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冬に咲く花 47

 家に着いた孝宏を真っ先に出迎えたのは、鈴木からの説教だった。

 心配しただの、帰りが遅いだの、間がもたないだの、愚痴っぽいのもあったのは、孝宏だけに向けられたのではないはずだ。三人は顔を見合わせ、こらえきれ失笑が漏れる。

 孝宏をずぶ濡れのまま立たせる程、鈴木も鬼畜ではない。孝宏は早々に鈴木の説教から開放され、すでに用意されていた風呂に入った。

 今時見た目だけは古めかしい、かまどで湯を沸かすタイプの風呂だが、実態はかまどに掘られた術式をなぞるだけで湯が沸く。なので薪で火をおこす必要も水を運ぶ必要もない。


 だが今回はカダンの言いつけを破ったルイが、魔力を暴走させ術式を潰してしまった為に、ルイ自らの手で薪をくべ、竈に火を焚き、お湯を沸かし用意した風呂だ。


 慣れぬ作業にくたびれ煤だらけになっているルイを、カウル以外はこの時初めて見たかもしれない。面白がる面々をルイは一瞥し、孝宏を睨み付けた。


「笑いすぎ」


「仕方ないだろ。面倒くさがって畑仕事どころか、朝の支度まで魔法で済ます奴がそんな格好って……」


「仕方ないじゃないか。壊れたんだから。僕は今から術式を直すから、じゃあ」


 ルイはニコリとも笑わない。しかしそれがルイの精いっぱいの虚勢であることは、孝宏から見ても明らかだ。ひょっとすると前のような関係に戻れるのかもと期待もする。


「俺もゆっくり入ろうかな」


 今日の風呂の湯は、いつもよりも少々熱かった。




 夕飯を食べながら、皆で今後のことを、ソコトラへ行くかどうかを話し合った。


 マリーとルイはすんなりと頷き、鈴木だけが反対した。それもカウルが説得して、何とか承諾を得たのだが、鈴木は二つだけ条件を付けた。


《危なくなりそうだと思ったら、迷わず逃げること》

《期間はどんなに長くても二ヶ月。二ヶ月経ったら、一度家に戻ること》


 もちろんカウルはその条件をのんだ。




 その日の夜、孝宏は怪我の手当を済まして、鈴木と共同の部屋に戻った。

 元は物置に使っていた場所で、今でも様々な道具やらが壁際に積まれている。家具も多くは置けない。元からあったタンスと、手作りのベッドが二つ。干し草ではなく、ちゃんとしたやつだ。


 寝巻きに着替えず、ベッドに仰向けに寝転んだ。すると今日に限って今まで気づきもしなかった、シミだらけの天井が目に入る。


「そうか、現実になっちまったから……」


 昨日までなら目を閉じれば、地球の自室を鮮明に思い浮かべることが出来た。今、目を閉じて思い浮かぶものは、脳裏に焼き付いた戦慄の光景だ。

 実際に見たわけでないのに、情景が細部まで瞼の裏に浮かび、聞いたはずのない叫び声が耳から離れない。


「皆どうしてるかな。心配してるだろうな」


(家に帰りたいな)




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