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冬に咲く花 26


「良いのは他にもあったんだ。初めはそう言うの見てたんだが、どこにあったのか、マリーが自分で見つけてきてな……」


「あら、私が持ってるお金では、これしか買えなかったし丁度いいじゃない」


 このあたりから二人の間の空気が変わった。孝宏はしまったと内心舌打ちをした。


「それくらい、俺が出してやるって言ったろ?」


「それじゃダメ。でも、気持ちは嬉しい。ありがとう」


「まったく……マリーは謙虚だな」


(こいつら、俺の事、忘れてるんじゃないか?)


 カウルとマリー、二人の間に一足早くやって来た春は実に鬱陶しく、これにルイも加われば梅雨まで一足飛びだった。


(この感じじゃ、ルイは部が悪そうだよな)


 音をたてて家のドアが勢いよく開いた。今度は何事かと孝宏が身をすくめて振り替えると、機嫌の悪そうなルイが立っていた。


「なんだ。ルイか。驚かせるなよ」


「なんだ、じゃないよ」


 窓からマリーとカウルの様子を見て慌てて出てきたのかと思ったが、ルイはそれには触れず孝宏を見据える。怖いと言うよりは疲れた顔。やや猫背近づいて、肩に手をのせた。


「僕、すごく怒られた。今日のカダンすっごい機嫌悪いよ。タカヒロさ……何かあった?」



「あ……確かにそれは俺のせいだ。ごめん」


 どうせ、後で皆に見せるのだ。責められるなら早い方が良い。事の次第を説明するべく孝宏がシャツをめくろうとして、ルイが孝宏の手を止めた。


「そんなことより、特訓だよ。僕カダンに約束させられたんだ。今日中に魔法使えるようにするって」


「もうすぐ昼になるんだけど……」


 すでに正午に差し掛かっている。今日中となるともう時間に余裕はない。腹を空かせた孝宏はできれば昼を食べたくてルイの顔色を窺うが、特訓を始めるつもりなのは容易に見て取れる。孝宏はがっくり肩を落とした。



 マリーとカウルは昼食をとるため、先に家に入り、残された孝宏とルイは魔術の特訓だ。ルイが屋敷から数メートル離れて、孝宏に向き直る。


「僕が魔法を使うから、呪文とか気にせずに、魔力を感じるんだ。いいね?」


 ルイは人差し指で空に文字を書いた。指先から何かがこぼれ、反射しキラキラ光った。


 口を尖らせて、口笛を一吹きする。するとキラめいていたそれが地面に吸い込まれ、小さなシミを作った。数秒後、その一点から初めに泥混じりの水が湧きだし、次第に透明な水に変わり、あっという間に大きな水溜まりを作ってしまった。


 孝宏がこれまでも何度も見てきた光景だが、光に反射しキラめくものに気がついたのは初めてだ。


「想像力を働かせて。誰にでも魔力はあるんだ」


 大丈夫出来るよ、と言われ、孝弘は頷き棒を構えた。


(来い!……来い!……来い!……来い!……来い!……来い!……)


 強く強く念じると、腹の奥底から熱が湧き出す。だが痛いくらいの熱はない。

 沸き上がる熱が心臓に達し、弾けて、一方は喉を駆け上がり、もう一方は両腕に広がった。一瞬にして体が火照る。


「来い!」


 三回地面を叩いた。一回一回叩くごとに、棒の先から魔力がこぼれる。ルイのと同じく、光に反射しキラめいた。


「やった!」


 三回目に地面を叩いた時、同時に棒先がチカっと光った。孝宏の水が沸きだす前に成功を確信しているかのような発言に、ルイはまだ分からないよ、と釘を差す。


 しかし孝宏の期待通り、光は一瞬にして大きくなった。今度こそ水が沸きだす。そう思ったのに光はそのまま地面から噴き出す一メートル丈の火柱となった。



「え?え?なんで?あれ?」


「えぇ……」


 予想外なのは孝宏だけでなくルイも同様で、困惑気味に火柱を眺めている。


「タカヒロは僕が渡した杖使ってないの?」



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