第2部分、864字【彼の日常】
二〇二〇年、七月一五日。
自宅近所のコンビニで旨塩チキンにしようか旨辛チキンにしようか悩んでいると、久し振りの声を聞いた。
ついそちらに目をやると、果たして元後輩の少女が入店して来たところで。
夏鈴は俺と目が合うと、驚きを表情にあざとい小走りで近づいてくる。
「先輩! お久しぶりッス! 何してんスか?」
「普通に買い物だけど、お前こそ何してんの? 学校は?」
約二ヶ月ぶりに顔を合わせたが、コレと言った変化はない。
肩辺りまでの黒髪に、少し着崩した制服。綺麗な顔、あざとい仕草、あざとい声、あざとい態度。
ただ、今日は水曜日だったはず。ダウンタウンの日だ。
JKが真昼間にウロついてるのはおかしい。
「夏休みッスよ〜」
と、花が咲いたような笑顔を見せ、続ける。
「てか、久しぶりに先輩に会えて嬉しいッス! でもずっと寂しかったんで、これから一緒に━━」
「夏鈴」
夏鈴を呼んだのは小さく、ぼんやりとしていて、常人なら喧騒の一つとして聞き流してしまう様な声だった。
しかし、二〇センチ程の距離で上目遣いに俺を見つめていた夏鈴は言葉を止め、背後を振り向く。
声の主と夏鈴は見つめ合ったまま動かないから。
「久しぶりだな、春」
この二人は普段纏まって行動してるから、最後に会ったのは約二ヶ月前だった。
春は寝ぼけたような無表情でこちらを見やり、数秒間俺の目を注視し。
「うん」
大きく頷いて、視線を夏鈴に戻した。
俺の事覚えてなかったな。少しショックだ。
「悪いな夏鈴、お前らにも用事があるんだろ? 俺も用事があるからまた今度な」
「まあしゃーないッスね。ただ、その代わり連絡して欲しいッス、先輩から」
「別にいいけど、お前から連絡してきたっていいだろう? 何で━━」
「チッチッチッわあかってないッスねェ〜! 先輩はぁ! こう言うのは男の子から誘うもんなんスよ! カケヒキってモンがあって、僕から誘うんじゃ━━」
その後も少しばかり話をし、結局俺は旨辛チキンを購入し二人と分かれた。
チキンはギトギトの油を落とすために買ってすぐオーブントースターに入れたので、真っ直ぐ帰宅した俺が帰る頃には食べ頃だった。
も・・・・・・ムリ・・・・・・。
たった1000文字がこんなに辛いなんて思わなかった。
読了時間2分とか言う絶望。




