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冬に咲く花 6

『猫が…チシャ猫が…』


「僕は猫じゃないよ」


 孝宏は額を軽く叩かれ目が覚めた。ぼやける視界に初めに見えたのは、目前に迫る人の顔。絵の具で塗りたくったような真っ赤な髪に三角の耳。太陽とは無縁の白い肌に艶やかな長髪の男。最近どこかで見た顔だ。

 男は不機嫌に顔をしかめて、白いタオルを持っていた。額にヒヤリとしたタオルが優しく乗せられる。


「僕は狼だ。猫又と一緒にするなよ。見ろ、尻尾だってフサフサで立派だろ?」


「ああ確かに。でもそんな尻尾の猫もいるだろ」


「猫又に長毛種はいないよ。」


 孝宏は寝ぼけた頭で答え、あることに気付きゾッとした。


『俺今、変な言葉喋ったかな……?』


「お前何言ってんの。異世界の言葉なんて僕は知らないんだから、この国言葉で喋りなよ。さっきみたいにさ」


『喋って俺……何で?』


「ああもう。皆呼んでくるから、そこから動かないでね」


 要領の得ない孝宏の態度は、男を苛立たせた。孝宏が寝ていたすぐ左脇には扉があり、男はそこから外に出て行った。


「それで何でか俺も変な言葉を喋るんだよ」


 これは夢の続きかも知れない。孝宏は深いため息を吐いた。 


 木製の四脚のイスとテーブル。床は木の板が組敷かれているが、細長い台を堺に灰色の石畳に代わり、奥には扉と、よく見えないが釜戸らしき物がある。

 腰の高さほどの瓶が三個並び、野菜が積まれた籠が石畳に直に置かれていた。その向かいに食器が並んだ棚があり、細長い台の上には蓋はされていたが、良い香りの漂う鍋が置かれている。テーブルの上には、男が飲んでいたのだろう白いポットとカップが置かれていた。


『どう見ても台所だよな』


 孝宏は台所の角に寝かされていた。背中が痛くないのは下に敷かれた簡易ベッドのおかげだろう。シーツでくるまれているが、日に干された草の香りがする。簡易ベッドを囲うように、床に白いインクで数字と見知らぬ文字とが書かれていた。

 それらが何を意味しているのか、孝宏が知るところではない。怪しげな儀式にも見えるが額のタオルは心地よく、少なくとも身の危険はないと気を緩めた。

 男に言われたとおり動かずじっとしていると、数分で数人の見知らぬ男女を引き連れ男は戻ってきた。得げに笑みを浮かべ、さっきとは随分と態度が違う。


「ああ、本当。目を覚ましてる」


「良かった。覚えてるかな。あの後熱出して寝込んでたんだよ」


「いや、安心した。本当に」


「僕が付ききっきり看病したんだから当然だよ」


「皆さん。一応病み上がりですし、そう囲んでは彼も怯えています。それから自己紹介しませんと、おそらく状況を把握していないかと……」


 矢継ぎ早に降ってくる言葉に、一人が首を傾げた。


「え?勇者だし大丈夫だよね」


 白い髪の毛の少年の、一見トンチンカンな発言対し、孝宏はちょっとだけ嘘を吐いた。


「いえ、全く、何が何やら……」


 本当に恐ろしいのだが、孝宏は知っている事があった。



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