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夢に咲く花 後編 52

 薄暗く、寝台が二つ置いてあるだけの質素な部屋で、孝宏は隣で寝ているマリーに目を向けた。もちろん、彼女はジッとして動かない。


 孝宏は横のワゴンの水差しから、コップに水を入れ一気に呷った。



「君たちにあまり休んでいる時間をやれなくてすまないね……」



 タツマが力無げに言った。



「大丈夫です。心配しなくてもやりますよ」



 相手の出方によっては長期戦も覚悟してほしい。そうタツマに言われたのは作戦決行前日の夜。


 クローンとのリンクも難なくこなせる様になり、作戦の最終確認をしている時の事だった。


 だまし討ちの様になったのは仕方ないとしても、二人で二か所、どうやって監視し続けろというのか。

 疲れ切っていた孝宏とマリーは無茶ぶりにもほどがあると、タツマに無遠慮に不満をぶつけた。だが、どうにならない事もあると、結局は押し切られてしまった。

 

 故に、厳密にいえば、孝宏は起き上がっている現在も、二体のクローン、もとい、人形と繋がったままで、人形を通して見える光景は両方とも見えている。


 人形に何かあれば、いつでも気付ける仕様となっているのだが、そこまで操り処理できるようになるまで、孝宏の努力はもちろん、何よりタツマの苦労があった。


 ポイントは凶鳥の兆しを、いかに抑えるかというところだった。


 完全に封印すると、孝宏自身にも影響が出たことから、孝宏の行動に支障が出ない程度に威力を殺しつつ、理想はクローン体でも力を行使することだ。


 その為に新しく作られたのが、肘上から手の甲までを覆うアームカバーだ。


 金属の籠手と違い取り外ししやすく、耐久性はないものの効果は実証済みだ。凶鳥の兆しを扱うのにも支障がなく、体も重くならない。


 だが、残念ながら、人形での凶鳥の兆しの力の行使は叶わなかった。


 それでも、それ以外は自由に動かせるようになったのだから、たった一日半での成果としては十分すぎる程だ。



「交代で休むしかないが、よろしく頼む」



 寝ているだけで何の変化もないまま、今日も一日が過ぎようとしている。


 初日に比べると、緊張の糸も緩み始めていた。長引けば長引くほど、ミスも増えよう。

 孝宏は大きく息を吸い込み、勢いよく吐き出した。



「任せてください。エミンさんの仇は取りますよ。それに俺も火事を起こした犯人を許せないですから」



 孝宏は寝台の上に仰向けに倒れ、再び目を閉じた。








 二つの病院が重なって見える。孝宏は目だけを動かし、部屋を見渡した。


 視界が緑がかっているのは、例の光が人形を包んでいるからだ。


 孝宏が起きていた少しの間に、誰かが来ていたらしい。掛け布団から胸元が出ているし、シーツに皺が寄っている。


(こっちは……裏の方か。雑だな。多分、またワットだな)



 裏口から出て行った三人は今も、アベルにこき使われ、研究所に戻れない日々を送っている。


 孝宏の達の人形を裏口から連れ出した後、アベルは彼らを一度は王都内の病院に連れ込んだ。それから彼らは病院からも出られず、ひたすら孝宏とマリーの、正確には人形の世話をしている。


 三日もたてば、彼らの癖も覚えるというものだ。


 ワットはアベルに対して従順なのに、内心では面倒だと思っているのが態度に出てしまっている。


 その逆を行くのがミツハクで、彼女は怖ろしい程に完璧だ。


 人形の眠る部屋で、ロウクやワット相手にいかにタツマが素晴らしいかを語り、自身もそれに習うのだとうっとりと語っていたのを、強烈に覚えている。


 ワットは共感するところがあるのか、一緒になり盛り上がる事もあったが、ロウクは慣れた様子で何でもない顔でいつも聞き流していた。ただ、たまに困った様に笑みを浮かべていたのを、マリーが目撃している。


 何故マリーだけが目撃者であるかというと、ロウクは孝宏の世話をしようとしないからだ。


 病室へは二人で来ることが殆どなのだが、ロウクはマリーばかりを構い、孝宏の事は他の二人に丸投げしている節がある。

 だからといって、何か思うところがあるわけではない。

 他の二人と変わらず世話をするのだから、単に男が苦手なのかもしれないと、孝宏は思っていた。


 それでいくと、孝宏を担当することが多いワットは男好きという事になるが、それはタツマに即座に否定された。息子がいる彼女は、単に見慣れているのだろうと、タツマは言った。



(また、俺の息子を見られたのか。これは俺の本体じゃないって分かってても、恥ずかしいはもん恥ずかしいし、せめて俺が見られて興奮する性質だったら、この状況も少しは楽しめたのかもだけど………………そんな俺はちょっと、というかかなり嫌だな)



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