ラジオ
私がこのラジオのアシスタントとして抜擢されてから半年がたった。
最初は初めての仕事にミスもあったがようやく仕事の流れ的なものがわかってきた頃のことだった……
「ミサちゃん、心霊特集用のハガキ何処にやった?」
メインパーソナリティのユウジさんが物がたくさんありぐちゃぐちゃのテーブルをさらに汚しながら声をかけてくる。
「私の机に置いてありますよ、今持ってきます」
「あー、いいよ自分でとるから」
「いえ!」
ユウジさんは気さくで話も面白くいい人だが整理整頓が苦手らしく物をなくしやすい。
だから番組で使う大切な物はなるべく私が預かるようにしていた。
そして私の机を守るべく自分で取りに行く事にした。
一度ユウジさんに取りにいってもらったら机がえらいことになっていたのだ…それからユウジさんに机を触られないように注意していた。
「はい、これです」
ユウジさんにハガキを渡すと一枚一枚しっかりと目を通していた。
「他にも何枚かありますがみますか?」
私はそう言いながらボツにしたハガキを取りに行こうとするとユウジさんがそれを止めた。
「あー大丈夫、ミサちゃんの事信用してるから。じゃあこれをラストにしようか?」
「どれですか?」
ユウジさんに見せてもらったのを読んで意外に思った。
「それでいいんですか?こっちの方がインパクトありますよ」
私は自分が一番ゾッとした話のハガキをユウジさんに指さした。
「うん、これも悪くないよね。ちゃんとオチもあるし」
ならなんで?
私はユウジさんが選んだ話をもう一度読み返した。
それは多分女性からのハガキで肝試しに行ってから夜な夜な気味の悪い声が耳元で聞こえると言う内容だった。
「この子電話OKだし、放送中に連絡して話を聞いてみようと思うんだよね。それに……」
なにか気になるのか言葉をきった。
「なにかありましたか?」
「いや、リスナーも参加できるとリアリティあるしね」
なるほど、リスナー参加にするようだ。
「ちょっと前もってアポ取っといて」
ユウジさんは若い男性スタッフにハガキを渡していた。
私はメモを取り出すとユウジさんと番組でハガキを読む順番を決めた。
その後スタッフを含めてみんなでミーティングをしていざ本番を迎える。
「こんばんは!本日は先週から言っておりました心霊特集です!リスナーさんから応募した怖い話、心霊体験など紹介してリスナーさん達自身に一番怖かった話を選んでもらいSNSで投票して決めたいと思います。じゃあまずは最初のハガキをミサちゃんよろしく!」
ユウジさんが挨拶をして心霊特集が始まった。
私はふられると頷き一枚目をなるべく恐ろしげに読んでいく。
その次はユウジさんと私で交代ごうたい読んでいき、前半部分が終了した。
「いやー、今のも怖いね。なんでみんな廃墟に行くのかな、ちゃんとお祓い行った方がいいですよ。では一旦CMです。心霊特集まだまだ続きます!」
「はい!休憩入ります」
ラジオではCMや通販番組が入り少しの休憩となる。
「じゃあ次電話よろしくね」
「はい、サキさんの話が始まったら繋いで起きますのでよろしくお願いします」
スタッフさんの声にユウジさんはOKと指で合図を送った。
少し雑談しているとCM開けのカウントダウンが始まる。
私とユウジさんはヘッドホンを直してハガキを手に持った。
ラジオが始まりユウジさんが挨拶をして先程の続きとなる、まずは学校での七不思議の話と車で不思議な体験をした話。タクシーでの怪談話をした後に最後の 話を読み出した。
「最後のハガキはペンネームは…ないから林さんで大丈夫かな?ユウジさん、ミサさんこんばんは」
「「こんばんは」」
「初めてハガキを出します」
最初の挨拶から始まりユウジさんが林さんのハガキを読み出した。
林さんを含めて四人で遊んでいたところ近くに心霊スポットがある事をしり肝試しに行こうと言う話になったらしい。
林さんは怖いのは嫌いだが興味が無いわけではなくその場の雰囲気を壊したくないこともあり賛同してみんなでそこに向かったそうだ。
そこは古い旅館跡地で駐車場は草がボーボーに生えていて、周りはロープで一応入れないようになっていたがあまり意味をなしではいなかった。
なので車を停めて歩いて旅館まで向かうことになった。
急遽行ったこともあり、みんな懐中電灯などはないが携帯のライトを四人で使えば結構明るく足元を照らしながら中へと入った。
入り口にもロープが張られていたが窓ガラスは割れて外から見ても中にすごい落書きがされている。
既に何人もの人がここを訪れているのは間違いなかった。
だから林さん達も自分達が入っても大丈夫だと思ったと言う。
「廃墟とか以前にそういうところは許可なしに入っちゃダメだよね」
「ですね、なにかあっても自己責任になっちゃいますよね」
時折相槌を挟みつつ話を進める。
林さん達は中に入ると広いエントランスのような場所がありそこから通路が二つに別れていた。
林さんともう一人の女性はみんなで一緒に回りたいと言ったが友人の男性達が二手に別れようと言い出した。
どうももう一人の女性と二人っきりになりたそうにしていたので嫌だけど渋々承諾した。
別れて上まで行ったら真ん中で落ち合い下まで一緒に降りようと言うことになり、私達は別れた。
その時は気味が悪かったが何事も無く上にあがった。
そしておおよその真ん中まで戻ったが別れたもう一組がなかなか合流場所に来なかったそうだ。
どうせどこかでイチャついて遅くなっているのだろうと林さん達は先にここを出ることにした。
しかし二人はなかなか出てこない、痺れを切らして電話をしてみると「きゃー」と言う叫び声と共にすごい足音を立てながら二人が青い顔で建物から飛び出してきた。
はぁはぁと息を切らしながら林さん達を睨みつけて文句を言ってくる。
「なんで先に降りてるのよ!私達を脅かそうとしたのね」
「はぁ?」
文句を言われて林さん達は顔を見合わせた。
「私達上でかなり待ったのよ。それでも来ないから下で待つことにしたの、それでもまだ来ないから電話したんじゃない」
「で、電話?あの電話あなたなの?」
友人はまだ震えながら何かを怖がっていた。
いくら廃墟で自分の電話が鳴ったからって…いや怖いかな?
そう思っていたがどうも違うらしい。
二人は中でどこかの部屋から電話の音がして驚き飛び出して来たそうだ。
それにどこにも寄らずに一直線に上へ上がり真ん中で待っていたという。
「嘘だ」
「本当よ」
笑って疑うが本人達は真面目な顔をしていて嘘を言っているようには見えなかった。
「電話ねー」
もう一度かけてみると今度はちゃんと本人の携帯が鳴った。
「ちょっと見てくるわ」
すると先程林さんと回った男性の友人が電話が気になると見に行くことにした。
「私は行かない!」
もう一人の女性の友人はここから動かないとばかりに首を横に振った。
林さんも気味が悪いので残ることにして男達だけでもう一度見に行くことにした。
怖いので車の中で待っていると程なく二人が戻ってきた。
そしてその手には黒い昔ながらの電話を持っていた。
「見ろよこれ!レトロでかっこよくない?」
ダイヤル式の黒電話は確かにアンティークみたいで素敵だが…持ってきた場所が気になる。
「それって…」
「そう、ここにあった。でももう使わないだろうし大丈夫だろ」
「返して来なよ」
こんな場所で拾うなんて趣味が悪いと言ったが友人の男性は気にした様子も無くそれを持ち帰ったそうだ。
それからと言うもの時折夜な夜な耳元で声が聞こえるようになり、病院に行ったが原因は分からないそうだ。
「えー、廃墟からそんなの持ち帰るなんて…呪われそう。声もそのせいなんですかね」
私は両腕をさすって怖がる仕草をした。
「えーっとここでこの林さんと電話が繋がってます。林さん?」
「…はい」
スタジオに流れる林さんの声は想像より大人しく感じた。
覇気が無く声が沈んでいる。
「今もその状態が続いているのかな?」
「はい」
「他の人達は大丈夫なの?」
「それが…黒電話を持って帰った友人とその後連絡が取れなくて…」
「え?」
衝撃の展開にスタジオ内は一瞬無言になった。
「あ、えーっとそれは失踪しちゃったの?」
「分かりません。私も彼に連絡を取りたくて何度も電話をかけてますが繋がらないし…自宅は引っ越したみたいで…」
「そ、そうなんだ。それは心配だね」
「いえ、友人はどうでもいいです。それよりも送ってきた物を返したくて…これが来てからなんです。声が聞こえるの」
「送ったきた物?」
聞きながら私達はなんだが嫌な予感がしました。
「はい、彼連絡が取れなくなった日に私にあの黒電話を送り付けて来たんです」
「そうなの?じゃあ今は林さんのところには…」
「はい、黒電話があります。あれからこれを手放そうとしてるんですが…なかなか上手くいかなくって…そんな時このラジオを聞いて誰かに話しておきたくなったんです」
「ち、ちなみに今その電話でかけてないよね?」
「当たり前です!うちは携帯しか電話ないし、他の電話も使ってないのに…」
「ないのに?」
「たまにこの電話ひとりでに鳴るんです」
林さんがそう言った後に「ジリリリリ…」
後ろで電話のなる音が響いた。
「きゃあ!」
私は思わず叫び声をあげると…
「なんちゃって!そんな事無いですよー。今のは録音した音を流してみました」
林さんの明るい声に私達は騙されたのだとわかった。
「林さんやるねー」
ユウジさんも騙されたと笑いその後は少し和やかなムードのなか林さんとの電話を切った。
「いやー見事に騙されちゃった。しかしよく出来た話だったね」
「本当ですね、私本気で怖くなって叫んじゃいました」
「じゃあラジオを聴いてるみなさんもどの話が一番印象に残った、怖かったかなど番組SNSにコメントください!一旦CMで投票結果がわかり次第番組の最後でお伝えします」
またCMに入ると私達はフーっと大きく息を吐いた。
「すみませんでした」
私は立ち上がり頭を下げていの一番にみんなに謝罪した。
さすがにアシスタントがあんなに怖がってしまっていたら興醒めかもしれないと顔をあげてユウジさんをみた。
「いや、あれは俺も驚いたよ。仕方ない仕方ない」
ユウジさんは大丈夫と笑ってくれたが窓ガラスの向こうのスタッフ達は渋い顔をしていた。
私はすぐに謝りに向かおうと部屋を飛び出して隣に向かった。
「みなさんすみませんでした!」
私は扉を開けるなり謝るがスタッフのみんなはパソコン画面に釘漬けでこちらを見ない。
不審に思ったユウジさんもきて一緒にパソコン画面を覗き込んだ。
「なんですか?」
「あっ、二人ともお疲れ様…いや、あの放送の後の書き込みみてよ」
私達の為に前を開けてくれたので画面を覗く、すると先程の放送の書き込みがいくつも来ていた。
「わーすごい反響ですね」
「それよりも内容みて」
スタッフの人は喜んでいる様子はなく画面を指さした、そう言われてひとつ読んでみる。
「ユウジさん、サキさんこんばんは。二人の掛け合いいつも楽しみにしています。今夜は心霊特集と聞いて朝から楽しみにしていました。最後の旅館の話ですが...途中からノイズ?雑音が多くて聞き取りずらかったです。放送事故かな?これからも楽しみにしているので頑張ってください」
「ノイズ?」
なんの事だとユウジさんと顔を見合わせる。
「雑音なんてあった?」
スタッフのみんなもなんのことかわからないと首をふる。
「でもそんなクレームみたいな書き込みばっかりなんですよ、あの林さんが話してる時の女性の声がうるさいとか、ミサちゃんの声がうるさいとか…」
「え!?す、すみません…」
怖がった時の事だっと思って私は頭を下げた。
するとスタッフのみんなは違う違うと手を振って否定した。
「ミサちゃん別に騒いでないでしょ、最後の怖がったのは可愛くてよかったよ。あれは俺だってビクってしたもん」
「じゃあ…他に人なんていませんでしたよ」
私は答えを求めてみんなの顔を見渡した。
すると黙っていたユウジさんが口を開いた。
「それってさ、林さんと電話が繋がってた時なんでしょ。声って林さんの方から聞こえてたんじゃない?」
コメントを見返してみると確かにみんなそんなような事が書いてあった。
林さんの声に被って違う女の人が話している。
ずっとあ~あ~と変な雑音が流れていた。
電話のベルの音がずっと鳴っていた。など
「林さんのあの話、実は本当なんじゃ…」
私達の間に何とも言えない空気が流れた。
「と、とにかく番組をしっかりと終わらせよう。みんなコメントは気にせず回数、数えて」
プロデューサーが空気を変えるべく大きな声で指示を出した。
「でも、圧倒的に最後のが一番ですよね」
コメント数は番組開始以来一番を記録した。
その後番組で最後の〆を撮り始める。
「さて、最後になりましたが先程の心霊特集の集計が終わりました。皆さんたくさんの投票ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「タクシーの話や学校の廃校も人気でしたがやはり最後の旅館の廃墟のお話が皆さん怖かったようですね」
「はい、怖かったです」
私が頷き答えた。
「ミサちゃん叫んでたもんね」
あははと少し笑いがおこり少し部屋の空気が回復した。
「じゃあ最後に投票の多かった林さんには番組特製のステッカーとタオルをお送りします。それでは最後までご視聴ありがとうございました。今夜はユウジと」「ミサがお送りしました」
「「ありがとうございます!」」
スタッフさんのOKと合図と共に番組は終了した。
「じゃあ林さんに連絡してステッカー送る住所間違いないか確認しておいて」
しかしスタッフが林さんに連絡するが一向に繋がらない。
「なんかやっぱりおかしくない?自分が出れた番組最後まで聞かないなんて…それにさっきはすぐに電話に出たんですよ」
スタッフの人はもうこの人に電話するのが嫌だと言い出した。
「じゃあ俺がかけるよ」
みんなが嫌煙するなか番組プロデューサーが自ら受話器をとった。
「あっもしもし、こちら先程お世話になりましたラジオ番組の者です。林さんがお送りしてくださった話が見事一番でしたので番組の…え?あっでも…はい、わかりました」
プロデューサーは一瞬驚き怪訝な顔をした後渋々受話器をおいた。
「どうしたんですか?」
みんなの注目がプロデューサーに集まった。
「なんか…ちゃんと繋がったんだけど、親らしき人が出てそんな電話してないって言うんだよね」
「「「え?」」」
「電話番号間違ったんじゃないですか?」
そう言われて履歴を確認するが間違っていなかった。
「親に黙って投稿したとか?それで怒られて…」
「小学校とか中学生ならともかく林さん若くても大学生以上に感じましたよ。友人が車の運転とか書いてあったし」
「よし、もう一回かけてみる。それでダメなら林さんには悪いがステッカーは諦めてもらおう」
それがいいとみんな納得した。
もう一度みんなで確認しながら林さんの電話番号に連絡する。
みんなも話を聞いてもらおうとスピーカーにして電話をした。
ジリリリ…ジリリリ…
数回ベルがなりみんながゴクリと唾を飲むと…ガチャ!受話器が取られた。
「もしもし…」
そこに出たのはラジオで聞いてた林さんの声とは違うもう少しお年を召した方のように感じた。
「すみません、先程お電話したラジオ局の者です。林さん…ハガキには林とだけ書いてあったのですが…お嬢様でしょうか?」
「確かにうちは林です。娘もいました…」
いました…?
過去形に疑問がわく。
「先程ラジオでお嬢様とお電話していたのですが、ご在宅でしょうか?」
「娘はいません。先程も言いましたが電話なんてしてません…というか出来ないんです」
「え?でも確かに…」
「娘は一週間前に死にました」
「え?えー!だって…」
「ですから電話もできませんしラジオに出るなんて有り得ません。イタズラなら警察に相談しますよ」
「違います!イタズラなんて、だって林さん旅館に肝試しに行って電話を持ち帰った話をしたんですよ」
プロデューサーが必死に説明すると電話の向こうで母親が息を飲むのがわかった。
「どうしてそれを…」
「一週間前のラジオ番組内で怖い話を募集したんです。それに林さんのが読まれて、そのまま電話にて参加してもらったんです」
「やっぱりあの電話が娘を殺したんだ…」
電話の向こうで母親が息を殺しながらボソッと呟いた。
そしてその瞬間「ジーー!」と回線が乱れ出した。
電話口で母親が何か話しているがノイズが邪魔をして聞き取れない。
みんなは唖然となり何も出来ずにそれを聴いている事しか出来なかった。
「「返せ!」」
そして最後に母親の声に被って違う声が聞こえてきた。
「うわっ!」
ガチャ!
プロデューサーが思わず叫び電話を切ってしまった。
「聞こえた?」
「なにあれ…」
言葉少なくみんな先程の声に怯えていた。
空気が重く皆が固まっていると…「パンッ!」高く乾いた音がなりビクッと体が動いた。
音がした方を見るとユウジさんが手を叩く音だった。
「はい!終わり。忘れよ、俺達ではどうしようもないでしょ。向こうもステッカーはいらないって言ってたんでしょ?」
プロデューサーをみて確認を求めるとそうだと頷く。
「ならこの件は終わり!さー片付けて反省会は飲みながらやろう」
ユウジさんの明るい声にみんな少しずつ笑顔を取り戻した。
「そうですね…」
「だよね、なんか機械の調子が悪かったんだよな」
みんな気の所為だと無理やり笑顔を作った。
切り替えて片付けをするなか私はユウジさんに声をかけた。
「さすがですね。ユウジさんに助けられました。空気が変わってよかった、やっぱり気の所為だったんですね」
私が笑いかけるとユウジさんはニコッと笑って手招きする。
私は黙ってユウジさんのあとを追いかけた。
ユウジさんは廊下に出ると喫煙所に向かってタバコを吸い出した、フーっと一息つくと話始める。
「多分あれ全部本当だよ」
「え…」
思わぬ答えに目を見開いてユウジさんを見つめる。その顔はいつもの優しい顔ではなく真剣な顔つきだった。
「ラジオも長くやってるとそう言うのたまにあるんだよね」
「そうなんですか?」
「なんかあのハガキ嫌な感じがしたんだ、こういう感てたまに当たるんだよね」
「じゃあ林さんは亡くなってるのに電話してきたんですか?」
「そこまでわかんないけど、たまに説明もつかないような事がやっぱりあるんだよ。ここでは繋がりは回線と声だけ…それがたまに違うところに繋がるのかもしれないね」
「そうなんですね…でも…」
なんか可哀想だな…と思い声に出そうとすると
「駄目だよ」
ユウジさんに止められた。
「この話をしようと思ったのはミサちゃんが多分そう思うって思ったから、他の人達は多分すぐに忘れて切り替えられると思ったからいいけどね」
「どういう事ですか?」
「林さんと気持ちを同調しては駄目って事、まず廃墟に無断で入った時点で自己責任でしょ?」
「確かに…」
「だから可哀想、何とかしてあげたいなんて思わなくていい。それなら早く成仏できるようにぐらい軽く思っておけばいいんだよ。これからもこの仕事頑張るんでしょ?それならプロとして切り替えて考えなきゃね」
「はい…」
「よし!じゃあこの話は終わり!」
ユウジさんはまたひとつパン!と手を叩いた。
すると何となく切り替えができて胸がスっとした。
「ユウジさんのそれ、いいですね。なんか気持ちがガラッと変わる気がします」
「だろ?俺も気分を変えたい時や空気変えたい時によくやるんだ。現場の空気が悪くなったらやってみてもいいぞ」
「はい!」
私は自分でもパン!と手を叩いた。
何となくユウジさんはコレで何かを追い払っている気がするが…それは確認しないでおいた。
私は頼りになる先輩の背中を追いかけた。