冬に咲く花 37
赤いレンガの、番号が掲げられている倉庫を抜け、海から離れると、町の景色は一変する。大小様々な円柱状の建物が並び、町を一枚のキャンパスにして、多彩な色が溢れていた。建物の色には統一性はない。だが、妙な一体感があった。
大きい通りを避け、路地に入る。表と違って人はまばらだ。孝宏はより狭い路地へ、より人のいない場所へ進んだ。意識的に人の声の聞こえない場所へ、一人になれる場所を探して歩いた。
迷路のような路地の隙間、幼い子供がやっと通れる程の隙間を横目に、通り過ぎようとした時だった。
「おい、ミー。早く次をめくって」
「急かさないでよ。結構体力、つか……うんだよっと!」
「もっとゆっくり読めんの?ヨーは早いよ」
隙間から小さな声が聞こえてきた。排水口と放置された木屑やゴミの影に隠れて、小人が三人。ジュース缶程もない彼らの体には、大きすぎる本を覗き込んでいた。
(何だこいつら、ちっせぇ。被り物してるのか?)
フードは黄土色の長い毛で覆われ、マントは藍、赤、黄と色がそれぞれ違っている。藍色はともかく、周囲にとけ込めておらず、声を出して騒いているところを見ると、隠れているつもりはないのだろう。
「あなたたち、何をしているの?」
下から声がして、足下を見ると、同じような被り物をした小さな人が二人いた。こちらは青と緑のマントだ。いつの間にそこにいたのだろう。チョロチョロ動き回る、小動物を連想させた。
「そこの大きな人。私たちを踏み潰さないでね」
青い方が言った。緑の小人が右手で日差しを遮り、こちらを見上げている。
「何だ、私たちが珍しいのか?」
小人の声は小人らしく、やはり小さい。しゃがんでみても、やっと内容を把握できる程度にしか聞こえない。逆に言えば、立ってもしゃがんでも、何とか内容を聞き取れる程度には聞こえているという事だ。魔術で声を届けているとしか思えなず、孝宏は感心して感嘆の眼差しを向けた。
フードの中は人間と、つまりは自分と対して変わらない、肌色の皮膚と体型。耳は頭の左右についているし、二つの目に、手足は2本ずつ。耳は尖っていないが、ほぼ想像していた通りの小人がそこにいた。
「へぇ、小っちゃいな。俺、小人を見たのは初めてだ」
「小人とは違う。確かにあなたに比べれば、私はとても小さいが、私たちはあなたよりもずっと大きい」
不躾に声を掛けた孝宏に対し、青い小人はなぞかけで答えた。青い小人は言葉に不満を紛れ込ませたのだが、孝宏は気が付かなかったのか、呑気にしている。
「もしかして、合体とかして、大きく変身したするのか。すげぇな」
青い小人があえてあいまいにしたのを、孝宏が事もなさげに見抜いた。難しい謎かけでもないのだから、孝宏でなくとも解けただろうが、日頃他種族を小ばかにしていた青い小人にとって、少しばかり面白くなかった。そこでとたんに青い小人は、孝宏に興味をなくした。
「大きな人、私たちは人を探している。邪魔をしてくれるな」
孝宏も別に小人に構いたかったわけでなく、物珍しさから興味をひかれただけで、初めは一人になれる場所を探していたのだ。彼にとっても問題はない。
本を夢中に読んでいるかと思えば、ハシャギ、口論し、また黙って本を読む三人は、静かに落ち着くには少々五月蠅い。
「そうか。それは悪かったな。じゃあな」




