表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/281

冬に咲く花 45

 孝宏は水球に手を伸ばした。表面はツルッとしたガラスによく似ており、中は水が漂い渦巻き、海流を思わせる流れがあった。実に不思議な玉だ。カウルも初めて見る物で、それが何か見当もつかなかった。


 その後、小人たちは用事は済んだと、一言二言言葉を交わすと、あっさりと変えると言い出した。

 ヨー以外の四人の小人が呪文を唱えると、白い強い光を放ち、一匹の大きな龍に変身した。


「なるほど、これは大きい……ははっ」


 自慢するだけはある。孝宏が笑った。

 黒く大きな龍が、蛇のような長い体をくねらせ天へと上り、雨雲の中に消えていった。やがて、雨雲は北へ流れ、雲の切れ間に日差しが差し込んだ。一つ目の太陽が沈みかけており、東の空は夕焼けに染まっていた。


「もう、夕方なのか。全然気がつかなかった」


 この世界は地球と違って、二つある太陽が西から上り東に沈む。一日が終わる時、夕日も二回沈む。


「タカヒロ、俺すぐにでも村に戻ろうと思ってる。化物がウロウロしている場所に、カダンを一人で行かせちゃ、ダメだった」


 夕日を背に立つカウルの表情は逆光でよく見えない。赤い髪が夕焼けに溶け込んだようだ。鼻声だが泣いてはいない。しかし孝宏には彼がまだ震えて見えた。その震えがなんの為かはわからないが、彼の思い決意が声の端々から見て取れる。


「もしも、この騒動に凶鳥の鳥が関係あるなら、タカヒロにも俺たちの復讐に付き合ってほしい。本当、悪いとは思うけどさ、俺たちと一緒に旅に出てくれ」


「俺は役に立たない自信がある。それにこれが凶鳥の兆しなら、むしろいない方が良いんじゃないか?きっと悪い事が起きるぞ」


「逆だ。それが兆しであるなら、カダンが言っていた通り、これから色々起き始めるんだろう?あんな馬鹿な事をしでかした、張本人を見つけられるかもしれない。孝宏は俺たちと一緒にいてくれるだけでいい。俺が………俺がきっと守るから」


 カウルは得体のしれない化物を、村に仕掛けた奴がいると言っているのだ。兆しがそれを示していたのなら、もしくは不幸を呼び込むのというのなら、むしろ好都合だと、そう思っているのだ。


「僅かにでも、敵を取れる可能性があるなら、不幸でも凶鳥でも、何だって乗り切ってみせる。だから力を貸してくれ」


 孝宏に断る理由はいくらでもあるが、残念な事に引き受ける理由もいくつか存在した。加えてこの時の彼は興奮状態にあり、普段より承諾しやすくなっていたように思える。


(二人を止めろって、カダンは言ってたんだけどな)


 つい先刻の出来事なのにこんなにもあっさりと破って良いものか。孝宏は心の中で苦笑する。


「あーあぁ、俺も一緒に怒られてやるよ」


 今はこう言っても、いくらか時間が経って、もしくは現実を見ればきっと冷静に戻るだろう。けれども今だけ。今だけなら、少しぐらいカウルに付き合っても良い。孝宏の中にはそんな考えもあった。


(ここは異世界だからな)


「ああ、ありがとう」


 あっさり承諾する孝宏を見て、カウルも先刻の出来事を思い出していた。孝宏の人の良さは、カウルに罪悪感を抱かせる。今思い返せば、何の関係もない孝宏を攻め立てたのだから、あれはただの八つ当たりだ。カウルは謝って済むだろうかと思いながら、帰路に着いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ