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冬に咲く花 65

さあ、着いた。ここだよ」


 林を抜け着いたのは村の西側、テントが並ぶ、開けた場所だった。多くの兵士たちを見つけ、孝宏はもちろんカダンも安堵していた。


 土色のテントが並び、日が落ちようとしている中、兵士たちが松明に明かりを付け、見張りを立ている。

 カダンに誘導され車を止め、木に牛を繋いだ。それから二人は、比較的平で歩きやすい箇所を、村の中心に向かって歩いた。

 外から見るのと、実際に中を歩くのでは、印象がまったく違っていた。視界に飛び込んでくる破壊の爪痕。この村を襲った驚異がどれ程か、想像するだけで恐ろしい。

 だというのに、やがて不自然に綺麗な建物が見えてきた。外壁には細かな彫刻が施され、周囲の建物と違いほぼ壊れずに建っている。建物の前に人だかりが出来ていた。ほとんどが国の兵士たちだ。藍鉄色の鎧を身に着け、胸部には赤い線で花が描かれている。先程の出会ったナルミ―と同じ防具を身に着けているのは、当たり前と言えば当たり前だろう。


「一番奥の、教会の扉を背に立ってる女の人が見える?」


 カダンが指差した先、人だかりの視線の先に、教会を背にし両手を広げて立つ女の人がいた。身じろぎ一つせず、建物同様、不自然さを感じる。


 孝宏は傍に見知った顔を三つ見つけた。これほど険しく緊迫感が漂う彼らの表情は初めてだ。


「あの人はカウルとルイの母親で俺の叔母。オウカさんだよ。わかるかな、彼女はもう……」


 孝宏はカダンをバッと振り返った。彼女がどうなっているか聞かなくとも、カダンの表情が、態度が言葉の続きを語っている。

 孝宏はショックのあまり言葉もなかった。この結果を考えなかったといえば嘘になる。これまで何度も頭に浮かんでは、打ち消してきた。ただ心のどこかで漠然と、悪い様にはならないという考えが消えずにいた。


 人だかりの中から黒いローブをまとった者が一人、こちらに近づいて来た。真っ赤な長髪の女だ。その人はカダンに親しげに声をかけた後、鋭い視線を孝宏に向けた。その女は孝宏を下から上に舐めるように眺めた。


「ほぉ……この子が例の子だね。消せない炎を持つ子供、だろう?」


 ローブの女の問いかけに、カダンは肩を竦めただけだった。女はまあ良いと言うと、孝宏の手を取り両手でしっかりと握った。


「君にお願いしたいことがある。あの結界を君の炎で燃やして欲しいの」


 来なさい、ローブの女がそう言って歩き出した。孝宏もその後に続く。

 カダンは何か言いたげにしていたが、何を言いたかったのか、結局、孝宏は聞くことは出来なかった。女は振り返らず進むし、人集りの中から伸ばされたいくつもの手が、孝宏の腕や肩やらを掴んだからだ。


 群衆から例の子供だとか、本当に出来るのか、などという声がちらほら聞こえてくる。一方の兵士が疑惑の目でこちらを見ていたかと思えば、もう一方では、複雑に揺れる眼差しがまるで縋ってくるようだった。


「タカヒロ!待ってたよ」


 孝宏を見つけたルイが一瞬にして表面を取り繕った。一見冷静に見えるが、孝宏の腕を掴む手が震えている。黙ったまま母を見つめるカウルと、マリーがその隣で複雑そうに微笑んだ。

 ローブの女は結界を燃やして欲しいと言ったが、目の前にあるのは両手を広げ、マネキンのように固まるオウカと、壊れぬままある建物だけ。


 兵士の一人が思い余って孝宏の背中を押した。孝宏が建物の方へ向かって倒れこむ。


 孝宏は反射的に両手を頭の前で構え、地面への衝突に備えた。だが実際は地面に倒れ込む前に、空中で何かに弾かれ、見えない壁に肘を打った。

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