家庭教師へ
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「お久しぶりです。相変わらずお奇麗ですねお母さん。」
「そんな褒めてもなんもでないわよ。」
なんだろうかと町は思った。自身の母親との漫才。そして急に彼女が訪ねてきたことについて。
「その様子じゃ携帯見てないんだね。」
その言葉から彼女が事前に電話をかけていたことが想像できた。携帯電話には少ししか触らずさらに電話もチェックをしていなかったために彼女が訪ねてくることが分からなかった。
「だいたいお前こそなんでここにいるんだ。」
町は聞く。
「大学が休みだからよ。少しぐらいは実家に顔を出さなとまずいでしょ。私は本当は大学院で研究をしていたいのだけど。」
そしてあなたこそと彼女は付け足す。
「どうして実家にいるの。社会人に春休みはないでしょ。」
おそらく知っているという口調だった。自分が会社をやめ、いわゆるニートのような生活をしていることを。
「まあおばさんから話は聞いているのだけど。」
やはりか。町はそう思う。しかし母親が情報の発信源だということには驚いた。予想ではこちらにいる高校時代の同級生が自分が実家に帰ったことを目撃し彼女に言ったのだと思ったから。町は思わず台所でお茶の用意をする母を睨む。
「辞めたことが後ろめたいのなら今すぐ会社に再就職でもすればいいのに。あなたの実力なら十分に戦力だったでしょ。」
「そんなことできるかよ。」
町は初めて感情の乗った返事を返した。
そして京子は指を突き出し口を開く。
「そこであなたに提案があるのよ。」
「提案。」
「ええ。あなた、家庭教師に興味はない。」
家庭教師。という部分を強調して彼女は発言した。それに対し町は黙る。彼女の言葉が理解できなかったから。
「だったら私についてきて。あなたに合わせたい娘がいるの。お金は弾むから。」
母に出されたお茶を一気に飲み干し二人で外へと飛び出す。母と出ない久しぶりの空だった。