冬に咲く花 46
その後、二つ目の太陽が沈みゆく中、二人は寒さに身を震わせながら家に帰った。カウルはずぶ濡れの上に、衣服がボロボロになった孝宏に上着を貸し、自身は雨具を羽織った。孝宏は冷え切った体にカウルの上着を着て、さらに雨具を羽織る。
今日の出来事を思い返せば、互いに気まずくもあり、無言で歩いた。
その内カウルがポツリと言った。
「帰ったらソコトラに帰る準備をしようかと思ってる」
カウルの横顔が夕日に照らされ、陰った左顔が寂しそうに微笑む。
「今からじゃ、カダンに追いつけないけど……早い方が良いだろうし」
獣になったカダンの足は速く、一日も待たずに辿り着くはずだ。早ければ晩遅くか、明日の朝には連絡が来るかもしれない。しかしそれはあくまでも最短距離を行くならばだ。
かの地方がどれだけ被害を受けたのか、原因となった獣たちはどうなったのか。状況によってはもっと遅い可能性もある。
例えば日本では、被災地に行く場合どうだったろうか。孝宏は思い出そうと首をひねった。
「許可とかいるのかなぁ。必要な物をそろえるので時間がかかるだろうし。ソコトラには何もないだろうから食料とかたくさん持って行った方が良いのかな……あっ……」
孝宏は脳裏に浮かんだニュース映像の、印象そのままを素直に口して後悔した。故郷を思ってカウルが胸を痛めるのも気が付かず、あまりにも配慮にかけていたと後悔する。
小さく謝罪を口にする孝宏に対し、カウルはやはり寂しげに微笑む。
「別に良いよ。たぶん本当に何もないだろうから、必要になりそうな物を、なるだけ持って行こう。車に積めばいい」
「それでも数日分くらいしか詰めないか」
「魔法で荷物を小さくするし、それに車は見たより中を広くするのが普通だ。かなりの量を持って行けると思う。幸いにも金ならそれなりにある」
途中、どれだけ待っても帰ってこない二人を探しに来たマリーと合流し、歩きながら孝宏が見舞われた事件について話した。
町から外れ、もちろん街灯などなく、視界は急速に暗くなってく。
興味深げに頷くマリーの表情も、安堵から笑みを零すカウルの表情も、暗くて孝宏からはよく見えていない。だが、雨の中一人で逃げていたあの時の方が、闇を濃く感じていたと思い返す。
孝宏が闇を身近に感じたのはこれで三度目だが、今はもう怖くないのは、きっと一人じゃないからだ。
「ルイは?」
尋ねた孝宏は俯きかげんで前を歩くマリーの踵を見ている。
「家で留守番してる。行こうって誘ったんだけど、スズキを一人にできないって残ったの」
カウルが大げさに空を仰いだ。既に空には一際明るい星が輝いている。
「じゃあ、急いで帰らんとな」
きっと今は心細くとも、虚勢を張りながら兄弟の帰りを待っているだろう。三人は歩く速度を早め家路を急いだ。




