表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

短編・中編集(ジャンルいろいろ)

新しく雇った参謀が魔王城を改造しすぎて笑えない

この小説にはTS要素が含まれています

 慢性的な人手不足に頭を悩ませている魔王。

 この度、新しい参謀を地方のダンジョンからヘッドハンディングした。


「お初にお目にかかります。

 スウェージと申します」

「おお……」


 玉座に腰かける魔王に、恭しく頭を下げるスウェージ。

 緑色の肌をした小柄な男で、髪をセンターで真横に分けている。

 黒縁の眼鏡をかけていかにも賢そうな面構え。


「わが軍は勇者の猛攻に耐え切れず、

 じりじりと支配領域が後退している。

 このままでは魔王城まで攻め込まれてしまう。

 守りを強化して欲しい」

「御意」


 魔王の命令に素直に従うスウェージ。

 頭が良さそうなので、何とかしてくれそう。


 これで我が城も安泰だろうと、魔王はすっかり安心してしまった。





 その数年後。


「おい、スウェージ。

 勇者が攻めて来たぞ!」


 ついに魔王城に勇者が現れた。

 三人の仲間を引き連れた勇者は、意気揚々と正門から魔王城の中へと入って来る。


「ご安心ください魔王様。

 とりあえず、このお薬をお飲みください」

「え? なにこれ?」


 差し出された小瓶を不思議そうに眺める魔王。


「栄養ドリンクのようなものです」

「ふぅん……分かった。ごくごく……おいしい!」

「お飲みになりましたね(にやり

 では、ついて来ていただけますか?」

「え? 分かった」


 スウェージは魔王を便所へと連れて行く。


「え? なんで便所?」

「まぁ……とりあえず一番奥の個室へどうぞ」

「え? うん……」


 魔王が個室の中へ入ると、そこには便器ではなく別の扉があった。

 それを開いてみると大きな暗い部屋に繋がっている。


 部屋の中では四角い窓みたいなのが光っており、魔王城の各部屋の様子が映し出されていた。

 いったいここはなんなのだろうか?


 魔王は不可解さを覚えて首をかしげながら、部屋の中央にある高級そうな椅子に腰かける。

 革張りの座り心地抜群な椅子。

 大きな魔王の身体にピッタリだった。


 巨大な光る窓には門の前に立つ勇者たちの姿が映し出されている。


「なんなんだ……これは?」

「勇者たちの動向を観察しているのです。

 これから彼らを罠にはめて倒します」

「へぇ……どんな罠なの?」

「まぁ、見ていてください」


 得意そうにすましているスウェージ。

 罠と聞いて普通ならワクワクするのだが、どうも不安だ。

 なにか嫌な予感がする。


 勇者たちは門を開いて中へ入った。

 相変わらずのガバガバセキュリティだなと魔王が思っていると、入り口のホールに勇者たちが侵入してくる。


 これからどんなトラップが発動するのかと思って眺めていると……。


「いまです!」


 

 がったああああああああああん!



 玄関ホールの床が全て抜け落ち勇者たちが奈落の底に真っ逆さま!


「え⁉ なにこれ⁉」

「落とし穴です」

「落とし穴って床の一部が抜けるトラップでしょ⁉

 なんで床全部抜け落ちてるの⁉」

「こうでもしないと引っかかってくれません。

 小さな穴に落としても仲間によって助け出されてしまいます。

 落とすとしたら一度に全員がベストです」

「だとしてもやりすぎじゃない⁉

 全部床落とすのはやりすぎじゃない⁉」


 白目をむく魔王。

 玄関ホールの床は跡形もなく全て抜け落ちて、巨大な大穴が口を開いている。

 落下した勇者たちはもちろん、穴の底すら目視できない。


「次だ! やれ!」

「え⁉ まだ何かやるの⁉」

「大量の溶岩を流し込んで勇者たちを埋めます」

「ええええええええええええ⁉」


 スウェージの指示により、四方から一斉に大量の溶岩が流し込まれる。


「ぎゃああああああああああ!」

「あつい! あつい!」

「死ぬうううううううう!」

「助けてぇ!」


 穴の底から聞こえる勇者たちの断末魔。

 魔王はたまらずに両手で耳を塞ぐ。


「ゆっ……勇者ああああああああ!」

「これにて一件落着ですね。

 勇者たちの次の来訪を待ちましょう」


 涼しい顔で言うスウェージ。


 勇者たちは死んでも教会からやり直せるので、また魔王城へやって来るだろう。






 数日後……。


「再び勇者が現れました」

「うむ……」


 パニックルームでモニターを眺める魔王。

 今回、勇者は一人で来た。


「どうした、仲間がいないぞ?」

「スパイの情報によりますと、前回のトラップがきつ過ぎて、

 他の仲間たちは全員ドロップアウトしたそうです」

「そうか……」


 あれだけのことをされたのだ。

 無理もない。


 魔王は緊張をほぐそうと背伸びをする。

 どうも最近、調子がおかしい。

 まるで自分の身体ではないような感覚がする。


「で……次はどんな仕掛けを?」

「まぁ、見ていてください」


 モニターを眺めながら口角を釣り上げるスウェージ。

 その横顔を見て魔王は背筋が凍る思いだ。


 勇者は前回の失敗を学習し、ワイヤーを飛ばす道具で照明器具にぶら下がりながら、床を踏まないように移動している。


「ほぉ……勇者も考えたな」

「ええ、想定の範囲内ですね。

 ぶら下がりやすいように天井にシャンデリアを設置しておきました」

「えっ、そうなんだ」


 照明がわざわざ用意された物とは知らず、勇者は玄関ホールを突破する。


 次の部屋では複数のトラップが勇者を待ち受けていた。

 床から突き出す槍、壁から飛んでくる矢、釣り天井。

 それらのトラップを難なく突破する勇者。


 さすがは歴戦の戦士。

 この程度のトラップに屈するはずがないのだ。

 魔王は心の中で勇者にエールを送った。


 続いて勇者が向かったのは長い廊下。

 ここを進めば一直線に玉座へと行けるのだが……。


「なんだ……廊下の幅が狭いな」

「ええ、勇者の体格に合わせて、

 両手両足が届くようにしてあります」

「なんのために?」

「まぁ……見ていてください」


 魔王が不思議に思ってみていると、勇者は両手両足を左右に伸ばして壁に突っ張り、床を踏まないように移動し始めた。


「何をしているのだ?」

「落とし穴を警戒しているのでしょう。

 天井にはひっかけられるものがないので、

 ワイヤーは使えませんから、こうするしかないのです。

 ……そろそろだな」


 スウェージは目を細める。

 どうやらまた新しいトラップの予感!


 すると、廊下の幅が急に広がって勇者の手が届かなくなってしまった。


 哀れ勇者は床へ向かって真っ逆さま。

 このまま落とし穴が発動するか⁉


 ……と思ったが何も起きない。

 勇者はホッと安堵のため息を漏らす。


「いまです!」



 がしゃあああああああん!



 スウェージが叫ぶと同時に、落下してきた釣り天井に押しつぶされる勇者。


「勇者ああああああああああああああ!」

「魔王様、ご安心ください。

 あの釣り天井の針には毒が塗ってあります。

 様々な毒を混合して作った世界最強の毒です。

 体内に入ると全身から変な汁を出して死にます」



 ぶしゃあああああああああああああああああ!



「勇者ああああああああああああああ!」


 釣り天井の隙間から大量に流れ出る変な液体。

 あまりの光景に魔王は両手で目を覆った。 


「おねがい……もうやめてあげて」

「さて、次の来訪に備えて新しいトラップを用意しておきましょう」


 消え入るような魔王の言葉を無視して、スウェージはにこりとほほ笑む。






 さらに数日後。


「性懲りもなくまたやって来ましたね」

「勇者ぁ……」


 うるうると光る窓を見つめる魔王。

 皮張りの椅子に座って勇者を見守る。


 なんか椅子の座り心地がおかしい。

 妙に大きく感じるのだ。

 最初はジャストフィットしていたのに……。


 三度目の正直と言わんばかりに魔王城にやって来た勇者。

 今度は何やら不思議なアイテムを手にしている。


「なんだあのアイテムは?」

「おそらく、無敵アイテムかと」

「え? 無敵アイテム?」

「はい、一定時間無敵になれます」

「なにそれ?」

「ご存じないのですか?」


 んなもん、知っていて当然のようにふるまうスウェージ。

 魔王は無知をさらすまいと口をつぐんだ。


 勇者が星の形をしたアイテムをかざすと、全身が光り輝いて高速で移動し始める。

 どうやらあれが無敵状態らしい。


 無敵になった勇者はまっすぐに玉座の間へと向かった。

 床が抜け落ちるよりも早く駆け抜ける。

 釣り天井も飛び出す槍も勇者の身体に触れたとたんに破壊される。

 どんなトラップも勇者を止めることはできないだろう。


「おおっ……すごい!」


 勇者の姿に魔王は感嘆を漏らす。

 この様子なら玉座の間までたどり着けるだろう。


 だが……。


「あの……俺ここにいるんだけど……」

「大丈夫です、身代わりを用意しておきました」

「え? 身代わり⁉」

「魔王様の代わりならいくらでもいます。

 よく言うでしょう?

 第二、第三の魔王が云々って」

「…………」


 スウェージの物言いに、不快感を覚える魔王。

 しかし、意固地になるわけにもいかない。

 グッとこらえて沈黙を貫く。


「魔王おおおおおおおおおお!」


 怒鳴り声を上げながら玉座の間に侵入する勇者。

 そこには魔王の姿をした人形が置いてあった。


 かなり出来が悪く、一発で偽物とわかるようなシロモノだった。


『ふはははははは! よく来たな勇者よ』


 へたくそなアテレコの声が玉座の間に響く。


「いままで散々こけにしてくれたな⁉

 今度は俺がやり返す番だ!」


 剣先を向けて宣言する勇者。

 偽物だと気づいていない。


「ねぇ⁉ なんであんなのに騙されてるの⁉」

「知りません、勇者に聞いてください」

「勇者あああああああああああ!

 気づけ! それは偽物だ!

 俺はここにいるぞおおおおお!」


 モニター越しの声が届くはずもなく、魔王の透き通った声は虚しく響くばかり。

 そんなことなど知ったことかと言わんばかりに、勇者は偽物の元へ向かって進んでいく。


「いまです!」


 スウェージの指示により、玉座の間の扉がひとりでにしまる。

 しかし、他に何も変化はない。


「いったい何が……」

「二酸化炭素です」

「え?」

「ですから、部屋に二酸化炭素を流し込んでいます。

 少しすれば高濃度の二酸化炭素を吸い込んで中毒死するでしょう。

 どんなに毒耐性をつけても無意味です」

「そっ……そんなぁ」


 ついにファンタジーらしくない要素まで持ち出したスウェージ。

 魔王はもはやこれまでかと絶望する。


 しかし……。


「あれ、全然倒れないぞ?」

「ばっ……ばかなっ!」


 モニターに映る勇者は平然と立っている。

 まるで何事もなかったかのように……。


「いったいどうして?! なぜ倒れない⁉」

「あれが俺の偽物だからさ」

「え? ゲェッ! 勇者!」


 二人の背後には勇者が立っていた。


「どっ……どうしてここがっ⁉」

「地道に諜報活動を続けていたのさ。

 最初のトラップで正攻法だと無理だと分かったから、

 俺が正面から攻め込んで注意を反らしている間に、

 仲間たちにお願いして魔王城を調査させたんだ」


 なるほど……仲間たちが抜けたのはそのためだったのか!

 魔王は心の中で賞賛の言葉を送る。


 勇者すごい!


「くそっ……こんなことが……!」

「悪いがお前には死んでもらうぞ、スウェージ。

 今まで散々、苦しい思いをしたからな。

 やられた分はきっちり返させてもらう!」

「ぬがああああああああ!

 貴様のようなクソガキに――



 すぱっん!



 勇者が剣を一振りすると、スウェージの首が吹っ飛んだ。


「ふんっ、これで邪魔者は消えたな。

 次は魔王、お前の番――

「勇者あああああああああああああ!」


 魔王は勇者の身体に遮二無二抱き着く。


「勇者ぁ! 会いたかったぞ、勇者ぁ!」

「え? 魔王⁉ お前、女だったのか⁉」

「え? 女っ⁉」


 慌てて自分の姿を確認する。

 今更だが、スウェージに飲まされた薬によって、少しずつ身体が変化していた。

 気づけば魔王は美少女に生まれ変わっていたのだ。


「どっ……どうしよう勇者……!

 うわあああああああああああああん!」

「大丈夫だよ、安心しろ。

 それと……俺もお前に会いたかったよ、魔王」


 抱き着く魔王の身体を優しく受け止める勇者。

 そして二人は……。


「勇者……ずっとお前のことを見守っていた。

 諦めない姿がカッコよかった……」

「そっ……そうなんだ」

「私と戦う?」


 一人称が私になった魔王。

 小首をかしげ、うるんだ瞳で勇者を見上げながら尋ねる。


「いや……なんかその気は失せたわ。

 仲直りしよう、魔王」

「……うん」


 二人は熱い握手を交わす。


 こうして魔族と人との和解が成立した。

 魔王と勇者の二人は結婚して幸せに暮らしたそうだ。






「ククク……」


 モニター越しに仲睦まじく暮らす勇者と元魔王の二人を監視するスウェージ。

 首には縫い付けた跡が残っている。


「魔王に飲ませたクスリの効き目はおよそ5年。

 二人が最高に仲良くなったころに、魔王は元の姿に戻るのだ。

 最愛の美少女がむさくるしいおっさんになった瞬間に、

 貴様は本当の地獄を味わうことになるぞ……勇者よ!

 アーハッハッハッハ!」


 人を罠に陥れて楽しむ男スウェージ。

 多分だが、いい死に方はしないと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] スウェージの罠がガチすぎて笑いました。 特に最後のトラップは…勇者が心の病気になってもおかしくありません。 スウェージに天罰が下ることを祈ります(笑)
[一言] TS薬の定番だと子供ができたら性別が女のまま定着したりするので 5年後なら問題ない、かも スウェージはもう飽きてて「これも面白いですね」とかw
[良い点] 凄く笑いました~。 魔王の「勇者あああああああああああああ!」という叫びが、ツボに入りました。 魔王の女体化(!)について、それまでの文章の中で暗示されているのも面白かったです。 [一言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ