁ、だから人間が相手だと尚更……な」


 最後まで言葉にはしなかったが、つまりは人間相手との子供の成就は寿命を吸い付くしてしまう。それはティアが知らない情報。いや、教えていない情報だ。


 「けど、あの子の隠された笑顔はきっとどんな困難もどうにかしてしまう……そう、信じたいわ」


 「あぁ、あの笑顔には敵わない。でもそうだな。――きっと、人間との恋も叶うさ」


 引っ込み思案で人とのコミュニケーションが苦手なティア。でも、その笑顔は誰もが澪惚れる美しさ、魅力がある。だから、どうにかなる。そう一縷な気持ちを抱いて二人は星を、月を眺める。


 ――暫くして、両親ははち切れそうなほどの大荷物を背負い込み、自分の身長の倍はあろうか程の備品を買い込んできたティアを叱ることになるのはあと数刻後の出来事である。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 「――今まで! ありがとうございました!」


 晴れ渡る青空。照り輝く太陽は白いフードを被ったティアを輝かせ、内気な自分を奮い立たせ、声を張り上げ頭を下げる。


 白いフードは母親――アイシャの手作り。その靴は父親――モルスが手入れして作り上げ木靴。

それに腕輪に、ピアス、魔法杖に魔導書、世界地図から魔法のコンパス。簡易テント、非常食などなど。

それぞれが里のみんなからの旅立ちに対する祝いの品々を身に着け、リュックに詰めていた。


 因みに背中に背負ったリュックは昨晩の添削により、程よい大きさに収まっていた。が、祝いの品々でまた、パンパンに膨らんでいたが。


 里の神木の真下にある、交流の広場。

そこには里のすべての人が仕事を止め、全員が集まっていた。


 「ティアちゃん。これを」


 「これは?」


 「お礼をいいなよ~、あの三人の男に」


 「うぇ?」


 素っ頓狂な声を上げ、輝く黄色の指輪を受け取るティア。

渡したのは特注の花嫁ドレスを作った裁縫屋のおばさんだ。


 おばさんが指を指すと、すこし恥ずかしそうにこちらを見つめる男たち。

ティアが逃げ出した際に、選定された婿候補の三人である。


 ――話によるとティアが逃げ出した後、三人は里のみんなと話し合いをして、この100年の時間の設定を纏めて、現・族長のモルス、夫人アイシャに提案を行い承諾されたそうだ。

ティアはそれを聞いて頭が上がらない気持ちで三人を見つめる。


 黄金髪のガタイのいいコロンビアス。


 赤髪入り交じる黒髪で女の子のように華奢なエルランド。


 透き通る青色の髪で、謎のポーズを決め続けている中肉中背のドルラゴ。


 三人はそれぞれ、旅路に対して言葉をかけてくれる。私は逃げてしまったのに優しい男の子たちだ。


 最初に言葉をかけたのは黄金の髪のコロンビアス。


 「ティア。俺はお前が人間を連れてきてもお前さんが俺を選んでくれても構わねぇ。だが、そうだな。ここで言うべきことは一つ。――がんばれよ!」


 「――うん。あ、ありがとう!」


 言葉の端々に粗暴さはあるが、それは激励の言葉で締めくくられ、ティアはたどたどしくもなんとか感謝を述べる。


 次に、赤髪交じる黒髪のエルランド。彼はティアと同じくシャイだった。


 「あ、あの。僕なんか選ばれないってわかってましたけど、テ、ティアちゃん、あいや、馴れ馴れしかったですよね……ごめんなさい。――ティアちゃん。僕は人間との恋。応援してます」


 「……ありがとう! でも、“さん”はいらないよ。ティアでいい、よ?」


 「あ、ありがとう」


 早口で膜してるように喋るが、二人して照れて感謝しあっている。傍から見ればお似合いである。


 そして最後に青髪のドルラゴ。なんかバサァ……とローブを翻している。


 「君には悠久の時が似合う。だが、必要なのは100年の短き時。愛する者同士は惹かれ合う。だから、今は行くが良い。いずれ、我を選ぶだろうが」


 「……? よくわかんないけど、ありがとう?」


 困惑しながら感謝を言い渡すティアの言葉に「ふんっ……」といい立ち去るガーバン。

――彼は人間の世界で言う中二病であった。


 そして、里のみんなが別れの言葉を託した後、一際大きな声が一つ。


 「さて、別れの言葉は儂らはもう済ました! さぁ、旅立ちの時だ、ティア!」


 涙ぐむアイシャの横で、族長モルスが声を張り上げ、宣言すると、広場の北側の魔法の大門がゴゴゴ……と音を立て開く。


 その先は未知の領域。エルフのティア。族長の娘ティア。その称号が通じない新世界の扉が開いた。


 「さぁ、永遠の愛を探しに!」


 そういい、新世界への一歩を飛び出したティア。


 ――そこで待ち受ける恋は、とある人間との恋。


 決して結ばれても、繋がれないけれど、確かに存在する愛の物語の開幕である。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 エルフの里の大結界。外から見れば大きな神木を半径の中心として広がるドーム状の結界。それは、青白く光っているように見え、内側からは光って見えていなかったのでそういう仕様なのだろう。


 「ここが、森! 言ったことのない旅の獣道! ふんふんふん~♪」


 鼻歌交じりに森を散策というより抜けるために獣道を歩むティアはごきげんであった。


 ――人間との永遠の愛。それを探すために100年の期限を言い渡されたティア。


 そこに憂いはなく、まずはこの森を抜け、人間の街に行くことが目的だ。いつもはおどおどしているが気分が高揚しているのか底抜けに明るい性格になっている。


 獣道を通ればその先には泉がある。森の賢者達は生きるために未知を開けてくれているのだ。活用する他ないし、踏み鳴らされていて足場の悪い森でも歩きやすい。


 「風が気持ちいい! まるで、祝福されてるみたい! アハハハハ!」


 ジャンプ、スキップ、らんらんらん。絶好調な気分にティアとは違うくぐもった声が一つ。


 「だ、誰か! た、助けてくれ~!」


 「!? 何々? もしかして勇者様――!?」


 獣道の腰丈まである草木をかき分け、引っかかる部分は腰のマイナイフで切り裂きながら、声のする方へ出せる速度で走り出す。


 視界が広がった先には簡易目的地の泉。やはり、森の賢者、動物たちは道を指し示していた。そして、その声は。


 「あ、あんた!? え、エルフか……? た、助けてくれぇ~」


 近づき、助けようと近づく。だが、その姿は。人間のようで人間ではない。数十年前に初めてであった人間の姿、旅商人の肌の色、姿形とは全く違った。


 「き、君は人間……じゃない!? ――まさかゴブリン!?」


 「た、助けてくれぇ~……、――ってちっ! 騙されねぇか」


 その姿は矮小で短躯の存在。緑色の肌を保ち、ヤギのような瞳はこちらの存在を確認するとその人間に擬態していた声を止め、こちらに敵意を向けザッと後ろに後退りながら、距離を測るゴブリン。


 「ケケケ、間抜けな気配がするとしたら、引きこもりの種族じゃねぇか。おいおいおい。どうした? 散歩か?」


 「ううん? 永遠の愛を求めて旅道中! 君は?」


 「永遠の愛? ――それにしても悠長に敵に質問か! 面白いなお前。まぁ、面白いついでに喋ってやる。俺は、この声に騙されて近寄ってきた人間から金を! 食料を盗むのが目的! だから、エルフだろうがなんだろうがそのリュックの品物や金目のもの全部置いていきな! ケケケッ!」


 そうなんだかんだ説明してくれる優しいゴブリン。


 「ふ~ん。じゃあ、それは無理なお願いだ。私のこのリュックは大事な物が詰まってるんだ。渡す訳にはいかない」


 「ケケッ! じゃあどうする? ――この大人数をよぉ! ケケケケケッ!」


 不気味な笑い声と共に茂みから複数の赤い光と気配が近づく。


 茂みから出てきたそれらは目の前のゴブリンと若干の姿形の違いはあれども、どれも同じ種族、ゴブリンの集団であった。


 「しまっ――」


 「お前ら! かかれぇ~!!」


 『ウォーーーー!』


 ゴブリンの集団そして、呼び声でお取りを務めていたゴブリン含め全員が手作りの混紡や人間から盗んだ剣や槍でティアに襲いかかる。――が、それも数十秒も持たなかった。


 「かいりき~~全開だぁ~~!!」


 『ゴバァ!?』


 ティアに覆いかぶさるように次々に、襲いかかるゴブリン達それらがすべて大きな力によって吹き飛ばされた。あるものは茂みに、あるものは泉の中に落ちて行った。


 「な、なんだと!? 魔法だけが取り柄のエルフだろう? お前さん!」


 「うん! エルフ! 『怪力のティア』そうみんなからは呼ばれているよ!」


 「お、おっかねぇ……。おい! こいつは相手にしてられんぇぞ! 逃げるぞお前らぁ!」


 「あいあいキャプテン~!」


 囮役のゴブリンはキャプテンだったようで、茂みに頭から突っ込んでお尻を見せたゴブリンや泉に落ち、水を飲んだのかパンパンにお腹が膨らんだゴブリンをなんとか仲間同士で引っ張り、そそくさと逃げていった。


 「ふぅ……。鍛えただけあった」


 ――ティアが憧れたのは人間との永遠の愛。そして、もう一つ。人間の旅商人が持ってきた恋のお話に出てきた勇者の力にも憧れた。


 だから、魔法も筋トレも欠かさず密かに鍛錬し、両親からは『怪力』のティアと呼ばれていた。


 怪力は花嫁として印象は最悪なので、広めないようにしていたがティアに取っては自慢するべき自分の脳力の一つである。


 そして、またこの開けた泉に来訪者。エルフの里からかなり離れたこの場所に訪れるのはゴブリンだけではなかった。


 「おーい!? 悲鳴が聞こえたが何かあったか!? 大丈夫?」


 「――! に……にんげ……ん?」


 「――? 君の長い耳、もしかしてエルフ……かい?」


 「人間! 人間だぁ! やったやった!」


 その来訪者はティアの求めていた人間。悲鳴を聞いて助けに来た冒険者であった。


 本にあった豪華絢爛のドラゴンの素材で作られた防具や武具を装備していた勇者とは違い、全身を革の軽装備で武装した黒髪の少年。腰には二本の刀が刺しており、腰には丸い小さなラウンドシールドを装備していた。


 ティアはぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。それが初めての人間との出会いであるから。

――実際問題、助けは必要なく、ティアがすべて退けたということはこの冒険者は知る由もなかった。

 





 「君はエルフの里から出てきたんだね。僕はケイロン。よろしく」


 「私はティア。怪力のティア。よろしく!」


 「――ん? その怪力はファミリーネームかい?」


 「――ううん? ファミリーネームはグランだよ? グラン・ティア!」


 「あぁ……そうかい。――怪力……あんな細い腕で?」


 最後の言葉はティアには聞こえていないようで、ふんふんと鼻歌を歌いごきげんな様子のティアと腑に落ちない様子のケイロン。


 二人は開けた綺麗な泉で水を汲みんだ。


 ――ゴブリンが入って多少汚いがまぁ浄化すれば大丈夫だろうというのはティカの心の秘密。


 ケイロンは鍋に泉の水を汲み入れ、慣れた手際で煮沸させ、飲水に変えた後さらに筒状の装置で濾過してきれいな水に変えていた。


 ティカは魔法でちょちょいのちょいで飲水に出来るように青い光の魔法で水を浄化していた。


 「その技術は人間……ケイロンの世界で一般的なの?」


 「そうだね。人間はこうやらないと綺麗な水を飲めないんだ。人間はティカみたいに魔法を使えないからね」


 「ふんふん。でも勇者は使えるんだよね?」


 「――。どうだろう、僕は、知らないな」


 歯切れが悪く呟くと、ケイロンは森を抜けれるよう歩を早める。


 「あ、待ってよ~」


 なんとか付いていくティア。二人はとりあえず一緒に行動することになった。街までの一時的な同行だ。


 ケイロンはティアの護衛というより、正義感によるもの。エルフという魔法に長けた種族であっても女の子が一人旅をしているのを放っておくほど薄情な人間ではない。


 ティアはそのことには気づいて無く、ただ人間の街に行けることにただただワクワクが止まらないという様子であった。


 「ところで、君はなんでエルフの里を出て一人旅を?」


 「よくぞ聞いてくれました! 私は永遠の愛を探しに旅に出たのです! えっへん!」


 無い胸を誇らしげに威張るティア。


 「ん? なんて?」


 「聞こえてなかった? 永遠のあ――」


 「あーあー、わかった。そうじゃないんだ。永遠の愛って……って、君いくつ?」


 「160歳! 人間で言うと16歳! それがどうしたの?」


 「い、いや、何でも無い。――一応成人はしているのか、いやでも永遠の愛ってなんだ……?」


 お互い違う理由で首を傾げる。

しばらく、無言が続いたがようやくそこで、視界の先、森の果てに光が見えた。


 「――そろそろ街の街道が見えるよ」


 「――おぉ! おお~~!!」


 思わず声を上げるティカとわずかに眼を細めるケイロン。


 森を抜けた先には、街道がはるか先の街まで続き、ティアにとって知らない人間の街。

ケイロンによると街の名前は【アルカディア】。


 冒険者が集まるなんでもありの流れ者が行き着く街であるそうだ。


 ――視界に広がる世界。それはティアにとって初めての世界。青い色を基調とした街並みはエルフの街とは違い、木造ではなく石造で出来ているようにみえる。


 ティカにとってはまだ、永遠の愛と言うのが何なのかわからない。


 それは物語の中だけの世界かもしれない。


 けれど、ワクワクとドキドキを胸に抱くティアの元に新たな物語が始まる風が頬を撫で、新緑の長い髪をすり抜け静かに消えていった。


(人気が出ればいいなと思った作品です。続きは書きたいなぁと思っております! 感想やいいねお待ちしております! さらに良ければ別の毎日投稿作品も御覧ください!)

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