34◆◇◆場所:『巨大な竪穴式住居(黒い絶壁)』……語り手:『若造』
◆◇◆場所:『巨大な竪穴式住居(黒い絶壁)』……語り手:『若造』
「はぁ、はぁ……」
という声がした。
それは間一髪、落とし穴の壁の『凸凹』にひっかかったオレの声で。
「ガがガ、ピィピッ……ピ、ガガ、ぼでぃ……トケ、ボディガ……る? ガ、マジ……? ……ピー、ガー、グ……ピ――」
というバグッた『SF』は、狂った『殺人機械』が穴のソコで呻いてる音で。
「ハッ、【自己主張】たっぷりの『超合金(トンデモ装甲)』も、効かねぇってか?」
『ジュゥゥゥッゥゥ』、『シュゥゥゥゥ』は、殺人機械が『塩をかけられたナメクジ』のようになる音で。
穴の底からは『溶かす』、『何でも溶かす』、『ゴミは溶かして無くします』って『エコロジー』な【自己主張】を放つ液体が『ボコボコ』言いながら、溢れかえっている。
「……ハァ、ハァ。ア、アンタのせいで、踏んだり、蹴ったりよ……」
『猫嬢』の声。
オレと同じように偶然引っかかっていた、クソ猫が悪態をつく。
煮えたぎる、酸っぱいニオイの液体に溶けながら、沈むロボットを見ながら、『猫嬢』が吐き捨てていた。
そこは岩肌を加工した、かなり、まっ平らな急斜面。
指をひっかけるのがやっと、足をかけるのがぎりぎりという『岩壁登り(ロック・クライミング)』の『高難易度』。
一思いに落とさないのは、助かろうと足掻く姿を見たいという悪趣味さかもしれない。
「……うるせぇ。そんなことより、今は助かるほうが先決だろ! ……あんな風になりたくなかったらな。――うぉっ! アブねぇ」
足が滑った。
思いっきり、滑って、『ズルズル』言いやがった。
これは気を抜くと死ぬかもしれない。一度加速がつくと、もう無理な気がする。
「はっ、良い気味だわ」
「うるせぇ! うるせぇ! 笑ってんじゃねぇ!」
『本』が落ちてきた。
オレの目の前を通過して、『ズサー』と落ちていった。
「……ちょっ、待て、待てって!」
さっきのどさくさに紛れて、どこ行ってたかわからなくなってた『本』が、『ズルズル』と滑っていくと、岩肌に引っかかり止まった。
「ふぅ~、焦ったぜ。よし、あの位置ならギリギリ、届くか……」
《よっ》、《んっ!》、《っと……》、《ん……》、《んーーっ!》と、オレは手を伸ばす。『箪笥と箪笥の間』に落ちた『リモコン』を取るように何度も手を伸ばしてみるけど、あとほんのちょっとで空を切る。
「クソッ! ……ギリギリ届かねぇ」
「ふんっ、バカね。こっちのほうが近い。アンタには、渡さないんだから」
バカ猫が近づく。
本に向かって、壁に爪をかけながらに、『そろそろ』と近づいてく。近づくたびに、『がらがら』と岩が削れ崩れ落ちていく。
――もしかしたら、こっちの岩よりも『柔らかい難所』なのかもしれない。
「バカッ! よせ、『猫嬢』ッ!」
「うるさい! これは、元々、『ジジ様の本』で、『今は私のもん』よ! お前に指図される筋合いは無い!」
「いや、そうじゃなくって!」
「そうじゃなくって何よ? ははん、さては、これが無いと元の世界に戻れないって言うことでしょ? アンタなんか、帰れなくて良いのよ。――むしろ、帰さないわ」
クソ猫が、『本』に向かって、さらに近づく。
――って、お前と本の間の岩の状況見えてねぇのか?
そこんとこ『ガクガクブルブル』って今にも落ちそうに脆くなってるじゃねぇかよ……。
「違う! そうじゃねぇ、バカッ! オマエ、気づいてねぇのか? 頭に血が上って、周りが見えてねぇのかよ!」
「うるさいっ! バカって言うな! 言いがかりをつけるな! サルの分際で! おとなしく、私が本を手に入れるとこを見てるのね。――って言っても、そこからじゃ届きそうにないけど」
コイツ、マジで周りが見えてない。
『感嘆符連打』ってのは『ダメ出し』される『陳腐表現』だってこと知ってんのか。オレは知ってて『ネタ』で『わざと』使ってるけど、お前の場合は、本気で周りが見えてねぇ。
「……これで、アンタは帰れなくなる。この世界で『ゴミとして死ね』ばいいのよ」
また、トンでもないことを言いやがる。
バカ猫が、笑いながら、『本』に手を取る。
まるで、『指輪物語』で『指輪(宝物)』をゲットする『欲深』なヤツラみたいに、どす黒い雰囲気を出しながら。
「へっ……?」
マヌケな声がした。
「ばっ、言わんこっちゃねぇ!」
いつものお約束。
「――ちょっ? ……えっ、落ちる?」
『強欲ジジイ』も『貪欲なババァ』でも、物語の『ベタな定理』は決まってる。
「バカヤロウ! さっさと『本』を捨てて、しがみつけ」
「バカって言うな! それに、誰に向かって命令してんのよ!」
『猫のクセに』吠える。
『バカのクセに』文句を垂れる。
――だから、こんなことになってるわけで。
本を持ったままに落ちながらに。落ちていって。
「きゃっ。……本が!」
派手に突き出した岩肌の出っ張りに派手にぶつかりやがって。
――その衝撃で本を取りこぼして、『ゴロゴロ』と、岩肌を転がり落ちて。
「って、クソッ! ……アイツ、気ぃ失ってやがる!」
『クソ猫』が転がり落ちる。
『本』も転がり落ちる。
しかも、『二つ』ともまったく『別の方向』に『ゴロゴロ』とオレを笑うように落ちていきやがる。
「どうする……?」
加速しながら『どんどん』『どんどん』『どんどん』――。
「助けんのか? それともほっとくのか? あの自分勝手なクソネコを……」
『猫嬢』が落ちて行く。
ほんの一瞬の思考の中で、『重力加速度(9.80665 m / s2)』、で。
「――つうか、本はどうする? アレが落ちちまったら、溶けちまったら。……オレは元の世界に戻れねぇ!」
本が落ちて行く。
『元の世界に戻る』ための【陣】が書かれた本が落ちて行く。
『重力加速度』にしたがって、『地球の引力』に惹かれた『隕石』のように『燃え尽きよう』と落ちて行く。
「どうすんだオレ!」
クソネコと、本との間にゃ、距離がありすぎる…
――どっちかしか選べネェ。
《どっちだよ?》、《どっちにすんだ?》、《ネコか?》、《本か?》。
《生意気なクソネコか》、《戻る手がかりか……》、《騙した猫か?》。
《ただの本か?》、《命か?》、《モノか?》、《お前を騙した猫か?》。
《家に帰りたいんだろ?》、《本当に帰れるのか?》、《帰れなかったらどうする?》。
《猫を助けても助けてくれるのか?》、《また騙して文句をタれるだけだろ?》。
《そんなモン助けるのか?》、《お前は結局、何がしたいんだ》、《お前の望みは何だ?》。
《こんなクソ世界とおさらばしたいんだろ?》、《だったら、答えは簡単だろ》。
《どっちを選ぶかなんてバカでも出来るぜ》、《いや、クソ猫でも出来るぜ》。
《お前は人間だろ?》、《できないはずがない》、《選べないはずがない》。
――《世の中、ビジネスライク》、《世界は強者の味方》。
《裏切ったものが悪い》、《裏切るられるヤツが悪い》。《やられたらやり返せ》。
《徹底的にやっちまえ》、《再起不能になるように味あわせてやれよ》。
――《それがお前の流儀だろ?》。
――《逆らうヤツは殺せばいい》。
オレの脳みそがフル回転。答えを出すために刹那に走って訴えかける。
「――ッ」
『最善』って何だ?
『最高』って何だ? 『消去法(選択)』って何だ? 何をするのが一番いいんだ!
「……クソッ」
そんなの決まってるだろうがよ?
――選択の余地なんてねぇだろが?
どっちが大事かなんかなんて分かりきってるだろうがよ! とっくに答えなんて出てるだろうがよ!
《……クソッ!》、《クソッ、クソッ……!》、《クソッ、クソッ……クソッ!》、《クソッたれがぁぁぁぁーーーーーーっ!》、《そんなん最初から分かってんだよーーーーーッ!》。
だから、『牙』を剥く。
だから、『眼』を剥く。
『奥歯』を噛み『砕』きながらに、オレは『吠』える。
『究極(人生)の選択』なんて、いつもこんな『結末』なんだよ!
「コォォォォン畜生ぉぉぉぉぉおおおおおおおーーーッ!」
オレは飛んだ。
下へと、『穴の底へ』と飛んだ。
――いや、オレは走った。
『重力加速度』なんて力じゃなく、『オレの力』で掴み取るために壁を落ちながらに走った。
自分の望み、欲するモノを手にするために、ひたすら走った――。
欲しいもんは、自分の力で掴み取る。
――それが『オレの流儀』なんだよっ!