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見識者  作者: ののの
3/6

第3部分、1244字【夏鈴の日常】

 二〇二〇年、七月一五日。


「夏鈴」


 少し、咎めるような含みのある呼び方。

 本気で誘ってる訳でもないのに、その声音は心外だった。

 春に判らない訳もないでしょと、抗議を瞳に後ろを向いたけど。

 どうやら春は先輩を忘れてたらしい。

 それならまあ、僕が仕事を放棄したようにも見えたかもしれない。

 それからしばらく先輩と談笑して、僕達は仕事に戻った。


 ¥


 仕事を終えて、自由になった。学校は早退したし、戻る気はない。

「いやぁ簡単だったね〜、あれくらいなら僕たちじゃなくても良かったのにね」

「そうでもないよ。6人も食べれば、私から逃げ切るくらいはできるから・・・・・・スピード勝負?」

「ふぅ〜ん。そなの」

「私は道場行くけど、夏鈴は?」

「えぇ? 道場? ゲーセンとかカラオケ━━」

「行かない。ばいばい」

 春は小さく手を振って離れて行く。

 こんな時間に道場行っても誰もいないのに。

「春、まだお昼前だよ? 一人で何するの?」

 少し首を傾げて五歩。

 ピクリと反応を見せた春は肩を落として立ち尽くした。


 ¥


 相対稽古が一段落し、外を見ればとっくに日が暮れていた。

 辺りを見回せば七五人の稽古相手全員、疲労困憊で立てもしない。

 呼吸するのも辛そうで、これ以上稽古を続けられるとは思えないし、時間もいい塩梅。

 手を叩き、注目を集めてから声を張る。

「今日はこれで終わり! みんな家に帰って休みなさい!」

 ━━ハイ! ありがとうございました!

 無理矢理出しましたって感じで覇気のない返事だったけど、統一できてるから及第点。

 フラフラと帰り支度を始める人や、寝転がったままの人の中、少し離れた所でバテてる春は天井を見つめて動こうとしない。

 いつもの一人反省会だろうし、邪魔をしないように三〇分くらい時間を潰すか。

 そう考え周囲を眺めていると、道場の玄関に一人の男(イイヌマ)が立っている事に気が付いた。


 目視するまで、全く気付けなかった。


 その事実に瞬間戦慄を覚えるも、僕は義務的に飯沼(イイヌマ)へ声を掛ける。

「飯沼ぁ! こっち来て!」

 気配を絶っていた割には素直で、飯沼は駆け足で近づいてくる。

 その動きを見て変化を確信できた。

「どうしたん、です? カリンさん?」

「夏鈴さん? 少し見ないうちに、随分気安くなったね?」

 適当な理由で強い怒気と微かな殺気を当ててみたけど、飯沼は気にした素振りもなく頭を下げ。

「ああ、すいません、言い間違えました、東堂(トウドウ)さん」

「・・・・・・まあ良いけど、親御さんが捜索願を出してたよ。万一を考えてこちらでも捜索はしたのに、飯沼は見つからなかった。さて、どこに居たんだい?」

 聞くと、飯沼は流暢に答えた。

「あぁ、修行してたんですよ。ちょっと自分自身に思うところがあったんで。親とか、周囲に黙ってたのは考えが足りませんでした。すいません」

「そっか、アレに籠っていたんだね。それで見つからなかったんだ」

「はい、ご迷惑をお掛けしてすいませんでした。皆さんにも謝っときます」

「そうだね。それじゃ自由にしていいよ」

 確か、九九年生まれの二〇歳だったっけ?

 三週間くらい前に会った時は相応だったかな。多分。

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