夢に咲く花後編57
「とりあえずご苦労だったな、二人とも」
ようやく任務から解放され、寝台から離れられるというのにも関わらず、孝宏もマリーも寝台の上で横たわったままだった。正し、マリーは横向きに体を折り曲げて、孝宏は自身の腕を枕にしてうつ伏せている。
タツマが二人に声を掛けた時は、普通に目を閉じて半分意識を飛ばしかけている、そんな時だった。
「はぁ……い」
返事が返ってきたのはマリーからだけで、その返事にも覇気がない。
「……いや、今は止そう。二人ともゆっくり休んでくれ」
タツマは返事を待たず、部屋のドアを閉じた。
作戦はおおむね成功だったといえる。
建物の北側の窓が開けられていた事から、そこから侵入されたものと思われた。
アベルが慎重に慎重を重ね隠したこの場所が敵方に割れるとしたら、それを知りえる何者かが彼らに密告した以外考えられず、この事から、当時建物内にいた三人の職員が直ちに拘束された。
ワット、ロウク、ミツハクの三人だ。
ミツハクは、頭の怪我が治癒魔術の及ぶギリギリの程度だった事もあり、拘束されたのは他の二人と比べると少し後になってからだった。
この三人が拘束されたのと同じ頃、魔術研究所でも、とある人物らが拘束されていた。ソウダイ、モモ、キヤン、セイヤの四人だ。
だが彼らが開放されるのも早かった。ロウク、ミツハク、モモ、キヤン、セイヤの五人は五日後には解放され、翌日には現場に復帰している。
ただソウダイとワットについては、その後も拘束されたまま尋問が続いていた。
何故この二人だけがというと、ソウダイは命令違反と虚偽の報告疑い、ワットは命令外での疑わしき行動が確認されている。
実は秘密裏に記録されていた監視映像に、侵入があった直前、窓に不自然に近づいたワットの姿が映されていたのだ。その窓というのが、侵入があった窓だったというわけだ。
決定的な証拠はないものの、現状で最も疑わしいのが彼らだった。
研究所職員の拘束は、同じ研究所職員らに大きな衝撃をあたえた。
マリーの噂を信じ外部の犯行と思い込んでいた者も多く、出来るだけ早く事態を収束させたいが為の上層部による横暴だとし、また、タツマが責任を取らされる形になったのも職員らの反発を招いた。
ただ拘束されたのが、全員移送に関わった人物だっただけに憶測を呼んだのもまた事実だ。
そんな研究所を、現在はアベルが所長代理として抑えている。いざとなったら、アベルに命令し研究所をもろとも吹き飛ばしてしまおうという、上の冷酷な判断があった事を所員らは知らない。
そんな非情な判断を強いられた上層部では、これからの対策会議が行われている。
明確に孝宏とマリーが狙われたという事実は、二人の持っていた能力がアノ国に敵対する者達への切り札と成りえた、という証明にもなっているといえた。
それらが失われた今、どうやって穴を埋めるのかが会議の焦点になっている。
もちろん失われていない真実を知っている者達もいるが、作戦遂行の為に口を噤んでいるのが現状だ。切り札以外の方法を模索するのは決して無駄ではないと考えるからこそ、作戦を承諾しと側面もある。
こうして表で事態が進行している裏では、孝宏とマリーの新しい身分証の準備が進められていた。
通常の作業に紛れ込ませ、ごく自然に二人の身分が仕上がる様に仕組んだ人物は、予めこうなる事を予測していたとしか思えないほど、用意周到だった。
後は時期を待つばかりだ。二人が別人になる時期を。




