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冬に咲く花 68

 検問所で炎を止めようと焦った結果、孝宏は深く考えずに短剣の刃をぐっと握った。鋭い痛みが掌から脳天へ突き抜け、その為か一瞬の間に炎は勢いを増した。大部分が炎に包まれたが、少しの間の後に、小さな爆発音と共に一気に消えた。

 確かに炎は消えたが、過ぎた痛みは、必要以上に炎をあおるだけだった。逃げ場のないこの場所でするべきでない。


 孝宏はぐれた炎を、霧中で捕まえた。とは言え指先で抑えているに過ぎず、いつ炎が暴走してもおかしくない。焦りが恐怖へ変わり、指先が震えた。


「あ、あ、中には人が……」


 誰に助けを求めたわけでない。人の命に責任を持つ恐怖を、急に実感しただけ。



 安請け合いしなければ良かった。


 出来ないといえば良かった。


 そもそも凶鳥の兆しの力など、隠しておけば良かった。


 何も知らないフリをして、黙ってみていればよかった。


 何かをしなければならない、なんて思わなければ良かった



 自分が頑張る必要などないじゃないかと、全身の力を抜いた時だった。



「絶対に大丈夫」


 不意に後ろからカダンの声がして、肩を後ろに引かれた。

 結界から体が離れ時、とっさに手を伸ばし両手に炎を握り込んだ。


 突如視界が暗転し、背後の人物を背中越しに感じた。


「見えないと、はっきりと魔力を感じるでしょ?この方が制御しやすくなるんだよ。安心して、見えなくても大丈夫、怖くないよ。俺が代わりに見ているから。外の様子は俺が教えてあげる。……あぁほら、もう魔力は安定してきてる」


 カダンはいつもの調子よりもゆったりと喋った。


「う、うん。本当?」


「うん、本当。俺って意外と魔法に詳しいんだ。魔力の高さなら、ルイにも負けないし、制御に関しては、俺のほうが対処法は詳しいの。だから俺の言ってる事は本当で事実だよ」


トン…トン…トン…トン…ゆっくりと一定の間隔で、肩に置かれた手が拍子をとる。


「マリーたちが言った通りだったね。タカヒロは上手く魔力を操れてる。見てればわかるよ。……もう少し…あぁ、すごく上手。すごいね、数日前まで魔法がまったく使えなかったとは思えないよ。信じられないくらいだ」


 カダンは実にうまく孝宏を煽てた。


 孝宏は次第に気分が良くなり、さっきまでの不安も焦りも次第に薄れていった。本当にうまく操れているような気がして、多少ひきつっているものの、笑みすら零れる。


 気分が落ち着いた今なら、さっきの奇妙な感覚が戻ってきて、暗くても周囲の様子がはっきりと見えた。

 炎はドーム状に結界を包み、そこから零れた炎が建物を囲んでいる。状況は変わらないどころかさっきより、炎の勢いは増しているが、不思議と焦りはない。


 まだ、指先は炎を捕まえている。


(全然大丈夫!)


 孝宏は固く握ったままになっていた拳を広げた。指先で摘み上げるような仕草で腕を上げると、結界内で建物を囲んでいた炎が、炎のドームに吸い上げられていった。


(ようし、このまま火を小さくしていけば……もっと、もっと、もう……少しだ。)


 ドーム状に覆っていた炎は次第に小さく、威力を弱めていった。ドームの天井部分がなくなり、孝宏がわずかに見上げる程度に低くなった時だった。


「まだ、火を消してはダメよ!結界はまだ、壊れていないわ!」


 あの赤毛の魔術師の声がした。カダンの手が離れ、これ以上は無理だと、彼女を止める声が聞こえる。


「ははっ!」


 孝宏は特に可笑しくもないのに、笑ってしまった。さっきから足が震えて止まらず、背中がゾクゾクしている。


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