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01


ここは帝都ヴァレリの中でも治安の悪いルーベン地区。立ち並ぶ建物はどれも古く人の住んでいる様子は伺えない。


そんなルーベン地区を進んで行った先に一軒のお屋敷がある。ここは昔帝都戦争があった時に使われていた古いお屋敷だ。


今では主人を亡くし屋敷の壁には蔦が蔓延り廃墟同然とした不気味な雰囲気を漂われている。


そんな昼間でも滅多に人が近寄らない古屋敷の地下にイーヴリースは居た。


「あぁ……愛しのイヴ……もう少しで君と会える」


リースの前には石の台に置かれたかつての恋人であったイヴ・アッカーマンの遺体が置かれている。


部屋の中はイヴの遺体を中心にして描かれた不思議な円陣が施されており円陣の上には赤い液体が並々と注がれたゴブレットや骨など不気味な物が置かれている。


リースは死んだ当時のままの状態で保管されているイヴの遺体に口付けると、名残惜しそうに離れ右手に持った分厚い本を開く。


リースが本に書かれている呪文を唱え始めると窓から差し込む月の光に反応するようにして床に書かれた円陣が光だす。


置かれたゴブレットが倒れ中の赤い液体が円陣の上に流れ出ると、円陣を描いていた白い線はみるみるうちに赤く光だし中央に横たわるイヴの遺体を赤い光で包み込む。


光が最高潮に達すると部屋の上の方に一人の男が現れる。


男はその背に黒い蝙蝠のような大きな羽を生やし、その頭からはヤギの角のようなねじくれた角を生やしている。


服装は貴族然としており、羽や角がなければどこぞの大貴族と言われても疑わないだろう。


「私を召喚したのは君かな?」


男は狂気を孕ませた瞳で自分を見るリースを見下ろしながら言う。


「あぁ……貴方はメフィストフェレスですね?どうか私の願いをお聞きください」


リースは神に祈るようにその場に膝をつき両手を胸の前で握りメフィストフェレスに乞う。


「どうか私の恋人であるイヴ・アッカーマンを甦らせてください。どんな代償もお支払いいたします」


メフィストフェレスは台の上に横たわったイヴの遺体をちらりと見るとリースへと視線を戻す。


「いいだろう、お前の恋人を蘇らせる代わりにお前の最も大切なモノを貰おう。期限は今から48日後の新月の夜だ」


リースはメフィストフェレスから突きつけられた要求に息を呑むが、何を代償にしてもイヴを生き返らせることができるならと喜んで頷く。


「では契約成立だ。お前48日後にお前を迎えにくる。それまで幸せを噛み締めるがいい」


メフィストフェレスはそういうとイヴの遺体に魔法をかける。


勢いよく燃え上がる青白い炎にイヴの遺体は包まれると、この世のものとは思えない叫び声をあげてイヴの遺体は上半身を上げる。


「イヴ!」


リースは炎に包まれるイヴの遺体を心配そうに近くで右往左往しながら眺めていると徐々に炎は鎮まり台の上にはイヴの体だけが残った。


「イヴ?」


リースは炎が鎮まると急いでイヴの元へ駆け寄りその体を抱き上げる。


抱き上げた体は遺体の時と同じく冷え切っており、イヴが生き返ったとは信じ難い。


リースは悪魔に騙されたのかと落胆するが、強く握った手に弱々しいながらも握り返そうとするイヴの手に気付き歓喜する。


「イヴ!イヴ!私だ、リースだ!」


リースが腕に抱いたイヴに何度も声をかけるとイヴはゆっくりと目を開く。


「リース?」


掠れて今にも消えいりそうな小さな声だったがリースは自分の名を呼ぶイヴの声を聞き涙を流す。


「イヴ、すまなかった……。もう大丈夫、二人で静かに暮らそう」


リースはそう言うとぐったりとしたままのイヴの体を抱き上げて地下室を後にした。



◇◇◇


リースはイヴを連れて大きな天蓋のついたベットに横たえる。


イヴの体は相変わらず冷え切っておりとても生きた人間の体とは思えない。


しかし、リースにとってそんなことはどうでもいいことなのだ。こうして再び言葉を交わし二人で静かに暮らせるのであれば例えそれが遺体のままの体だろうと関係ない。


リースはベッドに横たわるイヴへ口付けをして近くにあった椅子に座る。


「イヴ、もう大丈夫。何者にも君を傷つけさせはしないよ」


リースは横たわるイヴを一晩中眺め続けていた。



◇◇◇


イヴをずっと眺めていたら気づけば窓から朝日が差し込んできて朝がきたことに気づく。


窓から差し込む太陽の光がイヴの青白い顔を照らす。


リースは慌ててカーテンを閉めようと立ち上がるが、それより早くイヴが目を覚ます。


「うぅ……ん」


イヴはゆっくりとベッドから起き上がると窓辺に立ったリースを見る。


「リース?」


イヴが声をかけるとリースは満面の笑みを浮かべてイヴの元に駆け寄る。


「リース……私……」


イヴが記憶を思い出そうと必死に頭を押さえるが、頭痛がするばかりで眠る前のことを思い出せない。


「イヴ、大丈夫。無理に思い出そうとしなくて良いんだ。今はゆっくり休んで」


リースにそう言われ再びイヴはベッドへ寝かしつけられる。


「後で少し身体を診よう。随分と眠っていたからどこか不調があるかもしれない」


リースはそう言うとイヴの頭を優しく撫でて、朝食の準備をしてくると言って笑顔で部屋を出て行った。



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