42◆◇◆場所:『激情の(プッツンした)後に残る間奏(感想)』……語り手:『猫嬢』
◆◇◆場所:『激情の(プッツンした)後に残る間奏(感想)』……語り手:『猫嬢』
「――私に歯向かうからこうなるのよ」
《やれやれだわ》と、私は『腰まで長い』『黒髪』をかきあげながらに溜息を漏らす。
壊れて、壊れて、壊れてしまった辺りに一瞥。
「――はぁ、すっきりした」
誰も答えない。
何も答えない。私の言葉がただ『木霊』し、響くだけ。
やったのに、借りは返したのに。馬鹿にしてた奴らはみな消えたのに……。
――心が満たされない。
「ねぇ、気づいてるんでしょう?」
《……》と、言葉を返す『若造』を見る。
だけど、『若造』は『もう動かない』。
あんなに鬱陶しかった『若造』はもう『喋らない』。
もう『笑わない』。『泣かない』。『怒らない』……。
「――なんでよっ!」
『若造』の胸を『ぎゅっ』と握った拳で叩く。
『コツン』と、厚い胸板が『振動』を刻むだけ。
私のことを無視して、ただそこに横たわるだけだ。
「――わけがわからないのよっ!」
再び叩く。
だけど、やっぱり『コツン』と『無機質』な音が返るだけ。
まるで、『死体』は、『ただの物にしか過ぎない』とばかりに微動にせず。
「――全くわからないわっ! 私を馬鹿にするやつは、歯向かうものはみんな壊して壊して、壊しつくした。それなのに、全然満たされないじゃない!」
再び叩く。
今までより強く打ち付ける。
反応が無くたっていい。ただ、そうしたかった。ただ、誰かに聞いて欲しかった。
「――私には何も残らないじゃない。あんた達バカがいなくなったら、何も残らないじゃない……」
ぎゅっと両手を握る。
視界が滲む。声が上擦り、震える。――でも、誰も聞いてなんかない。
だから……。
「――虚しいだけじゃない。『メイド』や『若造』が勝手に守って生き残らせて。……残された方の気持ちを考えたことあるの! ないでしょ! こんな風に独り残されて、どんな気持ちになるかなんてわからないでしょ! ……ねぇ、答えなさいよ! いつもみたいに突っかかって来なさいよ。いつもみたいにバカなこと言って来なさいよ! 私を殴ろうって意気込んでみなさいよッ! ……答えてよ!」
組んだ両手で思い切り、殴る。
強く強く、訴えるように。
『耳』で聞こえないなら、『身体』で聞くように。それができなくても『魂』で聞くように。
「答えなさいよ! 答えてよ! お願いだから。ねぇ、何でもするから。この私が何でもするって言ってるのよ? あんたみたいな『人』のために、私は――」
雫が落ちる。
今はもう、白くなってしまった両手が湿って濡れる。
……視界がますます悪くなる。
「勝手に死なないでよ! ……勝手なことするなよ。誰も望んでない。望んでなんかない! たとえあんたたちが望もうと私は望んでない。絶対に望まない! 私は誰にも死んで欲しくないんだ……」
もう言葉がおかしい。
たぶん、色々とおかしい。
『姿』も『心』も『頭』も全部が全部おかしい。
――そもそもの『世界』がおかしい。
そこから生まれた私はおかしいに決まってる。
おかしく『異常』で『異端』なんだ……。
「……勝手に逝くなよ。私を独りにしないでよ」
『若造』の手を握る。
私の両手でそっと覆うように握って、胸に抱く。
――意味なんてない。
少しでも温もりが感じられるなら。
少しでも温もりを与えられるなら。
「返事しろよ。独りにしないでよ……」
泣いた。
この私が声を上げて泣いた。
『若造』の胸に頭を埋めて、ただ泣いた。――両手を突いて突っ伏して泣いた。
最後に泣いたのは、いつだったか思い出しながらに泣いてしまう。
「みんな私を残して逝くなよ……」
そう。
私に関わるはモノみんな死ぬ。
遅かれ早かれ、私だけを残して消える。――勝手に近づいて、勝手に消える。
「こりごりなんだよ……」
思い出したくない光景。
目まぐるしく変わる別離の『再点火』。
返す感覚は、悲しみの『既視感』。
「もう、こんなの嫌なんだよ……」
深い闇。
『悲しみ』と『怒り』の狭間に揺れる境界。
そこにあるのは、『自由』の『魅惑』。
「こんなことなら、私はあのとき――」
そう。あの時。
『両親』を壊したあの日。
『ジジ様』と出会ったあの日。
『メイド』と出会ったあの日。
「――死んでいればよかったのに……」
言葉が漏れる。
涙と嗚咽で、泣き泣きながらに。
あのとき、普通に『野良犬』のように死んでさえいればこんなことにならなかったのに。
「――誰にも迷惑をかけず。誰にも知られず。誰も壊さず。こんな想いなんてなかったのに。――苦しまずに済んだのに。あんた達を巻き込んでしまって……」
ごめんなさい。
ごめんなさい。
声が震えるなんて度合いじゃなくって、『ひぐっ』、『ひぐっ』と喉が鳴って声が出なくて。
――心の中で、何度も何度も『ごめんなさい』と叫んだ。
生まれてきて何度、そう呟いたか、そう悲鳴を上げたかわからないことをまたやってる。
何度、『懺悔』を繰り返しても決して許されない『運命』の『十字架(贖罪)』。
そして、いつもこの言葉で締めくくるんだ。
「――生まれてきて、ごめんなさい」
誰も聞かない。
誰も許さない。
誰も認めてくれない私の謝罪。
誰一人、答えてくれない。私の想い。
本当にどうしようもない、私の、私の私の。
「――もう、嫌だよ。こんな宿命なんて嫌なんだよ……」
『扉』が開く。
『悲哀』と『諦観』の『狭間』で揺れていた『重い暗闇』が開く。
嫌なはずなのに、普段は考えたくもないことなのに、『そいつ』は私を呼んでいる。
――『死神』が手を差し伸べる。
『自由』と『解放』を主張する『魅惑的』な『骨』の手。
「――そう。死んでしまえばいいんだ……」
そうだよ。
『最初の儀式』。――両親を殺したあの夜。
私が得た【命歌】による『宿命の暗示』。
『死』を紡ぐ、『混沌』を成し、『死』を呼び、『死』を『死』で『死に絶えさせて』、『殺し尽くす』『歌』。
だから、みんな、あの夜、私が――。
「――死んでしまえばいいのよ」
他人を殺して生きているヤツなんて。
――死ねばいいんだ、殺しに耐えられない『偽善者』なんて。
だから、私は――。
【もう、死んでもいいよね?】
――『意味の顕現』。
周囲の『雷光』。
『若造』の胸元で泣きじゃくりる私の周囲に【陣】が展開する。
――それは、全てを吹き飛ばす『破壊』の主張で。
いつも通りにただ壊すだけの【自己主張】で。
――それは、全てを吹き飛ばす『自殺』の主張で。




