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引き籠り期間の出来事5-3

 彼らがカノ国へ行き、異世界へ戻る手がかりを探しに行くと言わなければ、ただの有益な情報で終わっただろう。



「タツヒトとは、本当に知られざる存在らしいな。生物学の文献ですらも記載がなかったよ」



 竜人の記述を見つけたのは、本当にただの偶然だった。


 タツマがオウカから預かった、成人の贈り物の調整をしようとした時だ。

 その成人の贈り物に使用されている魔術はかなり古いものあり、不用意にさわれないと、確認する為魔術師協会の所蔵している文献を開いた。


 その文献は過去の魔術師たちが発明した魔術の術式をまとめたものだった。

 タツマが開いたのは読みやすく書き直された物ではなく、彼らの手書きのメモなどの原本そのままの書物だ。

 これには清書された際、省略されてしまった情報なども乗っており、意外な気付きに繋がる事も多く、タツマはこれを愛用していた。


 殴り書きの様な乱暴な字で、術式が長々と綴られた紙の端に、小さい走り書きを見つけた時、タツマは目を見張った。


 その走り書きには”リリンの民により着想を得た”と記されており、下に書き添えられたリリンの民の特徴は君らから聞いたものと非常によく似ていた。



「……となるとタツヒトとは、導き手として名高いカンギリ・リリンに仕える者達かもしれない。リリンの存在は良く知られているが、彼が何者なのか、実の所は分かっていない」


 リリンは他のカンギリと比べ、明らかに異質だ。竜人という種に至っては、存在を確認されてすらいないのだ。

 世間から隠れなければならない意図というのを感じても致し方ないだろう。



「リリンの民……あの毒と同じ技術……」



 呆然と呟いたのは誰だったか。ただ、思いは皆同じであったはずだ。



「同じ未知の技術を持つ者たちだ。敵である可能性もある。どうする?」



 尋ねたタツマも、正にそこを危惧したからこそ、一から十まで長々と説明したのだ。


 リリンや竜人が、孝宏たちを付け狙った奴等と通じている可能性があると言わざる得ない状況で、リリンも元へ異世界への手がかりを尋ねに行くという事は、敵の懐に飛び込むに等しい行為かもしれない。



「危険過ぎる」



 カダンが言った。最もな意見だ。だが早計であるともいえた。


 竜人やリリンが敵だとして、それならどうして孝宏を襲った後、謝罪し玉を置いて行ったのか疑問が残る。

 それより、何よりだ。



「あいつらが人を使って孝宏を襲う理由がない。それにあいつらの場合、襲うより言葉巧みに誘導する方が確実だろう?」



「確かにそうだけど何か事情が変わったとか?ほら、自分たちは動けなくなったから他の人に任せたとか……」



 ルイは実際の彼らを見ていないからそう言えるのだろう。実際に彼らを見た、彼等に刃を向けられた身としては、ルイの言い分にはどうしても納得がいかない。


 孝宏は首を捻り、違うと思うと言った。


「生物学の文献にも載っていないような奴らが、殺し屋を雇ったりするか?世間に知られたくないのなら、全部自分たちで行う方が早いだろう?その実力もある」



 人を雇うなら、彼らが信用する代価が必要となり、その代価を稼ぐためには正体を晒すリスクを負わなければならない。


 ここまで徹底的に正体を隠している者達が、そんなリスクを冒すとはとても思えないのだ。


 孝宏の言い分に、カウルも頷いた。代価云々は置いといて、襲うなら直接来るだろうとおもったからだ。


 それに言葉を交わしたからこそ、分かる事がある。



「あいつら、凶鳥の兆しとあの玉は一緒にあったって言ってたんだよ。多分保管されていたって意味だと思うんだけどさ。ちゃんと理解して良かったっぽいし。なら……ひょっとしてなんだけどさ、この流れる液体に魔術を付与する技術?っていうのは大昔に既にあった技術……なんじゃないのか?」


 孝宏の言葉に、マリーが自国の言葉で呟いた。


『ロストテクノロジー……?』



 失われた技術。時の流れで何らかの原因で失われた技術というのは、歴史を紡いでいく以上必ず起こりえる。

 この世界でも同様だ。


 現存する古代魔法も一部が残っているだけで、使用できるのもエルフや人魚など、極僅かな人種だけとなっている。そのまま時代が進めば、使える者すらいなくなるだろう。


 タツマが顎に手を当て、考え始めた。



「つまり、昔は体液に魔術を付与する技術があったと?それをタツヒトたちが保管していて……いえ、ありえない話ではないか。現に凶鳥の兆しは術式が欠けているらしいじゃないか。術者から切り離されたが故の欠如かと思っていたが…………そうとは限らないのか。玉と兆しが一緒にあるべきものなら同じくらい古いはず…………迂闊だった。やはりさっさとアベルに聞き出しておくべきだったな。……だとしたら寧ろタツヒトに話を聞くべきだろうが……」



 孝宏たちに語るのではなく、殆ど独り言に近い。今彼女の頭の中ではどうするべきかが、目まぐるしくめぐっている。いくつもの行動パターンをシミュレーションし、最適解を求めていく。



 その後、彼らは夜遅くまで話し合い、これからの計画を綿密に練る事になった。






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