2022年3月14日。迷惑系宇チューバーから地球を救った男
2022年3月14日。第12宇宙ヴォガーンの『宇チューバー』が地球にレーザー銃を構えていた。
『ハイ!宇チューバーのハッカイです!今日はね!第7宇宙にある地球って星を破壊しようと思います!』
ハッカイのこの放送は宇チューブオンテレパシーによってライブ配信されている。現在の同説は8.5京。宇チューバーとして食べていくにはギリギリの数字である。
(ちぇっ。もっとみんな見てくれよ。よしっ。ヴォガーン星人によく似た『人間』って奴が苦しむ姿を見せて視聴者を増やそう!)
ハッカイは破壊型レーザー銃をしまい毒ガス銃を取り出した。
『やっぱ毒ガスにしまーす。ジワジワ殺してきましょー!』
(おおっ!)
視聴者の数が垓を越えた。
(やっぱみんななんだかんだで残酷なのが好きなんだな)
『みんな面白いと思ったらチャンネル登録よろしくねー。では。いっきまーす!』
(ヤメルンダ)
『え?』
脳内に直接語りかけてくる声。テレパシー障害かとハッカイは思ったが、どうにも違うようだ。
(チキュウヲ・ハカイシテハ・イケナイヨ)
『……アワワワ』
ハッカイは震えながら泣いていた。
「……大宇宙神『ネィティー・コルド』様?」
ネィティー・コルド。全てを創りしゼロの者。全知全能唯一絶対の宇宙の神。宇宙を生きる者なら産まれた時からその偉大さと尊さを知っている。
ハッカイの視聴者の数は無量大数のその先にまで膨れ上がっていた。宇宙空間でハッカイは膝まずいた。聞きたいことは山ほどあるが口が動かない。『会話をすることさえ』畏れ多くて出来ない。
ハッカイに出来るのは祈ることだけだった。だが不思議とそれが心地よい。
『今。私はネィティー・コルド様の掌の上にいるんだ』
全ての生命の生きるも死ぬも宇宙の過去も未来も全てはネィティー・コルドの気分次第。
それは宇宙人にとって喜びでしかない。『大宇宙神の掌の上にいる』という圧倒的実感。幸福感。
(チキュウヲハカイセズ,ソノママカエリナサイ、イイネ?)
『アバー!!』
「はい」と返事をしたつもりだったが涙と鼻水とヨダレで顔中がグシャグシャになってしまいまともに返事が出来なかった。
「ネィティー・コルドの命令を聞けた。返事ができた」事が嬉しくて仕方がない。
この幸せを今、宇チューブを通して全宇宙の民が共有している。
ハッカイは黙って立ち去った。自分がたてる音や発する声がネィティー・コルドの耳を汚してしまうのではないかと思ったのだ。
『ネィティー・コルド万歳!』
・
同時刻。地球。
「ニャー」
「ニャーじゃないよう」
「ニャー」
「だからニャーじゃないよう」
白猫は人間におやつを求めている。22時を越えて夜も遅いが人間は根負けして猫に液状のおやつを猫に与えた。
マグロの味が口一杯に拡がる猫のお気に入りの一品だ。
「マグロ。ウアイウアイ」
「マグロうまいうまいって言ってる?」
お腹が膨れたネィティー・コルドはお布団の上に横になり、笑みを浮かべながらゆっくりと目を閉じた。