冬に咲く花 23
「俺、もっとちゃんと聞くべきだった。ごめん」
今度は素直に頭を下げた。
正直痣は鳥には見えないが、奇妙な痣なのだから気が付いても良かったのだ。カダンの怒りは全てが的はずれでもなく、最もな部分もある。
「もういいよ。とにかく食事の用意をしよう。もうすぐ正午だろうし」
カダンは抑揚のない声でさらりと言った。そのまま正面ではなく勝手口へと向かう。
孝宏の左肩をかすめて通り過ぎる時、孝宏は反射的に≪ゴメン≫と口から出た。だがそれだけだ。声をかけようしたが何も言えず、背中を恨めしげに眺めるだけ。
こういう時バシっと、はっきりモノを言えたら、少しはらしくなるのだろうか。
《手伝うよ》の一言が言えれば、何かが変わるのかしれないのにと思っても切り出す勇気が出ない。
と言うのもこの世界に来て、彼らに世話になってすでに一か月以上。カダンと言葉を交わし回数は、ほかの誰よりも明らかに少なかった。他の人には感じなくなった緊張感が、カダンに対してだけは今だ孝宏の中にある。
カンギリの樹液に塗れた自分を助けてくれたあの日、確かにカダンに感じた安心感はどこへやら消えてしまっていた。
孝宏は家の角を曲がって姿が見えなくなったカダンを、小走りで追いかけた。
「ま、待って。……わっ!?」
角を曲がってすぐの所で、カダンがこちらに背中に向けて壁に寄りかかっていた。もっとずっと向こうにいると思い込んでいた孝宏はぶつかりそうになって慌てる。孝宏はカダンが自分を待っていたように感じて嬉しくなった。
これはきっとドラマなどで男同士の友情が芽生えるきっかけになるアレだ。
「あのさ……俺……」
振り返ったカダンは腕を組んで、先ほどと同じ冷たい視線を向けてくる。
(あ、これ違う)
「ご飯の用意は別に気にしなくて良いよ。魔力を操作できないんじゃ台所使えないし。魔法の訓練した方が良いと思う」
カダンの言葉が孝宏の心を容赦なく抉り、勘違いしたのが恥ずかしい。ドラマとは違う、現実なんてこんなものだ。友情どころか亀裂が入りそう。
(いや、初めから友情すら芽生えてないんじゃ、亀裂が入りようがないか)
軒並み年上ばかりの環境で唯一同じくらいの男の子。仲良くなれるのではないかと期待していた頃が今ではすでに懐かしい。
「大丈夫。タカヒロならできるよ」
俯いていたのでカダンの表情は見えなかったし、抑揚のない冷めた声だった。
孝宏がハッとして顔を上げた時には、台所に通じる裏口に手をかけていて、ドアの向こうに消える背中を見送る。
「頑張るよ!」
声が彼に聞こえたかどうかは解らないが、孝宏はフンと大きく息を吐いて気合いを入れた。




