表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/281

冬に咲く花 81



「これ、誰に?」


「瓦礫の山に登った時に落ちたんだよ」


 あえてルイの目を見ながら言った。早口にならないよう気を付けたつもりが、意識しすぎて声が上擦る。


(さすがに苦しいな)


 ルイは孝宏のみぞおちの痣を、そして腕を手に取り、食い入って見ている。腕輪の術式を指先でなぞり、目つきが鋭く険しくなる。ルイは唇をきつく噛みしめた。


 次にルイは孝宏のみぞおちの痣に手を伸ばした。押さずに指先を軽く触れただけだが、一瞬触れた指先が熱くなる。だがそれ以上の変化はなく、その代りルイの表情がスッと消えた。


「止めた。後はカダンにやってもらって。良く考えれば僕が男の為に、そこまでやる必要ないし」


「え?何で……」


 傷の理由を聞かないのか、言いかけて止めた。さっきの言い訳を信じてくれたとは思えないが、本当の理由なんて言いたくなかった。やぶ蛇になっても怖い。


 ルイが先に立って歩き出し、孝宏もそれに続く。肌蹴たマントを整えていると、背中を向けたまま、ルイが言った。


「本当のことなんて聞かないよ。今はね……でもカダンはどうだろうね」


 ズルい言い方だ。言葉の裏に隠れる彼の意図が見え隠れする。


 突然、空が破裂音がして、つんざく笛の音が辺りに響き渡った。二人は空を見上げ、後ろを振り返った。テントとは真逆の方角の空に赤と緑の煙が上がっている。真っ先に反応したのはルイだった。


「緊急事態を知らせる合図だ」


 それを聞いて、孝宏は例の記憶を思い出した。


「まさか……だってあれは27日で今日はまだ…………」


「今日は24日だけど、それが何?」


「それは……それは……ば、馬鹿な!早すぎる! って言ってみたりして………ははっは、は……」



――kachikaci――



「ふざけてないで、早く皆の所に戻ろう!ここも危ないかもしれない!」



――kachikachikachikachi――


――kachikaci――



「何の音だ?」


 二人からさほど遠くない、近くから聞こえた。周囲を見渡せば、崩れた建物の向こう側、薄く半透明の羽が二枚つき出している。羽が震え、その度に不気味な音が聞こえてきた。


「タカヒロは下がってて」


 ルイが孝宏の前に立ち、自分の短剣を引き抜き構えた。

 羽が建物の下に隠れたかと思うと、とうとうそいつは姿を現した。三つに分かれた、体を覆う漆黒の甲羅。顔を半分を占める巨大な目に、蛾のような二本の触覚。胸部分に四本、腹部分に二本、合計六本の足。前四本に比べると、極端に太い後ろ足の、ふくらはぎに生える四本の鉤状の刺。

 背中には細長い半透明の羽が生え、頻りに震わせている。頭、胸、腹を繋ぐ関節部分は極端にクビれ、手足を含めるすべての関節を小さな球体が繋ぐ。


 それを見た瞬間、ルイが空に向かって魔法を打ち上げた。空に赤と緑の煙がたなびく。


――kachikachikachi――


 それは発達した大きな顎で音を立てていた。威嚇しているのだろう。一般的な日本人男性ほどの大きさのそれは、一言で表すのなら巨大なアリ。ただし羽はトンボの、触角は蛾の物によく似ている。お尻は薄い黒と漆黒の縞模様で、先にはとがった針が見え隠れする。収納式になっている辺り、まるで蜂のようだ。


「岩に捕らわれるのは、黒い侵入者。包まれて残るのは石の人形。これでお前も終わりだ」


 ルイが呪文を唱えると、石の壁が地面から伸び巨大アリを囲ったが、巨大アリの強靭な顎は、石など簡単に噛み砕いてしまった。石の壁がガラガラ音を立てて崩れていく。


 巨大アリは太い後ろ足で地面を思いっきり蹴ると、羽をバタつかせ、一気に間合いを詰め襲い掛かってきた。ルイは孝宏を横に引っ張って避わし、二人とも地面に倒れこんだ。


「タカヒロは逃げる事を考えて。でないと死ぬよ」


 ルイはすばやく体勢を直しつつ孝宏を背に隠し、巨大アリに短剣を向けた。続けざまに火の魔法を放つが、アリの黒い体は、弾けた水滴が如く平然と炎を受け流した。


「こいつもあれと一緒か。くそっ!」



 ならばと今度は孝宏がルイの前に出た。



「頼むから、届いてくれよ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ