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冬に咲く花 31

「そうだ……兆しだ」


 孝宏が今一番思い出してほしくない事実を、ルイが思い出してしまった。双子の片割れがルイに尋ねた。


「どうした?ルイ」


「もしも兆しが現れていたと知ってたら、村は襲われずに済んだかもしれない」


 悔しさが言葉の端々に滲む。冷静になれば、ルイの言い分は無茶だと分かっただろう。鈴木は迷いながらも訂正しようとしたが、鈴木が意見する前にルイが被せて続けた。


「ですから、兆しが……」


「タカヒロだ!アイツ、兆しが出たの知ってて黙ってた!」



(カダンが、きちんと説明してくれないから、わからなかったんだ)



「なんですって?」


「どういうことだ!?」


「タカヒロのお腹には、鳥の痣がある。数日前に気が付いたって言っていた。何か起こるって知ってて、黙っていたんだ」


 ルイの記憶はすでに彼の都合の良いように変わっていた。孝宏がルイに話した内容はそうではなかったが、今訂正できる人は、口を閉ざしたまま心の中で悪態を吐くのに必死だ。


「知ってれば、父さんと母さんに知らせることが出来た?そうすれば用心したはずだ……何で黙ってた……」


 カウルは困惑気味だ。


(わからなかっただけなんだ。初めに信じなかった奴が悪いんだ)


 孝宏は今はドアに隠れているが、いつ見つかるとも知れない。静かにドアノブから手を放し、玄関の脇にそっと腰を下ろした。


 それから孝宏は意味もなく指で土を掘り返して、小さな穴をいくつも作った。膝と膝の間に頭を俯けて挟み、むき出しの地面を睨んでいたが、時折り顔を上げ、街の方を見てはため息を吐いた。


 それほど時間は経っていない。しばらくそうしていると、カダンがトボトボ歩いてくるのが見えてきた。足取りは重く表情は暗い。


「あ………」


 カダンと目があったが、孝宏は何も言えず拳を握った。


「タカヒロも中に入って」


 いつの間にか閉まっていたドアを開けると、四人が同時に顔を上げた。


 昼食はテーブルに並べたまま、すっかり冷え切っていた。


 不安に揺れる瞳が四つ。今にも張り裂けそう、気持ちを抱えた瞳が四つ、カダンの言葉を待っている。


 カダンは一旦は双子に口を開きかけたがすぐに目を逸らし、顔を俯けて胸の前で拳を固く握った。


「カウル、ルイ、落ち着いて聞いて。コレー地方が襲われたのは本当らしい。その……被害とか…行方不明者とか結構…その……あと軍が動いているのも本当みたい」


 カダンが言葉を濁したのが逆に最悪のシナリオを想像させる。誰もが目を見張り、絶望し、椅子に身を沈めた。

 マリーは口元を覆って神に祈りを捧げ、鈴木は今にも泣きそうな顔で双子を見つめた。


「そんな……まさか……そんな…………」


 壊れたオルゴールのように、カウルが繰り返し、ルイはカダンを見つめたまま、まばたきすらせずに固まっている。



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