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冬に咲く花 24


 孝宏が家の正面に回ると、ルイが一人で帰って来る所だった。


「あれ、マリーは?一緒じゃないの?」


 先程まで一緒にいたはずのマリーの姿が見えない。林の中で一緒に魔法の訓練をした後は、大抵において、二人一緒に帰ってくる。

 孝宏の悪気のない疑問がルイの癪に障った。ルイが孝宏の肩を強めの力で掴み、真顔でやや口を引きつらせる。


「お前のせいだぞ?タカヒロが帰ってこないから探しに来たんだよ。マリーはカウルと町に行った。自分の武器が欲しいんだって」


 なるほど、孝宏は納得した。いつも二人っきりで練習していたのに、カウルがいた上に二人で町に出かけたのだから、マリーに思いを寄せる彼としては面白くなかったに違いない。


「マリーとカウルはデートなのか。俺、ルイはそういう時、絶対邪魔すると思ってた」


「はあぁ?」


 孝宏がワザとルイと煽ったのは、憂さ晴らしのちょっとした冗談だったのだが、想像以上にルイはダメージを受けている様子だ。明らか不機嫌が増し、眉間の皺が深く刻まれる。


「だから、タカヒロのせいだって。中々帰ってこないからタカヒロを探してこいって言われたの。じゃなきゃ二人で行かせるわけないじゃないか」


 孝宏の肩にルイの手の爪が食い込む。孝宏にとってはいつものやり取りのつもりだったが、いつもより明らかに機嫌が悪い。

 おそらくは孝宏がいない間に何かあったに違いない。孝弘は痛みに歪む顔に無理やり笑顔を貼り付けルイを見上げた


「俺が悪かったって。大事な用事ほってまで来てくれて感謝してるよ。ホント」


「僕のこと馬鹿にしてる?」


 ようやく肩から手が離れ、孝宏はホッと息を吐いた。服の襟をめくって見ると、ルイの爪の痕に薄い表皮が向けていた。ルイの目に気づかいの色が浮かぶ。やり過ぎたと思っているようだ。


「いやいや。別にこれは……あっと、それよりさ。これ、見てよ。わかる?」


 もとはと言えば、あからさまに挑発した自分にも非はある。慌てて話を変えようと、孝宏がズボンを少し下にずらしシャツをめくって見せたのは、さっき発見された≪凶鳥の兆し≫だ。


 痣を目にしてすぐにルイが口を開く。


「痣?……これマルッコォイドリに見えるけど………まさかねえ、これ凶鳥の兆しってやつじゃないよね?」


 すんなりとその名称が出てきて、孝宏は内心ショックを受けていた。ルイは自分に同調してくれるのではないかと、淡い期待のようなものがあったが、ルイの反応を見る限りある程度の覚悟をした方がよさそうだ。


 痣だけ見せてルイが躊躇するようなら、安心できると思ったのにそう簡単にはいかない。


「これ、火事のあった日からあるんだ」


 さっき存在に気が付いたのだがあえて伏せて、あくまでも推測でしかない火事を口にした。八つ当たりの自覚はある。

 痣に気づかず、凶鳥の兆しの存在すらも忘れていた自分のことは棚にあげて。あの時信じてくれればおそらく痣にも気が付いて、カダンに怒られずに済んだのにと。


 怒ったカダンがあれほど怖いと思わなかった。気遣い見せてくれる時はいつも優しくしてくれる彼だから、その分反動は大きかった。ショックは若干和らいだとはいえ、しばらくはカダンと真面に会話する自信が、今の孝宏にはない。


「そこで何してるの?」


 背後から声がして、一瞬自分の中の時間が止まった。


 家の扉を背にしている孝宏に声の主は見えなかったが、なぜだろう、声の主がどんな顔をしているのか想像に容易い。


「ルイに話があるんだけど………良いかな?」


 尋ねているのに、有無を言わさない威圧感。返事をしたルイの笑顔が、ピクピクと引きつっている。


「僕何かしたかな?」


 口からこぼれた声を、聞き逃さなかった。カダンには聞こえないであろう小さな声は、孝宏を凍り付かせるには十分な威力だった。


(仲良くなれるかもなんて、やっぱり俺の気のせいだ)





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