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夢に咲く花 後編 49


「ただね。私が一番言いたいのは、君たちは火事を起こした犯人を許せるのかというところだよ」



 タツマの雰囲気ががらりと変わった。

 タツマが話の論点をすり替えたのは、孝宏もマリーも流石に気付いたが、タツマの全身から放たれる殺気を肌で感じ、何も言えなくなってしまった。

 触れただけで八つ裂きにでもされそうな雰囲気だ。



「私にはとても無理だね。エミンに手を出した事を、死ぬほど後悔させてやらないと……気が済まないんだよ」



 マリーが息を呑んだ。孝宏もグッと奥歯に力を入れる。

 二人の脳裏にあの日の出来事が鮮明に蘇る。特に、目の前で見捨てるしかなかったマリーの心の傷は深い。



「それで俺たちを脅すんですね。エミンさんが俺たちを助けに戻らなければ、ああは成らなかったというのは確かですけど、でもあの時の俺たちに何ができたというんです?」



 タツマに歯向かうのは、契約を結ぶ孝宏でも怖ろしかった。しかし、怖ろしいからと、怒りが理解できると、ただ流されるのはもう止めたのだ。


 ただほぼ同時に、マリーは泣きそうに顔を歪め言った。



「できる事はお手伝いします……これで罪滅ぼしになるとは思ってないですけど……」



 するとタツマが、吐息交じりに「ああ」と零し、歪な笑顔を浮かべた。



「私とした事が、興奮してて肝心な事を伝え忘れていたよ。君たちがであったエミンは、エミンじゃない。偽物だ。多分、火事を引き起こした犯人だろうな」



「え?」



「よく考えてみろ。君は火を通して、建物の様子を見ていたと言ってたね?」



 孝宏が頷いた。



「なら、一階までの階段はまっすぐ縦に続いているのは、知っているだろう?」



「通れなくなっているんだと……思ってました」



「違う、通れたさ。それにだ……」



 孝宏は誰かが外に出たのを確認してから道を崩した。しかし二人はまだ外へ出ておらず、結果、エミンが火に呑まれた。そして孝宏と一緒にマリーが元の場所に戻ってきた時には、エミンは一階下に逃げてカダンに保護されていた。



 以上があの日あったことだ。間違いはないかと問われ、孝宏とマリーは頷いた。



「その話は色々とおかしいんだよ。火に呑まれる瞬間も動けない程消耗していた人物が、一階下まで避難できたはどう考えても無理がある。それに、タカヒロが確認した建物から出て行ったのは誰だ?」



「それはカダンが入ってきたのを、俺が勘違いして……」



「カダンは道が崩れ始めた瞬間に飛び込んだんだ。タカヒロが何かを感じ取った後の事だよ」



「それは……俺も意識が朦朧としてたから……間違えて」



 間違えたのだと震え言った孝宏に対し、タツマは確かにあり得る事だが、と前置きした。その時のタツマの表情には怒りが滾っていた。



「それに、何よりだ。一番大きな理由は……エミンは私の命令で研究所の外に出ていたのだから、ここにいるはずがないんだよ」



 孝宏は全身の血の気が引き、寒気を感じ体を震わした。マリーも同じようなものだ。あまさかと零す。



「君たちが会ったエミンが犯人だったとして、君たちをすぐに殺さなかったのは、捕らえるつもりだったのかもしれない。マリーがエミンと別れた通路の突き当りの窓はね、外は林に続いていて、逃げ隠れするにはもってこいの場所なんだ。タカヒロが感じ取った、外に出た何者かが気のせいでなく、実際に誰かが外に出ていたとしたら、それは偽物エミンの仲間で、窓の外で待ち構えていた可能性もある。挟み撃ちにして後ろから不意を突けば、相手が二人でも訳なく外に落とせるだろうさ。一人ならなおさらだ」



 自分たちがとてつもなく恐ろしい事の渦中にいるのは、嫌でも認識できた。


 ただこれまでと違うのは、巻き込まれて戦うのではなく、これからは自分たちを起点に争いが起こるという点だ。タツマの話はそんな予感を彷彿とさせる。



「この作戦で明らかになるだろうけどね、おそらく、敵は君たちを認識して、且つ得ようとしている。これからもまだまだ襲われるぞ」



 タツマが意地悪く笑った。両腕を組み、さあどうすると、二人に尋ねた。



(そういう約束だし、協力するのは、俺の場合は決定事項っていうか……問題は)



 孝宏がマリーに視線を送ると、マリーも孝宏を見ていた。目が合うと頷く。孝宏も頷き返した。









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