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冬に咲く花 40

(嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、痛い、嫌だ、嫌だ、痛い)


 孝宏は目を閉じたまま闇雲に腕を振り回した。風を切る音と共に、腕に、足に、腹に、頬に、頭に、浅い、しかし鋭い痛みが刻まれていく。


「観念して、鳥を渡せ!」


「渡さぬのならお前を殺して、じっくり探してもいいんだぞ」


「さあ!鳥を渡しなさい!」


「もう!やめてくれぇぇぇ!!」


 孝宏からすると身勝手といえる、小人たちの言い分を聞いていると、腹のあたりからこみ上げるモノがあった。ずっと中で渦巻いていた熱が、首の付け根あたりで弾けた。肩から掌へ巡る熱には覚えがある。孝宏は奥歯を食いしばった。


 薄っすらと開いた目の、視界に入った青いモノを、夢中で払った時だった。孝宏の掌から放たれた炎が、指先の軌道に沿って壁を作った。

 孝宏に飛び掛かった小人達が炎の壁に阻まれ、叫び声を上げて地面に落ちる。次に孝宏が手を右から左に振れば、放射状に炎の槍が放たれ、石畳の地面に突き刺さった。炎の槍はすぐに形を崩し、ただの炎になるが、周囲に燃えるのもはない。すぐに煤を残して消えてしまった。


「コイツ、言葉も道具もなしに魔法を使ったぞ」


 ターが言った。動揺しているのか警戒しているのか、もう飛びかかってくる様子はない。黄の小人が、地面に落ちたユーに駆け寄り抱き起こした。

 ユーは孝宏を睨みつけるが、負った傷は大きいようだ。一人で立てず抱き黄の小人に寄り掛かっている。ユーが痛みを堪える、震える声で言った。


「鳥の匂いがする。今私にもはっきりとわかった。鳥を体内に取り込む馬鹿な人が、いるなんて思わなかった。それでは、取り出すのは確かに難しい。嘘つき呼ばわりしてごめんなさい。あなたが正しかった」


 ユーは片腕を上げ、天を指差した。


「私は操り人。制限を解除する。魔力の開放、放出。水よ。私の元に戻りなさい」

 

 ユーは最後に、三回指を鳴らした。


 ポツッ……ポツッ……ポツッポツッ……


 雨粒の音が、次第に間隔を狭めて音を増やし、石畳を濡らしていく。大粒の雨が地上に打音を響かせた、次の瞬間ユーの輪郭がブレた。雨がユーの姿を霞ませ、始めの変化を孝宏から隠したのだ。


「なっ……………………は!?」


 突然、降っている雨とは違った角度から、孝宏の顔に水しぶきが飛んできた。雨粒が地面で跳ね返るにしては多すぎるし、もしそうだとしても顔にかかるほどには跳ねないだろう。

 目の前で起きている変化に考えが追いつかず、孝宏は口をあんぐりと開けたまま目を丸くした。視線は地面から十センチの所を見ており、そこは今の今まで小人が二人立っていた場所だった。


 しかし煙った様な雨影が弱まり、すると小人が消え、代わりに青と白のウロコに覆われた人の足が現れた。


「あんたは、何なんだ?」


 この小人だった者を例えるなら、蛇人間だろうか。ウロコを全身に貼り付けた人間サイズの女が、孝宏の目の前に立っていた。


 頭は顔以外を黄土色の長い毛に覆われ、首から下の前面を乳白色のウロコが、後ろ半身を青いウロコが覆っている。緩やかな曲線と胸の控えめな膨らみ、腰のあたりからは太く立派な尻尾が生える。

 顔は唯一ウロコに覆われていない箇所で、紛れもなく人の肌を持った女のものだ。ただ大きな目は黒目ばかりで、孝宏と目が合うと、中心の金色の瞳孔がキュッと縦に細まる。

 腕は長く、手も体とは不釣合いなほど大きい。指は異様に太く節ばっている。両手の先端には鋭い爪が五本。

 ユーがニッと笑った。


「私は、竜人のユー。あなたの、中の鳥を、取り出して、あげる」




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