02
お久しぶりです!今月中に完結を目指して頑張ります!
イヴを寝室に残し部屋を出るとリースは迷わず地下にある自分の研究室へと向かう。
無事にイヴは目覚めたが、寝ている間はもちろん起きて自分と会話を交わしている間もイヴの手首に脈はなく体の温度も生きている人間のものとは思えないほど冷え切っていた。
悪魔との取引きが上手くいかなかったのかと心配になり地下の研究室にある悪魔召喚や呪術儀式に関する本を読み返して見たがどれも形式的なものばかりで何の役にも立たない。
「一体イヴはどうなってしまうんだ……」
ようやく二人で穏やかに過ごせると思っていたのに、これではいつまたイヴが目覚めなくなってしまうか不安でおちおち睡眠もとれない。
リースが山のように積み上げられた本に埋もれるようにして机に項垂れると、どこからか聞き覚えのある声が響いてくる。
「おやおや、願いが叶って喜んでいるかと思えばどうしたのですか?」
声のした方を見てみるとそこには先日取引をした悪魔、メフィストフェレスが上からこちらを見下ろしていた。
「!ちょうど良かった、あなたに聞きたいことがあるんだ」
リースは勢いよく立ち上がると宙に浮かびこちらを見下ろすメフィストフェレスの足元まで駆け寄る。
「私に尋ねたいことがあるとは、貴方は本当に怖いもの知らずですね。私が何の対価も得ずに貴方の質問に答えるとお思いなのですか?」
悪魔らしいニヒルな笑みを浮かべてこちらを見た彼の視線と目が合い思わず一歩その場から身を引いてしまう。
「冗談ですよ、私と貴方の仲ですし特別に何でもお答えしましょう。それで要件とは?」
メフィストフェレスは宙に浮いたまま足を組んで座るとルースに笑みを向けた。
「実はイヴは目覚めましたが、脈もなく体温も異常に低い……つまり、身体が死体のままのようなのです」
ルースは思い切って自分がずっと思っていたことを言葉に出して言うと目の前の悪魔からは驚きの答えが返ってきた。
「えぇ、そうでしょうね。彼女は死者ですので」
返ってきた言葉の意味が理解できず思わず呆気に取られてしまう。
「確かに貴方との取引で彼女を蘇らせはしましたが、生前の状態に完璧に戻すなど私は一言も言っておりませんよね?」
ごくごく当たり前のように話すメフィストフェレスの言葉を聞きルースの心に怒りが込み上げてくる。
「ッそんな!「契約が違う?」」
ルースの言葉を先読みしたかのようにメフィストフェレスが言うと、彼は面白そうに腹を抱えて笑い出す。
「あぁ、面白い。いつの時代も人間は自分の都合の悪いことが起きると同じことを言うものですね。私は契約を違えたことは生まれてから一度もありません。今回の契約も貴方の望みはしっかりと叶えました」
「確かにイヴは目責めましたが、これではいつまた目覚めなくなるかわからないではないですか」
「あぁ、彼女が再び死んでしまうことをご心配なのですか?ご安心下さい、彼女は銃で打たれようとも死にません。彼女が死ぬ時は審判の炎にその身を焼かれた時だけです」
「審判の炎?つまりイヴは炎で焼かれない限りは死ぬことはないのですか?」
「まぁ、そういったところですね。しかし、勘違いしないでほしいのが死にはしないが身体に受けた損傷は治ることなくそのままだと言うことです。つまるところ貴方は差し詰めネクロマンサーにでもなったと言ったらいいですかね」
「治癒しないと言うことは損傷部位は放置すればそのまましたいと同じく腐敗が始まると言うことですか?」
「さすがイーヴリース医師!ご明察です。彼女の身体は常に終わりに向かって時を刻んでいます、今のままの美しい状態を保ちたいのならばあらゆる手を尽くすことをお勧めしますよ」
メフィストフェレスはそういうと胸ポケットに入れた懐中時計をおもむろに取り出して時間を見ると慌てて立ち上がる。
「おっと、いけない。今日はこの後約束があるものでね、今日のところはこれで失礼します。良い時間をお過ごしください……イーヴリース・ウィンザー様」
そう言い燕尾服を翻すと一瞬にして姿を消してしまった。
地下の研究室には元の静寂が戻り一人でただ宙を見上げたままのルースがぽつりと佇んでいた。
◇◇◇
イヴをこのままの状態で維持するには定期的に薬剤を投与する必要があるだろう。幸い職業柄、薬剤はすぐに手に入るが問題はイヴだ。
きっと自分自身でも脈がないことや異常に身体が冷たいことなど気づくだろう。
彼女は生前から自分のことよりも他人のことを思うような優しい性格だ。きっとイヴを甦らせるために私が悪魔と取引をしたと知ったら悲しむだろう。
リースはトレーに乗せたスープを見つめながら今後のことに頭を悩ませる。
そもそも身体が死体のままであるならば飲食も不要なのでは?と考えてあえて食事は固形物を混ぜずにスープだけを用意した。
いつの間にかイヴのいる寝室まで来ると控えめにノックをして部屋へと入る。
「イヴ?体調はどうだい?」
部屋に入るとイヴはベッドの上で上半身を起こして窓の外を見つめていた。
「リース!戻ってくるのが遅いから心配したわ、体調は何だか変な気分なの……どこか痛むわけでもないのだけど全身ひどく冷えていてまるで死人のようで」
イヴのために用意したスープをベッド脇にある机に置き、自分の体の異常に困惑しているイヴを優しく抱きしめる。
「急にこんなことになって驚いているよね、実は君は今から三年前の嵐の夜に死んだんだ」
いきなりのことでイヴは理解できないようできょとんとした表情で見返してくる。
「え?私が死んだ?」
最愛の人に対してこんなことを言う日が来るとは……と心で神に悪態をつきつつできるだけ優しい笑みを浮かべてイヴの手を握る。
「三年前の嵐の日に屋敷に強盗が入ったんだ。君は運悪くその場に居合わせてしまって私が駆けつけた時にはすでに息をしていなかったんだ。けど、この三年間で私は蘇りの薬を開発することに成功したんだ!だからこうして再び僕は君と言葉を交わせられるんだよ!」
あまりにも急な話でイヴはうずくまるようにして布団に顔を埋めてしまう。
「イヴ……」
細く華奢な体を震わせて小さくなるイヴの肩を抱き寄せようとするが、イヴの言葉によって遮られる。
「ごめんさないリース。少し一人にしてもらえるかしら?」
まるで自分を拒絶するように一人でうずくまるイヴを見て悲しみが込み上げるが、今は時間をあげた方がお互いのためにもいいだろうと思いドアへと向かう。
「イヴ、何かあればベッド脇のベルを鳴らして。いつでも君の元へ駆けつけるから」
イヴは返事をすることなくただ小さく頭を縦に振っただけだった。
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