07◆◇◆場所:『レンガ造りの廊下』……語り手:『若造』
◆◇◆場所:『レンガ造りの廊下』……語り手:『若造』
「しつけぇってんだよ! いつまで追いかけてきやがんだ!」
『マッチョ』と『猫』と『オレ』の追いかけっこが、まだ続く。
いつのまにか周りは、『屋外』から『屋内』へ。
『死武専』とか、『ホグワーツ魔法魔術学校』ばりの『迷宮』っぷりで、『上を下へ』の『階段ラッシュ』に、扉の行列で、どこをどう走りまわったか見当つかずの迷子決定。
「つうか、どのくらい走ったかもわかんねぇYO!」
きっと、『四十二・一九五キロ(消費カロリー)』は走った気がするぜ。
「居たぞ、あっちだ!」
「やべっ、ばれたっ!」
あぁ、しつこい。しつこすぎる。これがウワサの【削除人】ってヤツか。
もう勘弁してください。
「もう、『化け猫』と、それに『従うバカ』ばっかじゃねぇか! これが『ゆとり教育』の弊害かよっ!」
腹いせに壁を蹴ってみた。
ものすごく痛くて、後悔。
――やっぱり、全然、夢じゃねぇ!
「あっちで、音がしたぞ!」
あっ、しかも自分で居場所を知らせたみたい。
――ますますピンチ。
「って、ぐぉっおぉっっお、おおおおおおおおおおおおおお!」
階段から落ちた。
『ゴロゴロ』と、『ボウリングの玉』みたいに転がって、思いっきり落ちる落ちる。
「いてぇ……足が」
あぁ、スゴく痛い。めっちゃ痛い。うわっ、なんか、めっちゃ腫れてきてんだけど!
「畜生ッ、アイツどこいったんだ……?」
階段の上のほうで、マッチョの声が聞こえる。……ひぃ、オレを探してるらしい。
足を引きずりながら、壁に手をやりながらに、『けんけん』しながら逃げるオレ。
おっ、あそこにちょうどよさそうな『隠れ場所』、発見。
「……くそっ、さすがに限界かよ」
足が『ずきずき』痛みやがる。次に見つかったら、もう逃げれそうにない。
『マイナス』な状況では、『マイナス』な考えが浮かぶもので。
「捕まったら、あんなことや、こんなこんなことを……」
一度考え出すと、『歯止め』なんてつかないもので。
「……いや、待てよ。アイツら、売り飛ばすとか言ってたな。どこに売り飛ばす気だ……」
『黒い服』+『マッチョ』+『首輪』+『売り飛ばす』、願いましては『無限大』?
「うおおおおおぉぉぉぉ、やっぱり『変態系』の店に売り飛ばすのか! はぅ、オレの『純潔』が汚されちまう! もう『お婿』にいけない! 表を歩けなくなっちゃう! 『カムバック』、『オレの青春』ッ!」
自分で言うのもなんだが、かなり『ボケ』倒してると思うぜ。
――だけど、冷静になって欲しい。
もし、自分が同じ目にあったらどうするよ?
「ふぐぉぉぉおおおお!」
いきなりツッコまれた。
『オレのボケ』を見かねた、『読者からの一撃』がオレの『後頭部直撃』。
それも、分厚く、硬いもので延髄に、死ねと言わんばかりに、強烈に。
「た、頼む! 何でもするからオレの青春を返してくれ……!」
殴られた方向に向かって、思いっきりの『平謝り』。
マジで、『純潔』だけは勘弁してください。
「……だ、大丈夫ですか?」
『銀鈴』のような優しく心地のいい音色。
「……あ、あれ。さっきの『ムサい男』は? 『野太い声』は? 『化け猫』は?」
オレの目の前に佇む『小柄な靴』に投げかける。
――つうか、位置的に足しか見えん。
「って、いきなり殴ったな、てめぇっ! それも、なんかよくわからんけど、分厚いモノの角でッ!」
「ひっ、ごめんなさい」
思わず、今まで溜まってた鬱憤をここぞと、ばかりに出しちまった。
ちょっ、何だ。
小柄で『ヘッドドレス』つけた、いかにも『メイド』っぽい、かなり『可愛いコ』が怯えてるんだが。
「い、いきなり人が倒れたと思ったら、急に『気味の悪い』声をあげながら『悶えだした』から驚いて……」
――怯えながらもはっきり言ってくれるじゃねぇか。
「特に、『頭』とか全般的に、『大丈夫』ですか?」
……あれ。
句点とアクセントの位置がおかしく聞こえたのは、オレが動揺してるせい?
な、なんだこの『胸の高鳴り』はっ!
「あぁ、わりぃ。大丈夫だ。特に『頭以外』はばっちりだぜ」
「……今、さらっと『皮肉』言いましたね?」
うわっ、自然に返したつもりなのに、『カンに触った』らしい。
『乙女心』ってのは難しいぜ。
「おい、こっちで声が聞こえたぞ!」
「やべっ、アイツらが来る。逃げないと!」
くそっ、オレの『青春ラブロマンス』に水差してんじゃねぇよ。どこまで、鬱陶しいヤツらなんだ。
「――ッ!」
走る激痛は、さっきの捻った足で。
……そうだ。
すっかり忘れたけど、オレって走れる身体じゃねぇ。
「きゃっ! 酷いケガ……」
「大丈夫、こんなの唾つけときゃ治る」
なんか強がってるぞ、オレ。
もしかして、この『メイド』さんに『ズキューン』って、『一目ぼれ』ってヤツなのか?
「……無理しちゃダメです」
そう言うと、『メイド』さんはオレの腕を取って……。
「ほらっ、私に捕まって」
と、俺に肩を貸してくれた。
鼻腔をくすぐる『甘い香り』はなんて『香水』だ? イマイチわからんが、たまらんぜ。
「あぁ……」
突然、『力ない声』が、『耳元』でしたと思ったら『手を離された』。
「ぐぁがっ!」
さらに、『足払い』を決めながら、『キメにかかる』勢いで、思いっきり『こかされた』!
「ごめんなさい。ちょっと、手が滑っちゃいました」
……まぁ、手が滑ったんならしょうがない。
事務的に聞こえるのはきっと、照れてるに違いない。
「あぁ。大丈夫だ。それより、キミのほうが大丈夫か? ……オレ、こう見えても、結構、重いぜ? 鍛えてるから」
「平気です。……私こう見えても、結構、『力持ち』ですから」
でも、それが強がりなのがわかった。
だって、『足元が震えてる』んだぜ。『よたよた』歩いてるんだぜ?
「でも、結構、辛そうじゃねぇか。大丈夫か……?」
「えぇ……、大丈……夫です」
全然、大丈夫そうじゃない。
ぶっちゃげ、オレのほうが健康そう。
だけど、『メイド』と眼が合った瞬間、告げられた。
「ケガ人を……ほっとくなんてできません」
あああああああああああああああ。
なんて、純真な天使なんだ!
これが『ナイチンゲール』の『看護精神』ってヤツなのか!
思わず『眼から汗』が出ちまいそうだ。
「……わりぃな。その……なんて言ったらいいか……」
上手く口に出せない、この気持ちは、何なんだ。
『ラブストーリー』とかでありがちな場面かもしれないが、当事者は『キビシイ』ぜ!
「ふふっ」
しどろもどろのオレにその『笑顔』は、『一撃必殺』だぜ!
「こういう時は、『ありがとう』って言うんですよ」
『ズガガガガン』と、オレの『ハート』が打ち抜かれた。
もう無理。激しく無理。絶対無理。
ツボに入っちまった。
さっきの『マッチョ』に『追いかけられた』『反動』から考えてくれよ?
いきなり『好きなコに告白された』気分だぜ。それも、『入学式で初めて』会ってからの『一目惚れ』で意識しながら『告白のタイミング』を図りながら、『最後の卒業式』で『勇気を振り絞って告白』した相手に『私も好きでした』って言われるぐらいの『両想い(ハッピーエンド)』っぷり。
「そうだな。……ありがとよ」
って答えるのが精一杯ってもんだぜ。
「どういたしまして」
また微笑まれた。もちろん、『満面の笑顔』で!
彼女の一挙手一投足が、今のオレを狂わせる。
これが、『恋』ってヤツか。
これが、『愛』ってヤツか。
「嗚呼、これが『夢』じゃなかったらいいぜ」
こうして、『メイド』さんとオレの『バラ色の逃避行』が始まった。
『マッチョ』と『化け猫』よ、さらば!
こんにちは、オレの青春!
なんか遠くのほうで、聞こえた。
「《くそっ、どこ行きやがった》、《そっちはどうだ?》、《いや、こっちにもいねぇ……》、《大の大人が二人がかりで、『若造』一人、捕まえられないとは》、《すいません、『奴隷商』さん》、《……もういい。それに、そろそろ時間だ。今日の『見世物』はとても面白いぞ?》、《クハッ、今から楽しみで仕方ない》」
なんかそんなカンジのが聞こえた気がするけど、きっと『キノセイ』に違いない。
今はそんなことよりも、『メイド』さんとの『スイーツタイム』を楽しみたいもんだぜ。
同じ人間なら、この気持ちわかるよな?
◆◆◆場所:『休憩時間の教室』……語り手:【電波な管理者】
「わかんないっ! さっぱりわからない!」
私は、『ムキー』と、苛立ってみた。ホント、『男心』ってのが、さっぱりわからない。
「まぁまぁ、人それぞれ好きなモノがあるんだから、いいんじゃない?」
と、『セミショート』の『クラスメイト』が答える。
「そりゃ、アンタの『彼氏』は、『オタク』だからいいのかもしれないけど……。私は納得行かないわ! なんで、あんな『二次元』の『ふぇ~』とか『ほぇ~』とか『あわぁ~』とか『ふにゃ~』って『頭悪そう』っていうか、『ぶりっこ』っぽい『幼女』に萌えてんのよ! って、うわっ、『萌え』って言葉使っちゃったじゃない!」
「えぇっ! えっ、わ、私たちそんな仲じゃないって。全然違うって!」
って、『ツッコミ』はそっち!
私が最初のほうで言ったことは、『華麗にスルー』ですかい!
「全然違うって、誰がどう見ても、そうじゃないのよ。はいはい。ごちそーさん」
《違う、違う》と全否定してるけど、顔が真っ赤だって……。
「まぁ、何にせよ。何でまた、男ってのは、『か弱そうなコ』を好きになるかね? 『オタク』なんて、『余命いくばくもない』とか『記憶喪失』とか『わたし、魔法使いなの』って『電波キャラ』を好きになっちゃってさ。――現実にそんなヤツいたらどう思う?」
「……うーん。とりあえず、『フツー』に接するよ。私がそういう風な人の立場だったら、『仲間はずれ(はみご)』にされるのイヤだしね」
あぁ。しまった。
この手の話はこのコにしちゃ不味かった。
――そういえば、【知ってはいけない事件(あの都市伝説)】の原因は、この手の話題だったな。
「……ごめん、私が悪かった。忘れて」
「ううん、別に構わないよ。私も昔と違うしさ。今は、みんながいるし。もちろん、【電波な管理者】もそのうちの一人だよ?」
すっごく優しげな顔された。
あかん。涙が出そう。私が今までやってきたことに、ちょっと『罪悪感』。
だけど、私の『職業(立場)』上、それはできないので、そっと胸にしまって置こう。
《うん、ありがとう》とだけ、返しとく。
「で、さっきの話なんだけどね。男心かどうかはわからないんだけど……。人ってさ、『困ってる人がいたら助けたくなる』んじゃないかな?」
あぁ。やっぱりそれが『結論』になっちゃうか。
《だから、助けてくれたんでしょ?》とのダメ押し。
《そうかもね》とだけ、答えとく。
――だって、これ以上は、私の『良心』が痛いもん。