夢に咲く花後編12
この状況で世間に隠し通すのは不可能に近い。
故に世間を安心させる為に対抗手段を手に入れようするはずと考えた。
「あの山の化け物のような規格外はめったにいないよ。ルイから提供された武器だけで十分だ。幸運な事に戦力は問題ない」
(認めた。やっぱりずっと化物は人を襲ってたんだ。ルイの武器だけで対処可能だって言い切るくらいにはそっちゅう現れてるんだ)
孝宏はタツマが交渉を打ち切らなかったことで手ごたえを感じた。少しでも有利な条件を付ける為にもここで押し負けるわけにはいかない。
孝宏は畳みかける。
「確かに手っ取り早い対抗手段は、ルイの作った武器です。でも揃えるのに時間がかかるし広範囲に使えない。ルイのお母さんの魔法を使えば広範囲攻撃も出来るでしょうけど、それがどれほど危険かは現場の兵士達がよく知っているでしょう」
オウカの魔術がどれだけ危険かなど、実の所孝宏は良く分かっていない。当てずっぽうだった。
しかし根拠はある。オウカの魔術がそのまま使えるのなら、蜘蛛の作戦の時ルイ達に協力を要請しないはずだ。
タツマの眉間の皺が深くなったのだから的外れという事もないのだろう。
「ごり押しして現場の士気が下がるような事があれば、戦士はいなくなり、守り手がいなくなるかもしれない。だからこそ、兵士たちが見聞きして実際に知っている力を欲しがるはずです」
「君は本当に賢いね」
タツマが大きく溜息を吐き、ソファーに深く座り直した。諦めたようにも見えるが、孝宏は気を引き締めた。
孝宏は自分の考えが間違ってないと確信したが、同時に湧き上がる一つの疑問がまだ終わっていないと警告するのだ。
なぜ、カダンは軍でなく魔術研究所に孝宏たちを連れてきたのか。
今の孝宏の言い分だけなら、あの時、ソコトラで軍に引き渡して良かったのだ。わざわざここまで連れてくる理由など皆無だ。
そこには必ず理由があるはずなのだ。
(戦場に立つのも、モルモットになるのも絶対にごめんだ)
孝宏は拳を握った。
「君の望みは何だ?軍部にコネはある。君が戦場で死なない様に私にできるだけの事はしよう。約束する」
「本当ですか?途中で約束を破るなんてことはないですよね?」
「書面に残しても良い。とはいえ私の権力も限度がある、が、戦場で君が死なない為に出来るだけ望みにそうよう努力しよう。上手く行けば戦場に立たなくて済むかもしれない」
「タツマさん!?」
初めてカダンが声を上げた。本当に良いのか、カダンの目が訴えている。
「坊やの目を見てごらんよ。ここで強硬な手段に出てごらん。ここはあっという間に火の海だ」
カダンはようやく孝宏が握る拳に気が付いたようだった。ハッとして立ち上がり、孝宏から離れる。
カダンはここまで連れてくるのが仕事で、今も孝宏を逃がさないよう見張る役目を担っているが、それだけだろう。
孝宏は決定権を握るであろう人物を見据えた。
「ではタツマさん。俺の望みは命です。痛いのも嫌いです。実験動物として飼われるのは絶対に嫌なんです」
タツマは瞠目し、不愉快さを隠そうともせず、大きく息を吐き出しながら、背もたれに体を預けた。
「全く本当に悟いね。本当の狙いはそちらか。良いだろう。約束しよう。命に関わるようなことはしないし痛みを伴う実験もしない。客人として持てなそう」
孝宏の考えはおおよそ正しかった。
ただ付け加えるなら、敵に対抗する手段をふさがれないためにも、オウカのとは別の魔術が必要なのだ。
上層部は軍にその力が欲しかったし、タツマは力を解明したかった。だから、調べる前に軍に取られないように、カダンにここまで連れて来るよう頼んだのだ。
本当なら助けるためと言い丸め込むはずだった。
恐怖心を煽り、絶望に叩き落し、甘い誘惑で、交渉を有利に進めるつもりだった。
その為にわざわざ孝宏とマリーを分断したのだ。
「しかし、その代わり、君の力を解明することに協力をして欲しい。私の目的はそれだけだ。戦場に立ちたくないというのなら、なおさらだ。君の力が解明できれば、君が戦場に必要がなくなるんだから。悪くない話だと思うが?」
「本当に命に係わる事、痛い事はしないんですよね?書面にのこしてもらえますか?」
「もちろん。きちんとしたのを用意しよう。下手なことをして、君にすべて灰にされたくもないしね」
タツマの要望に対して、孝宏が一度も頷かない事に、タツマが首を横に振った。しかし口元は笑っている。
タツマはさっそく耳の通信機で何処かに連絡し、契約書に使う紙とペンを持ってくるよう指示を出した。