49◆◇◆場所:『瓦礫(星屑)の中で、予定(想い)を語る』……語り手:『猫嬢』
◆◇◆場所:『瓦礫(星屑)の中で、予定(想い)を語る』……語り手:『猫嬢』
「で、アンタ。これからどうすんのよ?」
『若造』に聞いてみる。
さっきから、眼を合わせようとしないのが、ちょっとムカツク。
……いや、かなりムカツク。
「んー、どうすっかな……」
『若造』が、頼りなさそうに頭をかいてて。
無い頭で、考えてるようで。
「とりあえず、『元の世界に戻る方法』を探さなねぇとな。別にこれと言ってあてはねぇけどよ」
皮肉。
実に皮肉っぽく、何かを揶揄するように半目でこっちを見てくる。
言いたいことがあるのなら、直接言ってくれれば楽なのに……。
「……」
「……」
お互いが沈黙を返す。
いつもケンカばっかしてる私達が珍しく自重するとか。
言いたいことはあるんだけど。
――なかなか言い出せなくって。
「テメェはどうすんだよ?」
『若造』が当たり障りないように聞いてくる。
「そりゃ、決まってるじゃない。爵位を取り返しての『下克上』よ! いつまでも、愚民から蔑んだ眼で見られるなんて真っ平だし」
――私も当たり障りなく返して。
「ふーん、そっか。テメェらしいな」
「ふんっ、『褒め言葉』と受け取っておくわ」
そんな『フツー』のやり取り。
私が言いたいこととは違うやり取りで、少し残念で。
「『メイド』はどうすんだ?」
「へっ! 私ですか……!」
……今、すっごく『あくび』してた。
『もう私は空気です』、『どうぞ頑張ってください』って【自己主張】してた。
――この『メイド』は狙ってるのか、『天然』なんだか。
まさか、私たちが『分断された』のも『計算ずく(わざと)』じゃないでしょうね……。
「あぁ~、考えてませんでしたね」
『メイド』が私を見てくる。
なんとなく、何かを訴えるような眼差しで。
この『メイド』、やっぱり油断できないわ……。
「よくよく思ったら、屋敷が無くなって、お嬢様借金してて、『お給金もらえません』ね」
直球来ました。
足元見ると、容赦ないのがうちの自慢の『メイド』です。
――だけど、このコのおかげで助かってるのは事実なもので。
「どうしましょう。……『他の』ご主人様を探さないとなりませんね」
酷いことを言う。
きっと、冗談だと思う。だけど、本気でそう思ってるなら困る。とても困る。
でも、その眼は『本気』にしか見えなくって――。
「……」
沈黙。
「……」
さらに沈黙。
「……」
沈黙に告ぐ沈黙。
私は、言いたいことも言えずにずっと黙り込んでしまう。
《……》、《……》、《……》と三人がそれぞれ黙り込む。
――こんなときに自分の『臆病さ』が恨めしくって。
『拒絶される』のがすごく恐くて。
「……ふぅ」
『若造』が、沈黙を破る。
こんなときに限って、空気を読んで、話し始める。
「さてと、みんなコレからのこと一応決めてるみてぇだし、オレはそろそろ行くとすっかな」
しかも、読んで欲しくない方向に話し始める。
「――ですね」
『メイド』も続ける。
「お互い、色々ありましたが、楽しかったです。――それでは、二人ともお元気で」
『メイド』も続けて欲しくない方向に続ける。
――そして、二人は、その場を後にして。
私に背中を向けてどんどん、離れていって……。
「――ッ」
声が出ない。
一言、ほんの一言だけでいいのに。――一言が出ない。
『拒絶される』のが『恐くて』。『否定される』のが『恐くて』。――また『勝手に死なれる』のが『恐くて』。
だけど……。
「――っ」
口パク。
心の中じゃ叫んでる。力いっぱい叫んでる。
精一杯に何度も何度も、叫んでる。
いくら恐くても、いくら不器用でも、いくら私がバカなヤツでも。
答えは既に決まってる。
――もう、『本心』は決まってるんだ。
だから……。言おう。
後悔は『やった後』にすればいいんだ。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」
遠ざかる背中に向けて言う。
《ん?》と、『若造』が振り向く。――その顔は何か言いたそうに皮肉っぽくって。
《どうかしました?》と、『メイド』も振り向く。――その顔もどこか冷たげで。
「あの、その……」
きっと、私の『勘違い』。
きっと、私の恐れが見せる『錯覚』。
この二人は、他の連中とは『違う』んだ。
「そのね……」
金しか見てない連中とは違うんだから。
こんな『最高にバカ』な連中とはもう会えないかもしれないんだから……。
「もし、もしもよ……? 『元に戻る方法』と、『雇い主が居たら』どうすんの?」
それが精一杯。
とても弱々しく。
――不器用で素直になれない私にできるのは、これが限界で。
《そりゃあ……》と、『若造』が『分かっているくせに』と、意地悪そうに目配せを。
《どうしましょう?》と、『メイド』と『若造』がアイコンタクト。
「……」
沈黙。
ちょっと、むかついた。
――言い出せない自分にもそうだし、この二人のやり取りがちょっとむかついた。
けど、おかげで、気持ちの整理ができた。――『自分のスタイル』で言えばいい。
「――アンタたち!」
だから、言うわ。
「――私に仕えなさい。『下僕』として! 『メイド』として!」
いつもの『自信』で。
「――私は、必ず、のし上がってみせる! 前よりもずっと、ずっと上に上がってやる!」
いつもの『調子』で。
「――誰も、私に逆らえないように、誰もが、私を知らないなんてことの無いようにずっと、上へ!」
『決意』を込めて。
「――世界中に、この私の名を轟かせてやるッ!」
これは『夢』じゃない。
『希望』でも、『憧れ』でもない。
確実に達成するべき私の予定。私の存在をかけた『決定事項』。
「――そしたら、『屋敷』も『世界を繋ぐ方法』もあっちからやって来るわ。富と名声があれば、必ず!」
『お願いする』んじゃなくって、『自分を売り込む(ビジネスライク)』の交渉で。
私といることの『利点』を『主張』する。
「だから、『下僕』として、『メイド』として、私に仕えなさい!」
『お願い』なんて都合のいいこと、私の流儀じゃ気分が悪くて出来ない。
――だって、『私のために死なれる』なんて、もう嫌だから。
ただ『私を利用してくれる気持ち』でいいから、いて欲しい。
「下僕かよ……」
「メイドですか……」
当然の不満。
『一緒にいて欲しい』と頼めたらどんなに楽か。
『私のために死なれることが嫌』な私には、それは出来ないことで――。
「……ふ、不服?」
聞き返すのがやっとで。
「はんっ、ヤなこった」
当然の答え。
「そうよね。やっぱ、ダメよね。こんなの――」
わかっていたこと。
変に拘ってしまう自分が嫌で。
現状を認めたくない自分が嫌で。――すごく嫌で。
『自分のために死んでくれ』って言える『偽善』が私にもあればいいのに……。
「バカ、勘違いすんな!」
『若造』に『バカ』って言われた。
コイツは人の気も知らないで……。
――何をどう勘違いすればいいってのよ!
「そうです、思い違いです」
『メイド』まで私がバカだって言うの……。
自分でもバカだと思っているけど、人に言われるとますます『憂鬱』で。
二人は落ち込む私に続けてくる。
「――『仲間』だったら、全然かまわねぇよ」
意外な言葉で。
「そうです、『仲間』だったら――」
望んでた言葉で。
「って、よくそんな『クッサいセリフ』言えますね……」
「バカッ! 今はそう言った『空気』だろうが」
ありがたい言葉で。
「――アンタたち……」
思わず『期待』を小さく呟いてしまう。
……だけど、『仲間』ってのは、『他人のために自己を犠牲にする』って言葉で。
それは私のために『また誰かが死ぬかもしれない』ってことを意味する嫌な言葉で――。
「まぁ、そうですけど……」
『メイド』が続ける。
「『仲間』って『ニュアンス』がイヤなんですよ……」
――ホントにこのコは空気を読むのが上手くって。
「何でだよ?」
「だって、『仲間のため』に、『身を犠牲』するんですよ?」
『メイド』が続ける。
「――『守る』、『頑張る』、『助ける』、『愛のため』、『勇気のため』、『希望のため』、『信頼のため』の『エトセトラ(その他もろもろ)』で『誰かのために死ねちゃう』んですよ? そんなの『ヘン』じゃないですか?」
『メイド』が私の気持ちを代弁する。
「――どうせ、『自分のことしか考えてない』のに、気持ち悪いです」
もしかすると、『メイド』自身の気持ちかもしれない……。
「――相手がホントにそんなこと望んでるんですか?」
心底嫌そうに、吐き捨てるように『メイド』が『怨嗟』を紡ぐ。
「――望んでると勝手に勘違いしての偽善ばかりじゃないですか?」
『メイド』にも昔、何かあったのかもしれない……。
「――何かしらの『見返り』を求めて、『自分のことを思って』だけの、『自己中』で、『自己満』で、『世間体』だの、『金』だの、『名誉』だの、『愛』だのを得るためにしか生きられないのに」
もしかすると、『私と出会う前』に何かあったのかもしれない。
「――だから、もっと『潔く』はっきり言いきりましょ?」
『万能で空気読み』の彼女にも耐えられない何かがあったのかもしれない。
「――『相手を利用するため』に『一緒にいる』んだって」
真剣な表情で言い切る。
「――そのほうが、お互いイイです」
何かを思い出しているような表情で。
「――『無償の仲間』だなんて、気持ちが悪くて真っ平ごめんです」
ここにいる別の誰かに答えるように。
「――何を考えているかさっぱり過ぎて、気持ち悪い」
『今の自分』の答えを伝えるように。
「――だから、言いますよ」
彼女の表情が『笑顔』に変わる。
「――『私は二人と一緒に居ます』、『自分のために』」
『昔あったこと』に『既に答えは出し終えた』とばかりに。
「――『自己利益』に、二人を利用させてもらいます」
『誰かの墓参り』で近況を伝えているように。
「――このつまらない世の中を『面白可笑しく』する喜劇として」
そして、私と『若造』に改めて目配せしながら。
「――お互い、利用し合いましょ?」
そう、満面の笑顔で彼女は告げた。
いつもの『一本筋の通った』凛とした力強さで、微笑んで。
《……》、《……》、《……》と『メイド』の言葉の余韻を味わってしまう。
「……『メイド』」
『若造』が切り出す。
真面目な顔で。バカのクセに一際真面目な顔で。
《はい》と、『メイド』がギャップに負けて真剣な表情になってしまう。
私も、『若造』の言葉に期待を寄せてしまう――。
「――オマエも、十分、素直じゃねぇな」
『気の抜けた(あっけらかん)』とした言葉。
とっても、馬鹿そうだった。
《へっ?》って、『メイド』が目を白黒させて、驚く。
えぇ、私も驚いてます。
「――いちいち、そんなん言わなくてもな、オマエの気持ちは通じてるって」
実に得意げに。
自分は『全部知ってるぜ』ってばかりに。
「オマエが、ホントに言いたいこともな」
無駄に空気を読んでくる。
このバカは『要所』を押えるのが上手くって。
「……そんな。私はただ……」
「まぁ、これからヨロシク頼むぜ」
『若造』が『メイド』と肩を組む。
「うわっ、ちょっ……」
突然の『ふれあい(体育会系)』には戸惑うのが当然で。
恥じらいながらも、戸惑いながらも、『メイド』が続く。
「……こ、こちらこそヨロシクお願いします」
私を見てくる。
私が言いたいことを代弁してくれた二人が私を見てくる。
わざわざ『三文芝居(ちゃちな芝居)』をしてまで、私の『本心』を分かりきった二人が見てくる。
ホントにこの二人は……。
「――ッ」
どうしようもないんだ――。
「……ありがとう」
自然に言えた。
たぶん、『今までで一番』『自然』に言えた気がする。
『皮肉』も『暗喩』も『自嘲』も『謙遜』も『自慢』も無しに――。
――たぶん、すっごく『ぐしゃぐしゃ』な顔になってるような気がする。
「初めてだな、オマエが『ありがとう』って言うなんて」
「私も久々に聞いた気がします」
二人の言葉。
とても『親しみ』を感じる皮肉っぽさが、身に染みて。
「うっさい!」
嬉しくて。
とても嬉しくて。頬に熱いものが流れてるけど。
『鏡』が無いから何だかわからない――。
「……別に良いじゃないのよ」
そう。たまにはいいじゃない。
こんなに泣く日があったっていいじゃない。
こんなに『嬉しくて』泣いたのは初めてだっていいじゃない。
――今日はなんていう一日なんだろう。
たぶん、きっと、こんなのを『厄日』って言うに違いない――。
――バカな二人にこんなに笑われてるのに、嫌じゃないんだから。