48◆◇◆場所:『瓦礫の中で発掘作業(サルベージ)』……語り手:『若造』
◆◇◆場所:『瓦礫の中で発掘作業』……語り手:『若造』
「うぉ、生きてる! 生きてんのかッ! さすが、オレ! マジか! 夢じゃねぇのか!」
《ぐぉっ》と、オレは盛大にガレキに頭をぶつけちまった。
『ガゴン』って音がするぐらいの、『頭突き(ヘッドバッド)』だった。
間違いなく『頭蓋骨』が陥没しそうな勢いだった。
これは相当な痛みが……。
「って、全然痛ねぇーーッ! 何度度ぶつけても、痛くねぇッ。やっぱ、オレは死んじまったのか……! うぉ、死にたくねぇーーッ! まだやり残したことが、後、百○八個ぐらいはっ!」
叫んでみた。
でも、やっぱり痛みが無くって。――かなり心配。
重症のときって痛みが無いって聞くし。――すっごく心配。
「……ふにゅ」
なんか生えてる!
なんか黒くて長い『もこもこ』が『うねうね』と動いてる。
まるで海の中で『海草』が『ゆらゆら』してるみたいなカンジで。
ちなみに、ここは真夜中の『瓦礫の山(猫屋敷の残骸)』でそんなもんあるわけなくって。
「くそっ、あからっさまに怪しいじゃねぇかよ!」
引っ張った。
思いっきり、そのよくわからんものを引っ張った。
――『一本釣り(マグロ漁)』の要領で、力いっぱい。
「みぎゃぁっ! どこ引っ張ってんのよッ! 痛いじゃないの!」
「うぉっ、『猫耳少女(猫嬢)』! ――ってことは、尻尾か、コレ」
尻尾はスゴく丈夫みたいです。
でも、『サイヤ人(宇宙人)』はあまり強く引っ張りすぎると抜けるので注意です。
「いいから、さっさと放しなさいよ!」
《もぅ》、《尻尾が抜けたらどうしてくれんのよ》と、『猫嬢』が自慢の黒い尻尾を擦っている。
《わりぃ、わりぃ》と、オレは、涙目で半目の『猫嬢』に謝っとく。
「……ん、痛い? ってことは、夢じゃないのか?」
「はぁ? 何言ってんのよ。そんなワケないでしょ。これは現実よ。夢オチなんて許されないわ」
ちょっと納得がいきません。
思いっきり、さっき頭をぶつけたのに痛くなかったんです。
『夢オチ』の可能性を潰すために、再度トライ。
「ふぐぐぉっ」
思いっきりぶつけました。
これは、『アスファルト』も割れるんじゃないかってぐらいに思いっきり。
「でも、ほら、こんなことしても痛くねぇし」
不思議です。
「……」
「…………」
「たくっ、ホントバカね。忘れたの? 包帯の【陣(痛み止め)】が効いてるからよ」
あっ、そういえばそんなもん足に巻いてたな。
「あぁ、そうか、なるほど。……げっ、じゃあ、痛くないだけでしっかりケガしてるってことか! うぉ、血が、血が垂れてきたぁぁぁぁッ!」
《……ホント、バカね》と、『猫耳少女』に言われた。
『猫』に言われるのも屈辱ダケド、なんか『猫耳少女』だったら別の意味でグサってくるんだけど……。
オレは全然、『フツー』だから!
「――ふぅ、よいしょっと。ホント、ヒドイめに遭いました。たくっ、服が汚れてしまいました」
あっ、『メイド』も復活。
みんな生きてるじゃん。――まぁ、コイツは死にそうにない。世界が『核の炎』に包まれても大丈夫な気がする。
つうか今、ビル一棟ぐらいありそうな巨大な瓦礫を『発泡スチロール』のような手軽さで動かしやがったぞ……。
《『若造』さんは?》と、『メイド』が『猫嬢』に聞きながら服の乱れをチェックしながら尋ねる。
「あぁ、オレはここにいるぜ、大丈夫だぜ!」
「きゃぁぁ――!」
すっごく黄色い悲鳴です。
ついでに、なんかこの流れはアレだよな!
「ごっふぁっ!」
なんか、首筋にめり込んでるぜ?
それも、分厚く、硬いもので首筋に、死ねと言わんばかりに、強烈に。
「な……、何すんだよ!」
――死ぬから。
もう『残機』無いから――。
包帯の【陣】で痛みはないけど、『損傷』はとっくに『致命傷』だから!
「だって、血だらけの人が、突然抱きついてきたら、『気持ち悪く』って……」
ちょっ!
――すっごい『可愛い仕草』をされた。
『お化け屋敷』で『恐がる女のコ』のような、すっごい守ってやりたくなるような仕草で。
「……ケガ人を、こんだけ気持ちよく殴るヤツがよく言うぜ」
――まぁ、痛いんです。
【陣(痛み止め)】が効いてても、『心にクリティカル』で。
《まぁ、無事で何よりだ》とオレが、頭をかきながらの照れ笑い。
《えぇ、『若造』さんも》、《……ちょっと、無事っていう状態じゃないですが……》と、『メイド』が眼をそらしながらに苦笑い。
あっ、少しは『罪悪感』持ってるのか……。
いやっ、今かすかに、『プッ』って笑ってなかったか?
まぁ、気にしても仕方ないってことで。
「――つうか、ホント、ハデにぶっ飛んだな。何もかんも」
見渡す限りが瓦礫です。
『被災地』とか、『戦場ヶ原』とかそんなレベルじゃないです。
もう、一つの村とか街とかがそっくりそのまま、『クレーター』になってる痛快な『ぐちゃぐちゃ』っぷり。
――どんだけ『猫嬢』の屋敷って広かったんだって考えちまったぜ。
間違いなく、『野球の球場(東京ドーム)』よりでかい。
《……》、《……》、《……》と沈黙が埋める。
「……『猫嬢』」
「……お嬢様」
『メイド』と二人で声をかける。
だけど、アイツの心境を考えれば、『フツー』じゃないもんだぜ。
クソ猫じゃなくっても、『フツー』のヤツでも、今日から『家なき子』で『無一文』って状況になったらツライって。
少なくともオレは辛いぜ?
「……。何よ、二人して? そんな顔してんじゃないわよ」
『ケロッ』とした表情。
「――別に落ち込んでなんか無いわ」
何事もなかったかのような表情で。
「――こっちのほうが、スッキリしてかえっていいじゃない」
むしろ、すっきりした表情で。
「差し押さえで、誰だかわからないヤツの手に渡るよりは、こっちほうがね」
皮肉まで言いやがる。
……はっ、たいしたもんだぜ。心配して損したじゃねぇかよ。
だから、オレはいつもみたいに皮肉を返す。
「――はっ、一番壊したヤツがよく言うぜ。差し押さえの物件、壊すって、犯罪だぞ」
「うっさいわね! 元々、誰のせいでこんなことになってんのよ!」
いつもの『マンネリ(バカ)』が始まって――。
「オマエだろ」
「ち・が・う、アンタよっ! アンタが、あそこでバカやらなければ、こんなことには!」
「へっ、借金、作ったのはテメェだろうが! オレが、ヘマしようが、上手くやってようが、テメェはいつかこうなってんだよ!」
――『予定調和(お約束)』の『マンネリ』で皮肉と暴言を吐きまくって。
「うっさい、うっさい、うっさい! アンタのせいだ!」
「テメェのせいだ!」
お互いの痛いところを突き合いながらに。
「何を――ッ!」
「コイツ――ッ!」
ただただ、バカをやる二人のバカで。
「あはは、ははは」
『メイド』が突然笑い出す。
オレだって笑い出したいよ。
――きっと、アイツだって笑い出したいんだろうな。
「あはは、はは、だって、二人とも……。ホント、仲が良いです。それが可笑しくって」
ホントによ。
この『メイド』は空気を読むのが上手くって。
「誰がこんなヤツ!」
「そうよ、誰がこんなヤツを!」
素直じゃないオレたちを気遣ってくれて。
「ほら、ホント、仲が良い。同じケンカでも、前より『ギスギス』した感じのものが無くなって。私が居ない間に何かあったんですか?」
って心配までしてきやがる。
いや、これは盛大な皮肉だな。オレは別段、大丈夫だけど……。
「いやっ、そんなことはっ!」
「べ、別に何も無いわよ……!」
「あはは、どうでしょう。二人とも顔赤いですよ?」
いや、すみません……。
――『猫耳少女』に少しドキドキしました。
マジすみません……。
「別に、何もないんだから! でしょ!」
『猫耳少女』が見てくる。
もとい、『猫嬢』が金色の『瞳』で見つめてくる。
バカ、その顔はやめろって――。
「おぅ! こんな『クソ猫』と、なんかあってたまるかよ!」
「『クソ猫』って言うなぁぁぁーーーーッ!」
うぉっ、『猫耳少女』もとい『猫嬢』が盛大に飛び掛ってきた。
ば、ばか、髪の毛ひっぱんな、ぽかぽか叩くんじゃねぇ!
これは色々と『ヤバイ(男が萌える)展開』だから! へんなフラグが立っちまいそう。
《あはは》、《ほら、また》と『メイド』が腹に手を当てて笑ってやがる。
「笑ってないで、助けろよーーーッ!」
「絶対許さないんだからッ!」
そんな『ラブコメ(てんやわんや)』が、しばらく続いた。――たぶん、『十ラウンド』『TKO負け』。
つうか、止めてください。もう、疲れましたって。
――身体も理性も、心底持ちませんって。




