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黶(あざ)  作者: 黎明
新たな始まり
13/17

咲いた華

 5

 ほろ酔いの嘉瀬がよろめきながら、家路についたのは昨夜の三時半。

 押しつぶされたハイボール缶を蹴飛ばしながら帰った。小学生にでも戻った心地がして、ふらふらしながらも終始、にやついていたため、職質を何度か受けたが上手くやりすごした模様だ。

 アパートのドアを開けた途端、もやっとした熱気が嘉瀬を襲う。転がっている温くなった飲料水を三杯ほど飲むと嘉瀬は靴を脱ぐのも忘れて、畳の上に横たわるとすぐにいびきをたてはじめた。

 都会の喧騒も忘れ、すっかり泥んこのように眠った嘉瀬だったが、ほんの二、三時間でたたき起こされるとは本人にも予想がつかなかったであろう。

 突然、インターホンが鳴って、しきりにドアを誰かが叩いた。騒がしい様子に目を覚ました嘉瀬は不機嫌そうに顔を曇らせた。

 「こんな朝っぱらから、迷惑な奴がおるもんや。しばいたろ」

 寝ぼけ眼の嘉瀬は、尻を掻きながら玄関に向かった。聞きなれた声がする。知人であろうと容赦ない嘉瀬はくたばれ、くたばれとぶつぶつ謂いながらドアノブを握った。ここで踏み止まって、無視(シカト)してやろうとも思ったが、騒がしいだけなので仕方なく、出ることにした。

怒鳴り散らしてやろうと意気込んで、扉を開ける。

嘉瀬は血相を変えて、飛び出した。主は肩をすくめて、一瞬身を引いたが、すぐに身をより戻した。

 「嘉瀬さん、助けてください。頼んます」

声の主は嘆いた。

 「五月蠅いのう、なんやっちゅうねん。しょうもない戯言、ほざきよったらぶちまわすで。覚悟して謂えや」

 ぼやけた視界でもはっきり判断は出来た。声の主は松原だ。息を切らし、なにやら慌てていたので松原をとりあえず、中に招き入れた。

 「なんやねん」

 改めて松原に向き直すと、嘉瀬は謂えと顎でしゃくった。松原の目は冷静さに富んでおり、ふざけている様子は見受けられなかった。いやマジモンかよ、おい、と突っ込みたくもなったがここは止まった。空気を読んだというやつだ。

 「殺られました」

 「どこのどいつが」

 おおかた、予測はついていた。誰かが死んで、葬式をあげるとか、そういう話だろう。珍しくもない。

 「・・・天宮です」

松原は腹に轟くような低い声で謂った。その声は悲しみと恐ろしさを帯びているように聞こえた。

嘉瀬はこの報告に少し驚いた。天宮は幾つもの死線をくぐり抜けてきた、極道でもトップレベルの猛者だ。松原とは同期なので、喧嘩が頻発していたが仲が良かった。あいつが死んだとは。昨日、どついたばかりだったこともあり、驚きは倍増した。

「誰に殺られたかは見当ついとるんけ」

 松原はそっと俯く。嘉瀬は舌打ちした。ここで叱るのも道理かとは思ったが、面倒くさくなってやめた。

「なんや。お前、何しに来てん」

ぶつくさ文句を垂れると頭を掻き、嘉瀬は煙草に火をつけた。

「殺った奴はわかってるんです。でも、それを謂っていいのか、、、判断につきます」

再び俯いた。煙たそうに嘉瀬は眇めた。めんどくさいなあ。わかってんやったら早よ謂わんかい。

「アホか。わざわざ人、こんなに早よ起こしといて、何の報告もなしっちゅうのは失礼やと思わへんか?」

「じゃあ謂っていいんですか?いいんですね?」

松原の目には強みがあった。どうも踏み込んではならない禁域タブーを連想させるような、そういう目だった。

「ええから謂えや」

内心、答えるのに戸惑った。だが、ここで妥協しなくては男ではないと思った。ただそれだけだ。

「天宮を殺ったのは、夔夜叉会の暁です。暁零士です」

はて、どこかで聞いたことのある名前だ。どこで聞いた。たしか橘の、、、

嘉瀬はニヤリと笑った。嘲笑でも条件を鵜呑みにした自分に対しての笑いでも内心を顔に出さないようにするための取り繕った笑いでもなかった。

「安心せい、松原」

へ?と突拍子もない行動をする嘉瀬に当惑していた松原だったが、直ぐに安堵した。嘉瀬は本気の目だ。

「ケリはつけるし、喧嘩は買う。芥の出来損ない、集めろ」

久しぶりに血が騒ぐぜ。理由はどうあれ、皆殺しや。

これで夔夜叉会、潰せばもうけもん。橘に難癖つけて百万は明日にでも返しとこう。

「ほんならいくさといこか」

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