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冬に咲く花 20

 孝宏の両手から勢いよく吹き出した炎に弾かれて、カダンは背中から地面に倒れた。意識は失っておらず、すぐに起き上がり頭を振る。


 炎は孝宏の掌から吹き出して上へ昇る。両手を地面に付いて体を支えていたため、吹き出した炎は孝宏を一気に包み込んだ。

 孝宏から感じられる炎は不思議と熱くなく、だからと言って別の何かである様でなく感触もない。オレンジ色の揺らぎに下から包み込まれた。ただそれだけの感覚。

 あの晩の痛みは思い出せなかったが、全身を焼かれ絶望した記憶が鮮明に思い出された。てっきり同じように焼かれるのだと身構えたのにこれでは拍子抜けだ。

 蝶も飛んでいないし熱くもない。だか違う現象と言い切れずすっきりしない。


 孝宏が炎に包まれていたのはあっという間だった。炎は散るように、パッと弾けて消えてしまった。


「カダン……大丈夫?」


 状況はさっぱり解らないが孝宏はとりあえずカダンの身を案じて声をかけた。それなのに帰って来た答えは答えになっておらず、初めはカダンが冗談を言ったのかと思った。


「タカヒロ、今すぐ服を脱いで。」


 冬の真っ只中、誰もが厚着して暖をとっているというのにだ。よりにもよって外で裸になるなどと、冗談でしか済ませられない。

 孝宏は両膝を地面に付いたまま、上着の前部分を合わせて固く握り締めた。


「嫌だよ。決まってるだろう?」

 

 カダンは一見落ち着いているが、息を潜めこちらを伺う目に苛立ちが見える。


「少しでイイから……ね?」


 カダンは口元のみに笑みを浮かべ小首をかしげる。


(ね?って少しも可愛くない。こえぇぇぇ)


 孝宏は肩をぐいっと押され、不安定な姿勢のままころんと後ろに半回転した。地面の上で仰向けになる。視界には空と屋根の端っこ、そこにカダンが割り込んできた。


 胸の前でしっかり閉じた両腕を、無理やりほどかれ、片手で頭上に固定された。


「すぐ終わるからじっとしてて。乱暴はしたくなんだ」


「カダン、頼むから、状況を説明してくれない……かな?」


 孝宏の声が震えた。彼が本気だとわかったら、自分がどうなるのか怖くなった。


 始めの彼とあまりにも違いすぎる。からかい半分の雰囲気がガラリと180度変わった。目つきはさらに険しいものとなり、孝宏など簡単に殺されてしまいそうだ。


「タカヒロから変な匂いがするんだ」

 

 本当ならここで嫌がって、多少なりとも抵抗するのが正解かも知れない。だがカダンの気迫が、そんな気も奪い取ってしまい体が動かない。震えるばかりで怯えてカダンを見上げるだけ。涙を流さないのは、最後の抵抗だった。


 カダンがシャツを捲し上げた。むき出しの肌が冬の寒空に晒される。




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