31◆◇◆場所:『猫がいない猫屋敷の夜の書庫』……語り手:『若造』
◆◇◆場所:『猫がいない猫屋敷の夜の書庫』……語り手:『若造』
「くそっ、ヒデェめにあったぜ。屋敷について、『入り口』を探しながら、【陣】のルートを改変しながら、『セキュリティ』をぶっ壊しながら、『成金趣味の銅像』をぶん殴りながら、散策してたら『落とし穴』。――気づいたら、書庫があって、『紅魔館の大図書館(パチェリーの部屋)』みたいな『バカみたいな本の山』に出くわしたなんてな!」
しかも、本がいきなり落ちてきて、埋もれたところに本棚が倒れてきて、痛いってっ!
さすがに『脱構築』で、そこらの【陣】をいじりまわっても、いきなりの『本棚(奇襲)』にゃ、オレもお手上げだぜ。
だって、オレは『フツー』なんだぜ? 別に変わった力があるわけじゃねぇ。
それよりも、本を探せ探せ。探しだせ。
どれだ? どんな本だ? どんなことが書いてある?
って、この中から探すのか? この数を? 中身を見ながら? 【陣】の名前もわからないのに?
『山に木が生えてる』のを数えるってレベルじゃネェ。『山に生えてる雑草』を数えるレベルなんかでもねぇ。
――『山の植物の全ての細胞(葉緑体)』を数えるってレベルだぜ。
一生かかっても無理だ。
「ならどうするよ?」
そんなの簡単だ。
――頭を使え。
オレには頭がある。『人間は考える葦』だぜ。考えろ考えろ。
よし、落ち着いた。『うん(Be)、なんて冷静(Cool)!』
「【陣】は特別なんだったよな? 【世界を紡ぐ陣】って存在しねぇんだよな? そうそうあるもんじゃねぇ。――だったら、もしあったとしたら、『少数派』ってことだ」
ゆえに、だから。
その『少数派』な【自己主張】をかぎ分ければ、いいってことだぜ!
「オレにはそんなスキルがあるかって?」
あるわけねぇよ!
そんな『スタンド(トンデモ)能力』は持ってない。
だが、今後、持たないってワケないだろ? 今、この場で発現しないってわけないだろ?
「なぜソウ思う? そんなことなどありえない? それは試してから言ったのか?」
やってみなくて。
試してみなくて。
試して試して試して試し抜くのが『研究者』ってもんだろ?
――まっ、オレは『技術屋』だけどよッ!
だからって、やらないって言い訳にはならないぜッ!
『SE』ってのは、『客の無理を適えるのが仕事』だ。
だから、ゆえに。――オレはできると思うんだ!
オレは叫ぶ。
自分に出来ると言い聞かせるレベルじゃねぇ。『出来て当然』と叫んでやる!
「唸れ、シィィィックゥゥゥス・セェェェンンッッーーーーーースッッッ!!」
【『若造』は、『シックス・センス(当てずっぽう)』を使った】
――現在地把握。
――書庫の面積把握。
――本の冊数把握。
――対象の種類&(アンド)波動を設定。
――対象の共鳴を確認。
――近い。
――こっちのほうか?
――どんどん波動が大きくなっていく。
――どれだ? ――これか? ――いや、こっちか?
「これだぁぁッ!」
【『若造』は、本を手に取った。散々、本棚や、本を物色して】
本にはこう書いてあった。
『良いコのやさしい【陣】講座入門。~ちょっとオイタで、人道を踏み外してみよう☆』
外した!
壮絶に外した!
……つうか、何だこれ!
「良いコが、『人の道踏み外す』ような本ってどんな内容だよッ! なんか、むちゃくちゃ、幼いコ向けのネコが『メルヘンチックに書いてるし! 『魔法のステッキ』持って、踊ってやがるぜ。オレの『シックス・センス』も錆びついちまったかな?」
もちろん、『シックセンス』なんて持ってません。――『ただのカンですが、何か?』。
ん? 何か裏に書いてあるぞ。
『※この本は、実行すると友だち無くすかもしれない内容が満載です☆』
これは『友達をなくすゲーム(ドカポン)』かよ!
――【自己主張】が、本の中身をオレに伝える。
『でも、未成年だったら何やっても許されるからダイジョウブ』。
――『軽くオイタして、みんなを困らせちゃおぅ』。
――『内容は以下のトォリ』。
――『効き目の強すぎるホレグスリ』。
――『何でもかんでも透明化シロップ』。
――『バケツをひっくり返したような雨雲製造法』。
――『アッチとコッチを繋ぐ【陣】』。
『~愛と夢の天才錬金術師』、『ジジ様』。
「……『猫嬢(クソ猫)』と同じで、『茶目っ気』ヤツだな」
やっぱり、『おかしなことやってるやつは、おかしい』のかもしれない。
「つうか、すげぇ! オレのシックスセンススゲェ! 人間の可能性ってスゲェ!」
さて、『アッチとコッチを繋ぐ【陣】』だったな。
「いかにもそれっぽい名前だぜ。きっと、そうに違いねぇな。ちょっと、見てみるか。違ったら、違った時だし――」
『ウゥゥゥゥゥゥゥ!』と、『信号無視したときのパトカー』みたいな警報が突然鳴り響く。
「な、何だ?」
《えまぁ~じぇんし~》。
《えまぁ~じぇんし~。書庫ニテ、不審者ヲ確認。繰リ返ス。書庫ニテ、不審者ヲ確認。現在、た~げっとハ貴重ナ備品ヲ汚レタ手デ物色シテイル。迅速ニ、た~げっとに接触スベシ。コレヨリ、警戒れべるF3カラ、B+アルファせかんどニ移行ス》。
《コレハ、誤報デハ無イ。不審者ヘノ警告デアル。コレハ、訓練デハ無イ》。
《た~げっとヘノ宣告通達デアル》。
「フテブテシイ、メスぶた野郎、覚悟おぅけっ?」
なんで、最後だけ、『機械ボイス』じゃねぇんだよ!
『殺したい気マンマン』の『忌み語』って、まさに『殺る気マンマン』。
おっと、ニジュウ表現使っちまったぜ。
……もう何回目かわかんねぇけど。
「A3383ーTK、た~げっと視認」
書庫の床のハッチが開くと、一体のロボットが飛び出してきた。
丸っこい、『ドラえもん(猫型ロボット)?』。――いえ、『ボク、サッチー(無人警備ロボ)』が正しいです。
色は違うし、微妙に違うけど、『ずんぐり』『むっくり』で『ニメートル』って物体はそんな感じの『キモカワさ』を【自己主張】!
「げっ、ロボかよっ! セキリティロボってヤツか!」
「た~げっとトノ接触ニ成功。何ヤラぶつくさ言ッテルガ、『問答無用』デおうけぇ?」
『ジュー』と、肉の焼けるようなイイ音がした。
「うぉっ、光線が走った先が燃えている! また、『レィザー』かよ!」
『ジュン』、『ジュン』、『ジュン』、『ジュン』、『ジュン』と乱れ撃ち。
はい、容赦ないです。
機械に『ユーモア(こころ)』は通じません。
「ってめっちゃ、その辺、燃えてきてるし!」
『闘争か死か?』なんて考えるまでもねぇ。
「何やらわかんねぇやつには、先手必勝だッ!」
オレは駆ける。
『天狐レーザー』みたいな『弾幕結界』の中を超える超える、イッキに逝くぜ!
それが、オレの流儀っ!
「うおおおおぉぉぉぉーーーーー! うおぅりゃああああぁーーーーーーっ!」
と駆け抜ける。
「……ガガピピ?」
と、セキュリティロボは、『?』、『?』、『?』を乱発で、バグってやがるぜ。
「はっ、戦うわけねぇだろうが! 『甘いぞ、明智君』、オレはこの本さえ手に入れば、後は関係ないぜ!」
「……不審者ノ逃走ヲ確認。マスマス、アヤシイ、『近親相姦野郎』ッ!」
はい、無視。
遠くのほうで、何か叫んでる物体には用はねぇ!
――あれ、これってなんか『ゲレナさん』にオレがされたことと、同じ構図じゃね?
「クソォォォォォ! こんなキモチで、あの『眼鏡』は、余裕ブッコいてたのか!」
『ゥゥゥゥゥゥゥゥ』と、けたたましい警報音が、鳴り続く。
今日は、『急患が多い』らしいぜってぐらいの『救急車ラッシュ(大変もうかってます)』ってか?
「A3383ーTK、各機ヘ。不審者ノ逃走ヲ防止セヨ。現在、犬畜生ハ、書庫ヨリ中通路ヘト移動中。せきゅりちぃ~、ろぼノめんつニカケテ、阻止セヨ。コレヨリ、警戒れべるA+アルファさ~どニ移行ス。全機&全とらっぷノ作動ロック解除。総員、全力戦力ヲ持ッテ、敵ヲ討テ」
【我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ】
――『意味の顕現』。
っていうか、『忌み』のほうが強いかもしれないぜ?
屋敷全体が、『ブッコロスぜ、肉便器(ケツ穴野郎)ッ!』って勢いで、オレを殺そうとしてるカンジ。
だが、オレが速い!
進入経路はわかってる。
――たぶん!
「オレの『辞書に不可能はない』っていうのを見せ付けてやる」
《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、《我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ》、って、カンジの『モンスターハウス』だ!
――なんか、『でっかいゴキブリ(自動殺戮機械)』です。
後ろから、前から、斜めからなんて関係なくって『射撃』、『射撃』、『射撃』の弾幕。
「ちょっ、お前ら、絶対、『ロボット三原則』シラネェーだろぉぉぉーッ!」
うん、きっとない。
誰が造ったか知らないが、趣味が悪すぎだぜ。
『侵入者=殺せ』って『基本設定』しかねぇだろ!
「『見える!』、『逃げ回れば死にはしない!』、『目をつぶっても避けられるよ』」
って具合に『絶対死なない』ってオレは『自分を信じてる』!
信じないと、『殺られる』って気にもならずに、オレは『逃げ切れる』と信じてる。
なぜかって?
――それは、『オレだから』だ!
「うぐぉっ! ふぐぉっ! ぷげらっ!」
……はい、調子に乗りました。
角を曲がった瞬間に、『ロボ』にやられました。
――激突されました。
ふっとばされた先で、また撥ねられました。
痛いです。スッゴく痛いです。――『交通事故』です。
……あれ? 今気づいたんだけど、『オレの足』ってケガしてなかったっけ?
「そうだった! 『包帯の【陣(赤十字)】』ですっかり、そのこと忘れてたぜ!」
気づいたのが運のつきだったんです。
足を見たら、めっちゃ赤くなってる! っていうか熟れ過ぎた『腐貴ブドウ』みたいじゃん!
「うぎゃっ!」
吹っ飛ばされた。
――不意打ちです。
転がってたところを、撥ねられました。
『レィザー』で『一撃必殺(Destroy)』しないのは、こいつら『鬼畜』だからですか?
「もう足の痛みなんかにカマってられるか! 『逃げる、逃げるんだよ!』」
あの『角』を、『直角ドリフト!』で曲がりきる。
「へっ、見たかオレの『慣性ドリフト!』」
――油断するといけないんです。
角を曲がった瞬間、何かを蹴飛ばしました。
柔らかい何かです。『みぃぎゃ』って叫んだ気がします。
……だけど、そんなことを考えた瞬間。
「ふごぅほっ!」
とっても、懐かしい衝撃でした。
それも、分厚く、硬いもので延髄に、死ねと言わんばかりに、強烈に。
「『若造』さん! だ、だいじょうぶって言うか、何でこんなところにいるんですか? っていうか、この『非常事態』はなんですか! って、うわっ、お嬢様がなんか、『サッカーボール』みたいに『壁にゴール』されてるんですけど!」
『メイド』だった。
激しく『メイド』だった。
だけど、『オレの口調』、感染ってない?
「って、お前ら、何しにきたんだ!」
「なっ何って、『自分の家』に来るのは当たり前でしょ!」
あっ、クソ猫が復活した。相変わらずウザイ。
『超展開』、『走り展開(打ち切り間際)』の『CPU』に『フルボッコ』だったから、すっかり忘れてたぜ。
「どのツラ下げて、オレの前にいるんだよ!」
「だから、それは『こっちのセリフ』だって言ってるでしょうが!」
……一回目なのに、何度も言われたみたいにうぜぇ。
視界に入る、床に巻き気散らされた『紙切れ』は何だ?
「おい、これって、【陣】の『研究資料』じゃねぇかよ! なんで、お前がこんなものを持ってる。もしかして、『火事場ドロ』って、やつか? 相変わらずのクソっぷりだぜ。さすが、『クソ嬢』様だ!」
「なっ、なっ、どのクソ野郎が、誰に何を! って、アンタもなんか持ってるじゃない! ちょっ、それ『ジジ様』の『魔道書(本)』! しかも、何、いかにもそれっぽい【自己主張】を放ってるじゃないのよ! 渡しなさい、それは私のよ!」
「うるせぇ! これはお前のもんじゃねぇ! 『元お前』のもんだ! 差し押さえられたら、お前のもんじゃねぇだろうが。それに、『今はオレのもん』になってる! だから、『オレのもの』だ!」
「バカが、バカなこと言ってるんじゃないのよ! バカバカしいにもほどがあるわ! 返しなさいよ!」
くそっ猫が、『オレの本』をひっぱってきやがった!
「『バカヤロウ!』なんど言わせるんだ、この『バカヤロウ!』、『バカヤロウ』って呼ばれるのが嬉しいのか、この『バカヤロウ!』」
『みなみけ(毒舌少女)の三女』っぽく、言ってみた。
……うおっ、このバカ猫、ますます力が増したんだけど!
「ぎゃっ!」
いきなり目の前を『レィザー』がかすめた。
……間一髪ってのはまさにこのことだぜ。
あぁ、もちろん、『本』は『オレの手の中』にある。
「ちっ、あいつら追ってきやがったな!」
「ちょっ、なんで『ジジ様』の『秘密のコレクション(セキュリティ)』が動いてるのよ! って、アンタが動かしたに決まってるわね! どうしてくれるのよ!」
「『感嘆符連打』で叫んでんじゃねぇ! 知るかよ、何で動いたか、バカはバカ同士話し合って聞いてみて教えてもらえばいいじゃねぇかよ! ぎゃっ!」
つっこまれました。
『レィザー』がオレに当たりました。
……いや、正確には本を持ってたら右手を焦がしたわけで。
あっ、本が舞う。猫が拾う。
――猫が走る!
「これは、私の本よ! お前になんか渡さない!」
めっちゃ速い。猫のクセに速い。……つうか、さっきからどうやって本を持ってんだ、このクソ猫は! ――これも【陣】の力ってヤツなのか?
「我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ」
うぉっ、ロボが追っかけてくっぜ!
「おい、『メイド』! 走りながらでいいんで、アイツらなんとかしろッ!」
「……なんとかって、なんともできませんよ! 『解除法』なんてないです! 『一度見つけた敵を排除するまで止まらない』って【自己主張】を放ってますし! ――つまり、『死ねば止まります』が」
すごい目で見られた。
オレを『殺して生き残るのもアリかな』? っていうような視線だったぜ。
「……そうだ! いいことがあります。アレが使えるかもしれません」
「アレってなんだよ?」
「いいですか、タイミングが命です。一回こっきりのぶっつけ勝負ですが、それでもやりますか?」
「もちろんだ! 『逃げネェ』、『引かねぇ』、『押し通す』! 『道理を曲げて』、『法則なんて蹴っ飛ばす』! ――それがオレだッ!」
「……わかりました。やりますよ。『私の真似』をしてみてください」
そういって、『メイド』が止まって、敵を迎える。
「おし。こうか? こんなカンジか?」
「そうです。イイカンジです。そんなカンジで『私の合図』を待ってください。いいですか? 『絶対』敵から目を離しちゃダメですからね!」
「あぁ、わかったぜ。『絶対』、見逃さないぜ。OKOK。いい具合に敵が近づいてきた。よし、いい具合だ。おい。『メイド』まだか? ……だいぶ敵が近いぞ?」
「まだです。これは『近距離』じゃないと効果がないんです。じっと、我慢してください」
「おぅ。わかった。我慢だな、我慢。……くっ、でもかなり近いぜ。敵の距離があと三メートル。二メートル、一メートル。『メイド』まだかよ! まだなのかよ! さすがにコレはまずいぜ!」
オレは『メイド』のほうを向きました。
……『メイド』がいません。
遠くのほうで声がしました。
「四十八の『メイド』の嗜みの一つ――」
【偉大なる逃走】!
――ものすごい遠いところを、『猫嬢』と『メイド』が走ってます。
「って、オマエらだけで逃げるなぁーーーーッ!」
「……ちっ、気づきましたね」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーッ! オレをオトリにするんじゃねぇ!」
「もう追いついてきた。男なんだから、私たちの『生け贄』になって時間稼ぎしなさいよね!」
「誰が、テメェらの『オトリ』なんかやるかよ!」
「大体、オマエらは――。うぉっ、あぶねぇっ!」
『ガシャン』、といって、『防火シャッター』みたいな壁が落ちてきた。
『絶対通さない』、『絶対壊れない』、『絶対だよ?』って【自己主張】を漂わせやがる。
しかも、『ガシャン』、『ガシャン』、『ガシャン』と無数にそれが落ちてきやがって、オレたちを閉じ込めやがた。
オレと『猫嬢(クソ猫)』の二人。
『メイド』が、向こう側に一人。
――しかも、『殺戮ロボ』がいっぱいのほうに『メイド』が独り。
「……って、これ『分断』かよっ!」
「『メイド』、大丈夫?」
「……えぇ、大丈夫です、お嬢様は?」
「クソ野郎がいるけど、それ以外は平気よ」
「それは、良かったです。いえっ、お嬢様には悪いかもしれませんが……」
「だけど、分断されちまったぜ。どうするよ? これはさすがに破れるそうに無いぞ? 蹴ってみても、殴ってみても、無理そうだぜ」
殴って蹴った後に言ってみた。
ものすごく痛いです。
――『クラック(チート)』はさすがに、コイツラの前では使う気がしねぇし。
……それに壊れるかどうか、わからねぇ。
『変なコード(仕掛け)』にひっかかれば、えらいことになりそうだぜ、この『罠の迷宮』。
「たくっ、蹴破ろうとする前に、冷静な分析をしなさいよね。これだけの『防護系【陣】』の『重層式』、『素手』で破れるはずが無いじゃない。いたら『化け物』ってもんよ?」
「――わかりました。お嬢様たちは先に出口へ向かってください」
『メイド』の声がした。
「なっ! アンタを見捨てて、行けるワケないじゃない! それに、そっち側には、『セキュリティロボ』がすぐそこまで来てるのよ?」
「えぇ、確かに。……足音がどんどん近づいてきます。もう、ちょっとで相手の『射程距離』に入りそうです。お嬢様。――先に行ってください。私は大丈夫ですから」
――消え入りそうな『メイド』の声。
だけど、『力強さ』の【自己主張】は、消えない。
「――『若造(神名和馬)(カミナ・カズマ)』さん」
呼ばれた。
初めて、『名前』で呼ばれた。
『真名(本名)』で呼ぶってことの意味は――。
「――お嬢様を頼みます。お願いします。すぐ追いつきますから」
「頼むって、オマエ……」
それは無茶だろ。
だって、あの数だぜ?
一体一体から、『絶対破壊不可能(無敵)』って【自己主張】を出してるんだぜ?
……だけど、オレは、『真名(本名)』で呼ばれる意味を知っている。
「心配しないでください。それに私は『メイド』ですよ? 屋敷の地理は、熟知してます。心配なさらずとも、大丈――」
途切れた。
激しいっていうよりも激しい音で途切れた。
――形容できないから激しいとしか、言えない。
「……『メイド』っ! 『メイド』ぉーーーーーーっ! 『メイド』! 『メイド』が……。『メイド(サクヤ・マリア・ロベルタ)』がッ!」
クソ猫が、『痴呆老人』みたいに、繰り返す。
何度も何度も何度も何度も――。
『どごん!』、シャッターの向こうから、物凄い勢いの何かが、ぶつかった。
「我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ」
「我ラノパゥワ~ヲ見セツケテ殺ルノダ」
くそっ。くそっ。
――『メイド』の野郎。
「……『猫嬢』、早くしろ!」
「……でも、『メイド』が。『メイド』があっちに!」
くそっ、どうしようもねぇな!
オレはコイツが『大嫌い』だ!
小学校のときに『鳥小屋の掃除』をさせられた後に『手を洗わずに給食』を食べるぐらい嫌いだ。
つうか、今すぐこの『顔面を踏み砕いて』、『毛を毟り取って』、『豚に食わせてやりたい』ぐらいに嫌いだ。
……だけどな、『メイド(仲間)』の頼みを蔑ろにするなんて、もっと、できねぇッ!
「……きゃっ! ちょっ、アンタ、いきなり、何すんの。放しなさい!」
クソ猫がなんか言ってる。
あいにく、『猫の言葉』はわかんねぇ。
……オレは走り出し。
走り出す。
そして、『腕の中のバカ』に告げる。
あぁ、告げてやる。
「うるせぇ! ……ぼさっとしてんじゃねぇ。さっさと行くぞ!」
「でも、『メイド』が……!」
「うるせぇ! アイツは、大丈夫だ。大丈夫だって言ってたろ? アイツがそう言ったんだ。だから、大丈夫だ」
「説得力無いわよ、そんなの! 私は、『メイド』を……」
……『説得力』なんてねぇよ。
だが、それがどうした?
「アイツは、約束を破るようなヤツじゃねぇ! たぶん! きっとだ!」
『メイド』のことが頭によぎった。
今日会って、今までのことが頭によぎった。
「――いやっ、かなりウソつきっぽいな。……だけどよ」
そうだ。
アイツは涙もろいんだぜ?
なぜかは知らないけど、あいつは泣くんだぜ?
――それはな、人の心があるってことなんだ!
「『勝負所(ここ一番)』じゃ、ウソはつかねぇはずだ! だから、アイツを信じろ!」
「何よ、知ったふうに!」
「うるせぇ! 何もシラネェよ! アイツのことなんか、さっぱり知らねぇ! ――だけど、そんな気がするんだ。なんとなく! よくわからねぇが、そうに違いねぇ! ……だから、信じろ! オレが信じる『メイド』じゃなくっていい。お前が知ってる『メイド』でもねぇ。――『メイド』が『メイド』らしいことだけを信じろ!」
「――イヤよ!」
……ダメだった。
つうか、即答かよ!
何度言っても、これだけ言ってダメなのかよ!
しかも、思いっきり、オレの手を噛んで逃げやがる。
……『歯型』が残ってるじゃねぇかよ。
「誰が、アンタの言うことなんか聞くかっての! 今回のゴタゴタだって、アンタのせいじゃない! アンタが、『本を盗って』、『セキュリティ起動』させたからじゃない! だから、『メイド』が! 『メイド』が――」
『猫嬢』が床の上からオレを睨んでくる。
涙交じりで、睨んでくる。
『悔しさ』と、『悔しさ』と、『悲しさ』と『悲しさ』を込めて、睨んでくる。
「……アンタのこと許さないんだからッ!」
「ちょっ、『猫嬢』どこいくんだ! おい、待てって!」
『猫嬢』が、走る。
走って、走って、走り去る。
こんな警報だらけで、『火災報知機』鳴りまくりで、『火災現場』になってる屋敷を走って逃げていく。
「クソッ!」
『歯噛み』する。
――もの『すごく歯噛み』する。
『奥歯が砕けそう』なぐらいじゃなくって、『砕けちまえ』ってぐらいに悔しくて。
――悔しく悔しくて悔しくて。
オレは『バカ猫』を追いかけた。
どんなに『クソ猫』を殺したいって思ってもな……。
――『メイド』の想いを『無駄にすること』なんて、オレには『できねぇ』よ!




