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夢に咲く花後編16



 ここから少しばかり時間が遡る。




 検査を終えたルイが図書館に行きたいと言い出した



「どうして今なの?明日じゃダメ?」



「ずっと行きたいと思ってたんだ。あそこには僕の知らない魔術書が置いてあるし、将来の為にも勉強したい。カウルの事は心配だけど、カダンがいるから大丈夫だし。この機会を逃したくない。だから……」



「わかった」



 カダンは検査を担当した所員に外出の手続きをお願いすると、自身はタツマの所へ行った。

 ルイは許可証を貰うと、門のところまで転移魔術でサッと移動した。


 門番には外出の件がすでに伝わっており、ルイが門の前に現れても慌てた様子なく、対応も淡々としたものだ。


 ルイが許可証を渡すと、門番は魔術具をすべて外すよう言う。



「全部ですか?」



「もちろん、全部です」



 ルイが身に着けている魔法具の数は多い。

 指輪にペンダント。耳飾りにブローチ。ブレスレットとアンクレット。それも一つずつではない。ジャラジャラと次から次へ、服の中からも出てくる。

 魔法具をすべて外し終えると、門番が示した台の上には小さな山ができていた。



「これだけのものを良く付けてられましたね」


 門番も感心した様だ。


「久しぶりに外したから体が軽いや」



 魔術具自体の重さはもちろん、魔力を常に消費する為に、負荷が一気になくなった気分だ。ルイは口元も笑みに似て歪ませる。


 その後、身体検査と持ち物検査を終えると≪全部付け直すのは面倒くさい≫と言って、ルイは耳飾りとペンダント指輪だけを身に着けると、残りは鞄の中に無造作にしまった。


 魔術研究所を出たルイは、魔術を使い空を飛んだ。

 ふわりと浮き上がり、傍から見れば頼りなさげにフワリフワリと空を進む。


 ルイは王都の地理に疎い。調べれば地図もあるだろうが、ルイはまっすぐ国立図書館に向かわず、ひとまず、人通りの少ない裏路地に降り立った。


 周囲を見渡し、誰もいない事を確認すると脱力し、大きく息を吐きながら地面に座り込んだ。



「疲れたぁ……」


(それにしても、緊張したぁ。まだ心臓がバクバクしてるや)



 ルイは図書館に行くために出てきたのは間違いないが、それは自身の勉強の為ではなく、

 ある目的から異世界について調べたかったからだ。


 勇者に固執しているカダンに言ったとしても、自分の意見は受け入れられないだろう。そう考えたルイは一人でやろうと決めていた。


 しかし、それは簡単な事ではなかった。

 邪魔されないようバレない必要があったが、嘘を簡単に見破るカダンをかわす為に、本心を魔術で隠し、自身に暗示をかける必要があった。自分が忘れていても、無意識に本来の目的を遂行できるよう準備もした。

それらの魔術が見つからないよう、いくつもの魔術具で念入りに誤魔化し隠さなければならず、おかげで、いつもより多くなってしまった魔術具に、体は心底疲れたが、目的の解らない魔法具を外さず、その上、しっかり図書館に向かえた。


 第一段階は成功といえるだろう。


 ルイは僅かな合間、目を閉じて息を整えていたが、やがて立ち上がり表通りに向かっていった。国立図書館へは人に道を尋ねて向かう。大きな建物だ。さほど苦労なく見つかった。


 ルイは図書館に着くと、神話が集められた区画へ向かった。

《イ世界≫などいう聞いた事のない物を調べるにあたり、ルイは一つだけ心当たりをつけていた。


 この世界において、通常≪別の世界≫というのは神々が住まうところを指す。イ世界と神の世界、どちらも≪別の世界≫であるなら、そこに手がかりが見つかるかもしれない。



 ルイはそれから時間を惜しみ、一心不乱に本を読み漁った。

 神話をまとめた(もの)から、神々の遺跡や神と関連付けられている過去の出来事。関係がありそうなものを片っ端から。しかし、当然というべきか、異世界に繋がりそうな、決定的な記述は見つからなかった。

 ただ、民間の言い伝えをまとめた本に、いくつか、摩訶不思議な所へ行った者の話を見つけた。

 神の国を思わせる描写の、その場所にはいくつかの共通点がある。


 一つ目は不思議な場所に行く、その方法だ。概ね二通りに分けられた。


 一つは山を登り、その頂きから入る方法で、もう一つは門を潜るというものだ。門には門番がおり、物語では必ず主人公の行く道を阻む者として描かれている。門番の描写も、男であったり、女であった、精霊であったりと様々で、使用する能力も、人と同じく魔術を使うが、植物などの自然物を使役する者とに分けられた。


 ルイには想像もつかない、お伽話にしか思えなかった。



(だからといって山ね。頂上が雲に隠れる程の山って……ありすぎるし。いや、常時隠れているとしたら……そんなのあるかなぁ)



 しかし神の国に通じる山は、民話だけでなく、神話の中にも出てくるのだ。山に絞って調べてみるべきか、ルイが考え込んでいると、突然肩を叩かれた。



「やあ、こんにちは。シエクラ……ルイ君?」



「えっと、ヒタル……さん?」



 ナキイだった。軍服を着ていない、私服だ。何故こんな所にとは言わない。ここは王都だ。王子の護衛をしている人なら居て当然だろう。

 ただ図書館というのに、ルイは意外に思った。カウルや孝宏と同じく筋トレが好きそうな外見をしているから余計に、縁遠い場所に思える。



「こんなところで会えるなんて驚いたよ。あれから大変だったそうじゃないか。君たちの活躍はウチでも噂になってるよ」




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