表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/281

冬に咲く花 42

「鳥は死なずの鳥。お前が死んでも大して傷つきはしない。世界平和の為に、尊い犠牲はつきものだ。そうだろう?」

 

「あ……あぁ………」


 ユーは本気だ。何か言い返さなければと、逃げなければと思うのに、孝宏の舌はいつものように動かなかったし、足は震えて使い物にならなかった。それにユーが一歩、また一歩と近づく毎に、腹の中であれが暴れた。ピチャン、ピチャンと、水たまりを歩く足音が、ついに腹に恐怖を満たした。


 突然閃光が走った。

 孝宏の目の前を眩い光が埋め尽くし、視界のすべてを奪う。孝宏は咄嗟に、目を庇って腕で光を遮ったつもりだったが、視界にちらつくオレンジの炎に、ようやく自分自身が光源だと知る。


「なななんだ、これぇ!?」


 孝宏が戸惑うのも無理からぬことだ。手から火が、まるで湧水のごとく溢れ出している。掌からこぼれた火が、着ている衣服を消し炭にし、足元の芝を燃やしていった。


「わっ!!わっ!消えろ!!消えろ!!」


 炎を消したくて、孝宏は考えなしに腕を振り回し、水たまりの上を転げ回った。しかし、火は消えるどころか、ますます広がっていき、さらには腕を振り回した為に、離れた場所にあった、草木にも火が燃え移ってしまった。


 カダンを弾き飛ばしたあの時は、服も周りの草花も、もちろん孝宏も自身にも、何の影響はなかった。それが今度は芝を燃やし、花を焼き、自身が身に付けている服もゆっくりだが、確実に燃えていく。

 火が花壇を覆い、その中で草花の影がボロボロ崩れていく。葉を落とし冬の装いだった木も、後は根元を残すだけとなった。足下の芝生は、すでに黒く焦げ、火は輪を作り徐々に広がっている。



 その光景を、自身も炎に包まれながら眺めていた。雨足が強くなり、雨粒の軌跡が、見えている景色を縦に細断する。


 痛みはない。ただ、少しの熱さがあるだけだ。暖かくはない。まるで、サウナにでも入っているようだった。死ぬ気はしない。ただ、罪の意識があるだけ。


「ユー、その人を殺すの待って!」


 細断された景色の向こう、公園の入口から走ってきたのは、赤毛の男、カウルだった。彼の肩にはあの小人たちがしがみついている。

 カウルは火だるまになっている孝宏を見つけ、驚き立ち止まった。だがどうすることも出来ずに、怯えて孝宏の名前を呼ぶ。


 カウルの肩にぶら下がっていた小人が、肩の上に立った。緑、藍、黄、赤の小人たちだ。赤い小人が言った。


「ユー、この人を殺しては駄目。この人は異世界から来た人間よ」


 ユーが数秒間、孝宏を注視した。赤い小人に目配せをし、再び孝宏に視線を戻す。


「父様から聞いていたのと違う。人違いではないの?」


「初めは私もそう思った。けど微かに、この世界のモノではない匂いがする。初めての匂い」


「その男は何?どうみでもこの世界の人に見える」


 ユーがカウルを指差した。 


「この人はその男を探していた。カンギリがその人を連れてきたと、私たちに教えてくれたの」


「カンギリが!?………でももう、遅い。見て。あの男は力の暴走で死ぬ。鳥の炎は私の水でも消えない。あのままでは、自分自身も焼き殺してしまう」


 ユーの言葉は説得力があった。目の前で火だるまになり、じっと動かない人が、どうしても、無事とは思えなかったのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ