表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

森の奥の小さな店

作者: 田沼意次

 ある日、私が営業する飲食店に何日かぶりの客が訪れた。


 180㎝ほどの高身長、すらっとした体型、整った顔、クールな雰囲気。


 そして、その男は私の友人であった。


 友人は扉を強引に開けた。室内に鈍い音が響いた。


「単刀直入に言おう。お前俺の妻を殺したな?」


 友人の目には怒りの感情が強く映っていた。


 その目を見ても私にはなんの感情も浮かばなかった。


 数分の間、沈黙が漂った。


 友人の目は炎のように燃え始め、こう言った。


「お前が友人だとしても、お前は俺の妻を殺したんだ。探偵を雇って調べさせたんだ。本当に決まってるはずだ。なあ、本当のことを言ってくれよ。じゃないと俺が殺人を犯しちまうよ。今俺は本当に狂ってんだ。頼むよ」


 私は死にたくはなかった。本当のことを言うしかなかった。


「分かった。言うよ」


「まず前提条件だけどお前の妻は私に、殺して欲しい、と言ってきたんだ。俺が殺してくて殺したわけじゃない」


「本当か?」


「ああ。どうせなら音声もあるけど聞くか?」


「いや、いい」


 友人の目の中の炎は消えていた。


「続けるぞ。お前の妻は仕事関係でいろんなトラブルがあったらしい。私も詳しくは聞いていないが。でも一緒にいたお前なら感づいていたんじゃないか?まあとりあえずそんなことを聞かされた。それが確か2日前だった。でも、もちろん最初から殺そうとはしなかったよ。だから私の最大限の語彙力で説得した。そしたら、自分の手で首を閉めようとし始めたんだ」


「私はこの時に諦めた。彼女の言うことに従うことにした」


「そして彼女は言った」 


『この毒を使った料理を作って欲しいの。それを食べて私が死ぬ。これこそ最後の晩餐。最高じゃない』


「私はすぐに料理を作った。いつものコースに毒を含ませたものだ。作って彼女が食べて死ぬまで、それは一瞬の出来事だった。そんなところだ」



「そうか」


「ならせめて妻の顔を見させてくれないか。まさかまだ処理してないよな?」


「そんなわけないだろう。ただかなりの死臭がするぞ。それでもいいのか?」


 俺は一瞬迷った。それでも愛しい妻の顔を見たかった。 


「いいよ。早く見させてくれないか」


 俺は案内され、階段を上がり二階の部屋にたどり着いた。


「じゃあ開けるぞ」


「おう」


 ドアがぎしぎしと音を立ててゆっくりと開いた。


 部屋の中を見て俺は腰を抜かしそうになってしまった。


 部屋の中には妻の死体のほかに100人越えの女の死体がいた。その死体たちは妻を中心として同心円状に陳列されていた。女たちの顔は何故だか嬉しそうだった。


「おい、どうなって」


 俺の視界には狂った顔をして包丁を持つ友人と思われる人影が見えた。


 この女たちもこいつに気を許して死んでいったのだろうか。


 けれど、包丁から見えた俺の顔は、何故だか笑っていた。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ