episode.6
最終話となりました
最後までお付き合い頂けたら幸いです
桜並木で撮った写真の端に映り込んでいる守屋の顔を、あれから何回も雪子は見返している。昔の様に一緒に並んで撮ったツーショット写真ではないけれど、今の雪子を元気にするには充分だった。本当なら笑顔の写真に越した事はないけれど、会いたい時に思い出すには これで充分と、雪子は大事に携帯の中に保存していた。そして時々、あの時守屋から受け取った花びらを見ては、雪子は密かに自分の心を満たすのだった。
調布飛行場の花見から3週間以上が経過した頃、再び雪子から守屋にメッセージが届く。
『この前買って帰ったカレー、美味しかったですか?』
唐突な内容に、守屋の心が立ち止まる。
『美味しかったよ。お袋も気に入ってた』
『守屋さんは食堂で食べて帰るから必要ないかもしれないけど、今トッピングキャンペーン中らしいです。もし機会があれば、利用して下さい』
その日守屋は、踊る胸を抑え、夕飯を食堂で食べずに仕事を終えて真っ先にその店に向かう。小さな駐車場に車を停め中に入ると、レジには店の制服を着た雪子が立っていた。
「いらっしゃいませ」
「あ・・・」
「お持ち帰りですか?」
「いや、ここで」
カウンター席に座る守屋のオーダーを雪子が取る。不慣れだが一生懸命覚えたての仕事をする雪子を見守りながら、守屋は一口水を飲む。守屋の注文したカレーをカウンター越しに提供する雪子に、守屋が聞いた。
「ここで働く事にしたの?」
「はい」
「頑張ってね」
一瞬強張った雪子の表情も、守屋のその一言と共に添えられた笑顔で、一気にほぐれていくのだった。そしてまた同時に、守屋の心も少年の様に青春色に染まっていく。
それ以来、週に2、3回は通う守屋だ。時には食堂の食事を食べずに帰り、時には持ち帰りにして、また休みの日には家族の分も買って帰る。すっかり常連になった守屋の財布の中には、サービス券がいっぱいになる。
「あんた、ここのカレーえらく気に入ったのね」
母が、幹夫の買ってきたカレー屋の袋を見て言う。
「サービス券がいっぱいあってさ」
「トッピング変えれば全然飽きないから、俺は平気だよ」
祐司がにこっと幹夫に視線を飛ばす。
母が冷蔵庫に麦茶を取りに行く合間を縫って、祐司は幹夫に囁いた。
「兄ちゃんの元カノ、前ここにちょっとだけ来た子。あの子、今あそこで働いてるんだね」
幹夫が目を丸くする。
「見たんだ。前兄ちゃんが中で食べてるとこ。そしたらそこに、あの子がいた」
「・・・・・・」
祐司はにこっと笑った。
「又会ってるんだ?良かったね」
そこに麦茶を持って戻って来る母。
「何の話?何かいい話みたい」
すると幹夫が祐司に先を越されまいと、フライング気味にその解答権を得る。
「別に。祐司が仕事順調に行けてるって話」
「そうなのよ~」
上手く乗っかった母に、幹夫は胸を撫で下ろした。
夕食後、幹夫が祐司の部屋を訪ねる。
「俺があの子と会ってる事、お袋には言わないでおいて」
「言わないよ」
そうは言ったけれど、祐司の顔には それを不思議に思っている事がありありと現れている。
「お袋には、変な心配させたくないからさ。もうあの子とは何でもないし、ただ新しい職場で頑張ってる彼女を、応援してるだけだから」
祐司が暫く考えてから、幹夫に言った。
「兄ちゃんは・・・それでいいんだ?」
幹夫は無意識に視線を外す。そんな様子に気が付いた祐司が、取り繕う様に言葉を置きに行く。
「ごめん。なんでもない」
今日も守屋は仕事帰りにカレー屋に寄る。カウンターがいっぱいで、今日は奥のテーブル席に一息つく。
「お疲れ様です」
にっこり微笑んで雪子が水を持って来る。
「今日は、どうなさいますか?」
「カツカレーとミニサラダで」
雪子はクスッと笑いながらオーダーを取る。
「言われた通り、ちゃんと野菜、食べてますよ」
前回来た時に、雪子が注文を受ける際、
『野菜も摂った方が良いですよ』
と言った忠告を守っての行動だ。
暫くして、雪子がサラダを運んで来る。
「今日は、暖かかったですね」
「そうだね」
一言だけ会話を交わし、去って行く。そして又、雪子がカレーを運んでくる。
「ごゆっくりどうぞ」
皿を置いて行きかけた雪子に、守屋が話し掛けた。
「こういうの、懐かしいね」
同じ施設で働いていた時の事だ。昼の時間に食べそびれて、遅れて食堂に行った時に、温かい味噌汁を運んできた雪子の姿が、守屋の頭の中で目の前の雪子と重なる。あの時、温かい食事を雪子が運んで来ただけで、疲れが飛んでいく様な心地になったのを、守屋が懐かしく思い出す。
「・・・そうですね」
あの時は、他の目を気にして にっこり笑いかけてくれる事はなかったけれど、今は目の前で雪子が微笑んで返事を返してくれる。そんな小さな幸せで、満たされる守屋だ。
そして雪子が、思い出した様に言う。
「夏子ちゃん達がこっち発つの、来週の土曜日だそうです。一緒にお見送りに行きませんか?」
守屋は手帳を取り出して、躊躇なく頷いた。
夏子達の乗る踊り子号の始発駅である池袋で、守屋と雪子が待ち合わせる。夜勤明けの仕事場から急いで来た守屋を見付けるなり、笑顔で手を振る雪子だ。
「ごめんね、待たせたかな」
「忙しいのに、ありがとうございます」
急ぐ守屋の腕を、雪子が引き止めた。
「宿題・・・」
「・・・宿題?」
「これ・・・」
雪子が手帳のポケットから小さな白い紙を取り出して、守屋に手渡す。それをそっと広げると、そこには淡いピンク色の桜の花びらが一枚、挟んであった。
「キャッチ、しました」
にっこり笑ってピースする雪子。
「これで守屋さんも、幸せになれます」
「ありがとう」
そうお礼を言って、守屋も手帳に大事に挟んだ。
入場券を購入して改札を通り、夏子達の待つホームへと向かう二人。夏子と慎二は、雪子達の姿を見付け、大きく手を振った。
「走らなくても、まだまだ発車まで充分時間あるのに」
夏子がそう言うと、雪子が笑った。
「だって、バイバイするまでの時間が短くなっちゃうじゃない」
それを聞いて、慎二が夏子の方を向いた。
「相変わらず可愛い事言うよね、雪子ちゃん」
すると、夏子が少し口を尖らせた。
「あ、そういう事言う?男心くすぐられちゃった?いいよ、雪子ちゃん好きになったって。私一人で伊豆行くから」
「冗談だってばぁ」
相変わらずじゃれる二人だ。雪子の一歩後ろで微笑む守屋に、夏子が言った。
「守屋さんも、わざわざ来てくれて、ありがとう」
「こっちこそ、図々しくついてきちゃって」
「でもさ、良かったよ。二人がまたこうやって一緒にいる所見られて」
何気なく言った夏子の言葉に、誰も返す言葉もなく、雪子は話題を変えた。
「あっちでも、一緒に住むんでしょ?」
「私はね~別々でもいいんだけど~」
そう話す夏子を、慎二が制す。
「またそういう事言う。本当は籍入れてから引っ越したかったんだけど・・・」
「慌てる事じゃないもん。いいんだって、落ち着いてからで」
「だけど、けじめってもんがあんでしょ」
そう話す慎二を、夏子がしかめっ面で指を差す。
「固い事ばっか言うからさぁ、疲れちゃうって言ったの!」
「固い事じゃないよ。男ならわかってくれますよね?守屋さん」
話を振られた守屋は、戸惑い気味だ。
「慎二君は偉いよ、若いのに。男らしい」
すると夏子が間髪入れずにその語尾をさらっていった。
「違うの。けじめ、けじめって、慎ちゃんは形にばっかりこだわる悪い癖があんの」
「何だよ、悪い癖って」
久し振りに目にするテンポの良い掛け合いに、守屋と雪子は目を見合わせて笑った。そんな様子を見ていた夏子が元気な声を上げる。
「ねぇ、4人で写真撮ろ!」
夏子が慣れた手つきで電車をバックにパシャリと取る。
「やっぱいいね、この4人」
慎二も嬉しそうににっこり笑って頷く。
「もし私が慎ちゃんと別れても、この4人で、これからもまた会おうよ」
当然、間髪入れずにツッコミを入れるのは慎二だ。
「これから結婚とかって話してるのに、そんな言い方ある?酷いよ~、なっちゃん」
「確かに、酷いわ」
守屋も慎二に加勢する。すると、すかさず夏子の口が尖る。
「何よ~!守屋さん達に遠慮して気遣って、ああいう言い方してあげたのにぃ~!」
今度は夏子が、雪子の様子を窺いながら言った。
「雪子ちゃんもさ、今の若い彼氏に飽きて、やっぱ守屋さんみたいな包容力のある大人の男がいいなぁって懐かしくなったら、遠慮しないで早く戻っておいで」
雪子の表情が急に曇るから、慎二が夏子の腕をペシッと叩いた。
「なっちゃんてば・・・」
「何よぉ~!守屋さんの代わりに言ってあげたの!」
「え?!」
戸惑う守屋の顔を見て、雪子は少し伏目勝ちに言った。
「守屋さんには、もう・・・戻れない」
ついさっきまで春色に心を躍らせていた守屋の仕草が、急に重たくなる。
「何でよ、雪子ちゃん」
食って掛からんばかりの夏子だ。
「守屋さんに・・・釘刺されてるし」
守屋が驚いて顔を上げると、雪子は慌てて作り笑顔をばら撒いた。
「ううん、守屋さんに言われてるとかじゃなくて・・・こんな私じゃまだ全然ダメだから・・・」
しかし夏子は、そんな雪子の言葉など聞いてはいない。
「守屋さん、何言ったの?」
この間『俺みたいなの、選んじゃ駄目だよ』と何気なく自分の口から吐き出した言葉が、守屋の胸を強く締め付けている間、雪子は夏子をなだめようと必死になっていた。
「夏子ちゃん、違うの。私ね・・・」
そこまで言い掛けた時、電車の発車のベルがホーム全体に響き渡った。
「乗らないと・・・」
慎二が夏子の荷物を持ち上げる。心残りをホームに置いたまま、夏子と慎二は電車に乗り込んだ。ドアが閉じるまでの間を惜しんで、会話を交わす。
「ちゃんと説明するから、夏子ちゃん」
「うん」
「ごめんね、こんな見送り方になっちゃって・・・」
雪子の悲しそうな顔を見かねて、慎二が笑って夏子の頭に拳骨を乗せた。
「なっちゃんのせいだよ。問い詰める悪い癖」
口を尖らせる夏子をお構いなしに、慎二が守屋と雪子にお辞儀をした。
「わざわざ見送りに来てくれたのに、ごめんなさい」
守屋もそれに合わせた。
「二人共、元気で頑張って」
「向こう着く頃には、雨が上がってるといいね」
そして夏子も手を振った。
「守屋さん。雪子ちゃんの事、よろしくね」
返事をしきれずにいる守屋を感じ取って、慎二が夏子の後ろから腕を回して口を塞いだ。その様子に4人が笑ったところで、ドアがプシューッと閉まった。
走り出した電車の中で、さっきまで降っていた雨粒の付いた窓の外の流れる景色に二人を思い出しながら夏子が言った。
「あの二人、もう本当に駄目なのかなぁ・・・」
「・・・どうかな」
「でもね、付き合ってた時より、らしくなってたっていうか・・・そんな風に見えたんだよね」
「・・・らしく?」
「そ。恋人らしく。昔はどっか他人行儀だったけど、今は時々目を合わせる仕草とかが、以前より自然だなって・・・。お互い想い合ってる様に見えた」
「きっと、あの二人にはあの二人なりのペースがあるんじゃない?さっき雪子ちゃん『こんな私じゃ、まだ、ダメだ』って言ったんだよね。だから、この先また可能性があるんじゃないかって、俺も思ってる」
尻切れトンボのまま去って行った電車が見えなくなるまでホームで見送ると、雪子は少し気まずそうに、守屋を振り返った。
「私って、相変わらず言葉が足りなくて・・・本当嫌になっちゃう。ごめんなさい」
守屋は笑顔で雪子の肩に手を乗せた。
この後カレー屋のバイトだという雪子と同じ電車に揺られる守屋。土曜の昼間の車内は家族連れやカップルが多い。
「今日 世間は休日か・・・」
普段電車に乗らない守屋は、週末感いっぱいの車内を見回して、そう一言呟いた。並んで吊革につかまる雪子が、着信を感じて鞄から携帯を取り出してみると、夏子から画像が送信されていた。
「さっき撮った写真、夏子ちゃんから送られて来ました」
すぐに保存の操作をすると、夏子からメッセージが届く。
『守屋さんにも送っといてね』
「これ、守屋さんにも送りますね」
携帯に送られてきた画像を開いてじっと眺めている守屋の脇から、雪子の手が伸びる。そしてその人差し指が保存のマークをタップした。
「まずは保存しといて下さい」
目の前の席が空いて、二人が並んで腰を下ろす。
「守屋さん、夜勤明けで眠くないですか?」
「どうして?眠そうな顔してる?俺」
隣の守屋の顔をじっと眺めて、雪子は首を横に振った。
「でも・・・眠っていいですよ。着いたら、起こしてあげます」
以前、一晩明かした車の中で、一瞬仮眠を取った日の事を思い出す。あの日も雪子は、似た様な事を言って、守屋の心に陽だまりを作った。
「何なら・・・肩も貸しますよ」
守屋がくすっと笑う。
「ちょっと低いなぁ・・・」
雪子が慌てて背筋を伸ばして肩を吊り上げると、二人は顔を見合わせて笑った。その時、目の前の窓から 薄っすら日が差し込んでき始めている事に、守屋が気付く。
「雨、上がったね」
嬉しそうに窓の外を見上げる雪子の瞳に、この間までの影はない。
「コーヒーの飴、食べます?」
雪子は鞄から飴を二つ取り出して、その内の一つを守屋の手の平に乗せた。夏子達とのドライブで、助手席の雪子が運転中の守屋の口に飴を入れた一コマを思い出した二人が、どちらからともなくクスッと笑う。そして手の平に乗った飴を見つめてから、守屋は隣の雪子へ顔を向けた。
「コーヒー味なんて、ユキ・・・食べるの?」
「あ・・・」
雪子は鞄の中から、残りの飴の包みを出してみせる。
「お金崩したくて。守屋さん食べるかなって・・・」
飴を口に入れた守屋の顔を確認しながら、雪子が聞いた。
「苦いですか?」
「甘いよ」
「じゃ、食べられます」
にこっと微笑んで、雪子も守屋と同じ様に、飴を口に放り込んだ。
「平気?」
守屋が心配そうに雪子に聞く。すると、雪子はもう一度笑った。
「苦かったら、残りの飴全部守屋さんにあげようかと思ってたんですけど、大丈夫そうです」
それを聞いて、守屋はふっと吹き出した。
「良かったね」
「私には甘くて良かったけど、守屋さんはきっと物足りなかったですね?」
「そんな事ないよ。美味しいよ。特に、疲れてる時にはいいかも」
すると、その飴をしまいながら、さっきよりもほんの少し控えめな声が雪子から聞こえてくる。
「又、次の時に取っておきますね」
「・・・・・・」
返事をしない守屋が、話題を変えた。
「最近は、夜眠れてる?」
屈託なく笑う雪子の笑顔は、一昨年守屋が雪子を好きだと意識し始めた頃を思わせるものだった。
「最近も月、眺めたりする?」
「いいえ」
「・・・どうして?」
「月の満ち欠けに自分の先行きを重ねるなんて、考えてみたら・・・どうかしてました。ほんと、弱虫だったなって・・・」
電車が少しカーブして、差し込んだ日が、雪子の頬を照らした。
「自分の勝手な悪い予感を、いつも何かのせいにしたかったんだと思います。逆に良い事があっても、それが長続きしないんじゃないかっていう不安も、何かになすりつけて もみ消したかった様な気がします」
そう話す雪子が、日に当たっているせいか、守屋に眩しく映る。
「今は・・・悪い予感がしなくなったの?それとも、どんな不安も受け入れようって思える様になったとか?」
雪子は恥ずかしそうに笑って首を横に振った。
「そんな立派なもんじゃありません。何ていうか・・・目の前の事だけ。ただ目の前の事を単純に喜んだり悲しんだり・・・そしてそれを、出来るだけ周りの人と分かち合おうって・・・思ってるだけです」
雪子の瞳は、希望の光に満ち溢れている様に、真っ直ぐで力強く、そして優しい。
「今を精一杯生きてるって、事だね」
雪子は謙遜して首を更に大きく振った。
「そんな格好良く言い過ぎです。ただ私は、気持ちを人と共有するのが苦手だから。リハビリみたいなものです。ただ・・・それだけです」
守屋は雪子の横顔を見つめながら言った。
「凄く・・・大人になったね」
雪子は守屋の方を向いて、にこっと笑った。
「守屋さんとの歳の差、縮まりました?」
守屋は笑顔で頷いた。
「うん。だけど・・・俺は駄目だなぁ。ちっとも進歩してない。このままじゃ、ユキにあっという間に歳、追い抜かれるかもね」
はははと悲し気な守屋の笑い声が消えると、今度は柔らかな雪子の声が聞こえてくる。
「どんな私も、そのまんまの私を守屋さんが受け入れてくれたから・・・です」
最後、雪子は照れた様に笑った。
「まだまだ きっとずーっと先になると思うんですけど・・・」
雪子が瞳を輝かせながら 珍しく先の話をするのを見ていると、守屋も自然とここ最近の雨雲が晴れていく様な心地を味わうのだった。
「何らかの形で、守屋さんに恩返ししたいなって・・・」
守屋が雪子の顔に釘付けになったから、雪子はたった今言った言葉を覆い隠す様に次の言葉を被せた。
「なんて・・・大袈裟な事言っちゃいました。全然具体的じゃないのに、ただそんな事いずれ・・・そう、いずれ出来たらなって、ただそう思っただけです」
丁度二人の口の中でコーヒーの飴が溶けて無くなった頃、電車が駅に到着し、二人はホームに足を下ろした。
「あ!」
改札へ向かう階段の方へ足を進めていた守屋の腕を、雪子がそう声を上げて掴んだ。
「見て!あそこ」
雪子の指さす方を見ると、目の前には、大きな虹が空いっぱいに掛かっていた。
「虹・・・」
呟く守屋の顔には春の雨上がりの日差しが差している。そんな横顔に、雪子が言った。
「もしかして今、良い事ありそうって思いました?」
ふっと鼻で笑う守屋。
「偶然見えた虹に自分の先行きを重ねるなんて、弱い男だと思ったでしょ?」
思わず吹き出した雪子が未だ掴んだままの腕に、ささやかな幸せを感じる守屋だった。
同じ電車に揺られ、笑顔を交わし合い、同じ駅で降りる。言わずとも知れた同じ方向へ足を進める守屋と雪子が何を思っていたか・・・。薄っすらと遠くに浮かぶ白い月の遥か手前で、大きく空に掛かる虹が、二人の新たなる関係へのスタートラインとなるのかもしれない。
完
最後まで4人を見届けて下さり、ありがとうございました
4人それぞれの越え方、決め方、始め方、賛否両論お聞かせ下さい