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タツマは孝宏たちに、先に王都へ帰るよう言い、研究所の所員三名が同行するよう命じた。
カノ国の事情にも明るい所員の一人が帰路の計画を立て、別の一人がただの木箱を馬車に変え、更に別の一人が輓獣の代わりに精霊を召喚した。近くの町まで牽引した後、その町で馬を買い、国境を目指す。
陸路を行くにあたり、最も問題だったのは時間だった。
国境検問所はヘルメルが準備した身分証があるので、出国の手続きは通常通り行われた。
しかし国境に到着するまでに二日かかり、そこから王都まで距離がある為飛行船に乗るのだが、その町まで三日はかかる。
街道を行くとはいえ、未だ正体不明の、蜘蛛やソコトラを襲った化物たちが闊歩しているのかもしれないと思えば、研究所の所員らはひたすら周囲の警戒に身をやつしていた。
カダンとルイとマリーの三人が、周囲を警戒しつつも他愛もない会話に花を咲かせるのを横目に、孝宏は時折会話に混じる以外はひたすら魔力を動かす練習に明け暮れた。
馬車が揺れ、王都へ近づけば近づく程、孝宏の中の不安は大きくなっていった。
カダンの目的はさっぱり見当もつかなかったが、カダンが前より落ち着いて見えるのが、孝宏には恐ろしく感じられた。
カウルを心配しているが故に、気落ちしてそう見えるのだろう。
一度はそう考えた孝宏だが、カダンを観察し自身が漠然と感じている違和感の正体に気が付く。
アノ国の者が傍にいるのに、カダンは彼らに対し警戒していない。兵士相手にはあれほどピリピリしていたのが、今はまるで嘘のようだ。
カダンはアノ国の敵ではないのかもしれない。じゃぁ、問題は軍の方にあったとか……例えばスパイが潜り込んでいるとか?それをカダンが気が付いて……でもそれだと俺たちに隠す理由がないよな。
それにカダンの変わりようが怖い。いろいろ諦めたって雰囲気じゃない。割と普通に笑っているし。まさかこうなることを予想して……?今この状況がカダンの思惑通りとか?
王都は……関係ないか、元々行くはずだったんだし、それにでもそれならナキイさんたちだって戻るんだし、何で軍の人達だけ……あ?あれ?
待て待て……町にいた時はどうだったっけ?確か俺たちは記憶喪失者と知って保護されたって体で……どうせ変な目で見られるからってカダンが……そう言って、俺たちも合わせてたんだよな。そうか、違うんだ。カダンは初めから他の人を警戒してたって風に取れる。
そうか……逆だったのか
軍関係者だけに対し警戒していたのではなく、正確には、周囲を警戒していたカダンが何故か魔術研究所だけには警戒心を持たない。特にタツマ相手には初対面とは思えない程の慣れがあった。
――カダンの目的は、俺たちを魔術研究所に連れていく事かもしれない――
孝宏がようやく一つの結論に達したのは、王都へ向かう飛行船の中だった。




