夢に咲く花 106
その時孝宏の心の中で魔術が苦手なカ双子の片割れの事が思い出された。魔術の才能はすべてルイに吸い取られたかのように、魔術に対する二人の接し方は対照的だ。少なくとも孝宏の目にはその様に映っていた。
しかしルイはまるで孝宏の心中を見透かしたように鼻をフンと鳴らしニヤリと、口角を上げた。
「天才ならもう二人いるじゃないか。カダンはもちろんだけど、カウルは魔術具の扱いが天才的で……」
「カダンも?」
説明を続けるルイを他所に、孝宏は一言だけ呟き考え込んだ。眉間の皺が深くなる。
大体、カダンのどこに才能があるんだよって思ったけどさ。よく考えて見れば、ルイと対等に魔術の話をするカダンに、実力が伴っていないわけないんだよな。
「……は魔力の扱い……性能を…………セント…………難しい……」
初めてこの世界に来た時の、あの魔法陣だって。本を見て確認しなきゃいけなかったルイと違って、カダンは間違いをすぐに指摘できたんだから……いや、あの時もすげぇとは思ったけど……あれって結構すごいことなんじゃ。
「八……力を満たして……過剰に込め……………………無駄、多くの………………留めるん……」
今は罪悪感がるから、あいつらに色々協力してるけど、そもそも俺はカダンを信用したわけじゃないし。
今の話が本当なら、状況はより悪くなったよな。
カダンが何かしら良からぬことを企ててるとして、普段は普通に反論もするのに、何かあった時はカダンの言いなりになってるルイとカウルが、俺に協力するわけがないから。
たださえ不利な状況なのに、その上才能あふれるとか、マジ勘弁してほしい。
「最低限の……………多くない。魔術具も……」
そもそもカダンの事がなくても、あの二人が俺に協力はしないか。ま、良いけどさ。いっその事マリーを巻き込んだろうが確実だよな。上手いこと味方につけられれば、あの二人も無視出来ないはずだし。マリーをこちらに引き込むには、あいつの正義感に訴えるしかないよな。てか案外チョロそう。ヒーロー様は困ってる市民を見捨てないだろうしな。
「その…………………性能も落ち……作り手…………魔術具…………ウルは……………………………魔力で満たし、本来それが持つ………………引き……」
だから二人は何とかなっても、問題はカダン本人だよな。あいつの攻略法を見つけないといけない気がする。とはいえだよ、カダンって耳も目も鼻も良いし、狼になった時の身体能力は、俺から見ると化物並みだし、それに加えて今、ルイ曰くだけど、魔法も天才的だと分かったわけだし…………あっれぇ?これって無理ゲー過ぎん?
「カダンだ…………なのに魔…………制御してさ。暴走…………………………難し……、知識……………………僕より詳……」
いやいや、何かあるはずだ。カダンにだって盗賊に襲われた時、一度は拘束されてるわけだし。普通の人間なら何かに気を取られている時は、他はおなざりになりやすいから、カダンが何かに気を取られている隙に逃げ出すとかはできるかもしれない。どれだけ長い事気を引けるかで成功率が上がる……はずだけど、肝心の気を引く方法が思いつかない。いっそのことカダンが一番大切にしている奴を利用して……でも結局それって、多分だけど、カウルとルイだよな。じゃあ、やっぱりすべてのカギはマリーがにぎ…………
「……って聞いてる?」
「え?」
孝宏が無意識の内に伏せていた視線を上げると、呆れ顔でルイが孝宏を見ていた。
孝宏は誤魔化そうと首を縦に振ったが、、上手い言葉が見つからず、口を開いたまま目が泳ぐ。
孝宏はそのまま素直に謝れば良かったのだ。そうすれば、ルイももう一度話す気になったかもしれない。
「もう良い。二度も説明しない」
ルイはそれだけ言うと息を一気に吐き出し、その後、孝宏が何度謝っても同じ話はしてくれなかった。