06◆◆◆場所:『紫煙渦巻く研究室』……語り手:【殺人視考(やさ男)】
◆◆◆場所:『紫煙渦巻く研究室』……語り手:【殺人視考(やさ男)】
「『猫が喋ることがあるか』だと? いきなり不躾な質問だな。――題意を図りかねる」
葉巻の煙を吐きながら、『人を殺したことありますよ』と言わんばかりの眼光で睨まれた。
いや、この人のことだから、『一切合切(世の中全て)、唯の研究対象(実験マウス)』ってニュアンスで見ただけかもしれない。
だけど、『撃墜マーク』の『白眼鏡』ごしに伝わる、この『殺気』は、『邪眼』並みにぶっ飛んでます。
「『前提条件』が無い以上、なんとも言いかねる。それに、私の『専門分野』は知っているだろう? 私の専門は【殺人に至るメカニズム】だ。『動物学』や『言語学』は『専門外』だ」
『真っ白な白衣』を袖を通さず、『威風堂々羽織る姿』は、『軍曹』とか『パラライカ(ロシアン・ギャング)』にしか見えない。
だけど、この人、僕の『研究担当』なんだよな……。
しかも、ほとんど歳変わらないはずなのに、教授だし。
オマケに『美人教授』って呼ばれるスタイルの抜群さってどうよ?
世界には、『知らぬが仏』で『触れると即死』な『地雷が腐るほどあり過ぎ』て困る。
「まぁ、お前のことだ。どうせ【都市伝説好きの馬鹿】と、おかしな『約束』でもしたんだろう。――そうか『賭け』をしたのか。で、お前が負けたと。何々、負けた理由は――」
「ちょっ、いきなり人の心を読まないでください! あなたは『レクター教授』ですか!」
「何を言っている。『心理学』の授業で最初に言っただろう? 『心理学じゃ心を読めない』と。今時、定説過ぎて、『スイーツ(笑)』も信じないぞ」
いや、『アンタ』だったら、ホントに心を読みそうだから困る。
「まぁ、話を戻そう。『猫が喋ることがあるか』だったな。これについては、ある学者がこう答えていた。――『喋る必要がないから喋らない』と」
一呼吸。
【殺人容認主義者(白眼鏡)】の答えをじっくり考え、反芻したが、抽象的過ぎる。
「……どういう『意味』ですか。喋れるんなら、喋ればいいじゃないですか? そのほうが『便利』でしょう」
「――それは『人間の勝手』な道理だ。一秒に満たない『小鳥のさえずり』に含まれる『膨大な情報量』の例を挙げるまでも無く、『狼の遠吠え』、『猫の鳴き声』、『昆虫のフェロモン』、『ミツバチダンス』など多種多様な『コミニケーション技術』がある。『進化』の過程で得たその個体群に『ベストな方法』がな。――哲学を絡めれば、『ソシュールによると』と繋がるのだが、ここではその話をする必要はいいだろう」
――あぁ、その必要はない。
『どの生物も自分たちのオリジナルの言語を話す』のが重要ってのが分かればいい。
――だけど、それでは腑に落ちない。
「じゃあ、それを踏まえた上で、『動物が人間の言葉』を話すってのは、どんな意味があるんですか?」
【殺人容認主義者(白眼鏡)】は『ふむ』と、紫煙を燻らせながらに、微笑んだ。
「――ただの気まぐれだ。または、そう仕組まれたか。――いや、『萌え』というヤツだな。それにしておこう」
……おい。
今、この人、なんか突拍子もないことを言いやがったぞ。
「冗談ですよね?」
「冗談だ」
即答された。
気持ちよく、断言された。
――今の笑顔、『ものすごく可愛い』と思っちまった!
この人、『俺』が慌てるのを見て楽しんでやがる。
……なっ、気づけば『一人称』が乱れてるぞ、『僕』!
「じゃあ、ホントのところは何ですか?」
「簡単なことだ。そう。実に簡単なことだ。だが――」
「だが?」
一呼吸。その一呼吸で、紫煙を蓄え、一気に吐き出す。
【いくら真実を教えたとしても、人は、自分で見つけた答えにしか納得しない】
《だから、自分でよく考えることだな》、と【殺人容認主義者(白眼鏡)】教授(先生)は、仰った。
結局、教えてくれないんですね。――わかります。
……やっぱ、この人、『S』に違いない。
それも、『自分がSだったら、人類は皆Sだ』と思ってるぐらいの『ドS』に違いない。
とても悔しかったんで、一応、反撃しておく。
「今更ですが、『学校』は、『禁煙』ですよ?」
「自分の研究室ぐらい構わんだろ。ここは『私の領域』だ」
またもや、即答された。しかも、どっかの『能力者』みたいな言い回しで。
嗚呼、『副流炎(受動喫煙)』万歳。
嗚呼、『教授を中心としたカースト制』万歳。
……思わず、『学生は 単位のために 必死デス』とか川柳を詠んじまった。